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No.83『沸点の高さも兼ね備えた人材』

佐原「今年の新入社員は5人だ」


根岸「おお、けっこう採りましたね。今うちの従業員ぜんぶで4人だというのに」


佐原「ああ、奮発してみた。今回の新人のうち、2人が新卒だ」


根岸「なるほど、育成に期待がかかりますね」


佐原「残り3人が潤滑油」


根岸「うん?」


佐原「潤滑油だ。本人らが言うのだから間違いない」


根岸「潤滑油……」


佐原「人間関係に長けているらしい。これまでも潤滑油のように、ぬるぬるしてきたのだろう」


根岸「ぬるぬるはともかく」


佐原「ともかく」


根岸「新人をいれて、9人しかいない会社に、要りますかね、3人も、潤滑油」


佐原「いらん!」


根岸「なぜ採った」


佐原「採用担当としては、彼らのその、油になりたいというぬるぬるした熱意に惚れたのだ」


根岸「3人も……」


佐原「潤滑油のうちひとりを根岸クンに任せるから」


根岸「えぇ……、潤滑油を……」


佐原「なんかこう、教育してやってくれ」


根岸「はぁ」


佐原「教育してこう、サラダ油とかにならんかね」


根岸「ならんでしょうよ、サラダ油には」


佐原「サラダ油はクセが比較的少ないし、長期保存に向いているぞ。冷蔵庫に入れても結晶化しにくいのが特徴だ」


根岸「……。 扱いやすく、辞めにくく、企業に不満を持ちにくい人材、と?」


佐原「おお、すごいね根岸クン、適当に言ったのに、それっぽい解釈だよ」


根岸「適当に言ったんですか」


佐原「うん、そんな感じに育ててくれ」


根岸「簡単に言うなぁ」


佐原「そうかー、それなら最初からサラダ油雇えばよかったなぁ。ついつい潤滑油ばっかり雇っちゃったよ」


根岸「まあ、「自分はサラダ油のような人材です」なんて就活生はいないでしょうね。面接官がポカーンとしそう」


佐原「私なら間違いなくポカーンとするね。まあ潤滑油も説明聞くまでわかんなかったけど」


根岸「潤滑油は割と有名ですからね、知っといてもいいんじゃないですか?」


佐原「うむ、さっき知った!」


根岸「それはよかった」


佐原「潤滑油の一人は、根岸クンがサラダ油にするとして」


根岸「決定事項なんですか」


佐原「業務命令」


根岸「マジか」


佐原「マジマジ、マジ卍」


根岸「……最近覚えたんですか?」


佐原「さっき潤滑油Bに教えてもらった」


根岸「何ふつうに仲良くなってるんですか」


佐原「いい子だったよ、潤滑油B」


根岸「さいですか」


佐原「Bは、そうだなぁ、エキストラバージンオイルとかがいいかな」


根岸「何がですか」


佐原「成長先」


根岸「そんな、育成ゲームじゃないんだから」


佐原「Bは女の子だが、エキストラなバージンにしてやってくれ」


根岸「……」


佐原「エキストラな、バージンに」


根岸「……その発言、大丈夫ですか?」


佐原「何が?」


根岸「いや……。まあいいですけど。というかそもそも、潤滑油は食用油とは違うじゃないですか」


佐原「はっ!」


根岸「どうしました?」


佐原「そうか、潤滑油ってことは、あいつら、食えないヤツってことか!」


根岸「新しい解釈ですね。しかしそれだと、食用油だったら食わせ物になるんじゃないですか?」


佐原「おお! 一杯食わされるかもしれなかったのか!」


根岸「ですねぇ」


佐原「油を!」


根岸「すごい胸焼けしそう」


佐原「よかった、潤滑油で」


根岸「食えないヤツですけどね」


佐原「どっちもどっちだなぁ……」


根岸「しかし、サラダ油はともかく、自分が教育側かぁ……」


佐原「Cは潤滑油のままでいいかな、一人も潤滑油がいなくなるとそれはそれで困りそうだし」


根岸「あの」


佐原「ん?」


根岸「そもそもなんですが、潤滑油って必要なんですか? わが社に」


佐原「アホな根岸クンは知らないかもしれないが、実は今、ものすごくギスギスしているのだよ、わが社」


根岸「……マジすか」


佐原「マジ卍!」


根岸「……その動きも潤滑油Bが?」


佐原「うむ、赤い帽子の似合うよい子だったぞ潤滑油B」


根岸「……野球好きか」


佐原「ところで、うちに潤滑油が必要なのかという話だが」


根岸「あ、はい」


佐原「社長を解任させようという動きがあるらしいんだ」


根岸「……」


佐原「中立派と、反社長派と、半社長派がいる、これではわが社は内部分裂してしまう」


根岸「二つ目と三つ目が同じように聞こえましたが」


佐原「よく見るんだ」


根岸「……なるほど」


佐原「ね?」


根岸「なんですかその半社長派って」


佐原「どちらにも属さない、孤高のぼっち、その名も根岸クン」


根岸「自分ですか」


佐原「まあそんな感じで、ギスギスしてるんだよ、今」


根岸「ふむ」


佐原「そこで潤滑油! きっと怒ることもない、穏やかな子たちだよ!」


根岸「あの、ちょっと素朴な疑問なんですけど」


佐原「はい」


根岸「新人5人ですよね?」


佐原「うん」


根岸「先輩、4人ですよね?」


佐原「そうだね」


根岸「教育係、足りないですよね?」


佐原「大丈夫。潤滑油Cはそのまま潤滑油でいてもらうから」


根岸「え、あれ、仕事は? 誰が教えるんですか?」


佐原「彼の仕事はぬるぬるすることだよ」


根岸「えぇ……」


佐原「求人にも『潤滑油募集。ぬるぬるに自信のある方』って書いたもの」


根岸「マジか……」


佐原「マジ卍!」


根岸「ストライクにしか見えない」


佐原「何が」


根岸「いえ別に」


佐原「まあ、これで社内のギスギスもぬるっと解決できればいいんだけど」


根岸「ぬるっと」


佐原「つーかさー、そもそもさー、4人しかいない会社でさぁ……」


根岸「ああ、それは思いました。社長と、中立派と、反社長派と、半社長派に割れたら」


佐原「そうなんだよ、既に四分割」


根岸「というか、単純に一人が社長に怒ってるだけなんじゃ……」


佐原「ほんとそれ。よく怒られる」


根岸「社長が遊びすぎで、注意を受けてるだけなんだと思うんですが」


佐原「……はぁ、また怒られる前に、仕事に戻るかなぁ」


根岸「そうですね」


佐原「根岸くんも、油ばっかり売ってると怒られるぞ」


根岸「油を雇ってきたのは社長じゃないですか」




閉幕

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