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No.80『根菜人間♪』

佐原「にんっ、じーん!」


根岸「おう、どうしたやかましい」


佐原「自己紹介だ!」


根岸「そうか、自己紹介か」


佐原「ニンジンとしてな、ニンジンであることをこう、世間に知らしめたいと思うときがあるわけだよ」


根岸「なるほど、それが今だったと」


佐原「そう! この狭い日本から、ニンジンの俺を発信していく次第だよ」


根岸「ああ、狭い日本の、狭い家の、狭い野菜室からな」


佐原「うん、とにかく狭い。飛び出したいのだよ、ニンニン」


根岸「……」


佐原「ニンニン!」


根岸「……訊いたほうがいいの?」


佐原「訊いて! ニンニン!」


根岸「なんてわざとらしい」


佐原「いいから! ニンニン!」


根岸「……忍者なの?」


佐原「ニンジンだよ!」


根岸「おう」


佐原「ニンジンですよ!」


根岸「いや、ニンジンの、忍者なのかと」


佐原「ぐぬうう!」


根岸「ぐぬううって……」


佐原「何故バレたし!」


根岸「えぇ……」


佐原「いかにも、ニンジン忍者でござるよ! ニンニン!」


根岸「さっきまでそんな語尾じゃなかったのに」


佐原「どうやってこの完璧な変装を見破ったのでござるか」


根岸「いや……、なんか……なんとなく」


佐原「なんとなくでこの忍びっぷりを見破るとは、なかなかやるな」


根岸「狭い野菜室だし」


佐原「かくなるうえは、忍法、野菜室!」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「しまった既に見破られていた」


根岸「そうだね」


佐原「いやまあね、今更忍ぶ必要もないといえばないんだよ。実はもう、忍びじゃないんだ俺」


根岸「抜け忍ってやつか」


佐原「抜けたというか、引っこ抜かれたというか」


根岸「……」


佐原「ズボーって」


根岸「ああ、土から」


佐原「そう、生まれた頃から土遁の術で忍んでたんだけどね、そりゃもういきなりズボーって」


根岸「まあ、葉っぱ丸見えだったろうしな」


佐原「でもさ、葉っぱはほら、水の中の忍者が空気を吸うための竹筒とか竹輪みたいな感じだから」


根岸「ふむ」


佐原「無いと死んじゃう」


根岸「たしかに」


佐原「と、まあ、かくかくしかじかニンニンあって、俺は今この野菜室を根城にしているわけだな」


根岸「ふうん」


佐原「あ、そうそうニンジン忍者で今流行りの一発ギャグがあってさ」


根岸「いきなりだな」


佐原「引っこ抜かれた瞬間に、「拙者、これにてドロンさせていただきます」って言うの。土ついてドロドロの状態で」


根岸「ほんとに一発しかやる機会ないギャグだなそれ」


佐原「キミも機会があったら使うといいよ」


根岸「いや、まずニンジンじゃないし、忍者でもないし、そもそも俺ももう野菜室に居るわけだし」


佐原「それもそうか」


根岸「うん」


佐原「ところでキミは……」


根岸「ん?」


佐原「丸い、ええと」


根岸「じゃがいも」


佐原「あー、通りでなんか泥臭いと。これにてドロン、というかキミがドロン」


根岸「いやお前も大差ないだろ、土中に居た者としては」


佐原「たしかに」


根岸「まあ、短い間だろうけど、よろしく」


佐原「ああ、よろしく」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「今夜」


根岸「ん?」


佐原「カレーかな?」


根岸「どうだろうね」


佐原「夢だったんだ」


根岸「何、カレーになるの?」


佐原「そう! よくぞ聞いてくれました!」


根岸「急にテンションが」


佐原「俺の夢、そう俺の夢はカレー! 素敵で無敵なクッキングでみんなの人気者、カレーの具としてもてはやされたい!」


根岸「ほう」


佐原「わあこのニンジン、やわらかくておいしいね! とか言われたい!」


根岸「おう」


佐原「カレーの辛さとニンジンの甘味が華麗にマッチした優雅で淫靡なほにゃららら!」


根岸「あの……」


佐原「『ああダメっ、タマネギさんが見ているわ、ダメよニンジンさん!』」


根岸「あのさ、おい」


佐原「カレールーの中では、誰かの視線なんて、愛のスパイスにしかならないのさ! さあ白菜さん、僕が、キミを、甘口にしてあげるよ」


根岸「おい、こらおい」


佐原「なんだよー、いまいいところだったのに」


根岸「カレーに白菜を入れるんじゃない」


佐原「ダメか」


根岸「ダメだ」


佐原「ダメかぁー」


根岸「あとさ」


佐原「うん」


根岸「お前、さっきから自分のことニンジンニンジン言ってるけど」


佐原「うん」


根岸「……ダイコン、だよな?」


佐原「……」


根岸「白いし」


佐原「……し」


根岸「し?」


佐原「白ニンジンです」


根岸「太さがダイコンだろ。白ニンジンにしても、パースニップにしても、太さがもう完全にダイコンだ」


佐原「……し」


根岸「し?」


佐原「白太ニンジンです」


根岸「無理がある。演技とか勢いとか言葉でごまかせるレベルじゃない」


佐原「ダメかー」


根岸「ダメだなぁ」


佐原「でも……」


根岸「でも?」


佐原「俺だって、俺だってカレーの仲間入りがしたかったんだ!」


根岸「まあ、何にでも合うカレーだから、レシピとかはありそうだけど」


佐原「違うんだ!」


根岸「調べたら出てくるぞ、ダイコンカレー」


佐原「違う!」


根岸「何が違うんだ」


佐原「俺は、ニンジンとして、カレーに混ざりたいんだ!」


根岸「そんな我儘な」


佐原「何故だ……何故なんだ……」


根岸「ううん」


佐原「この届かぬ想い、カレーへの憧れは、恋心は、どうすればいい……」


根岸「まあ、あっちの隅っこに、ニンジンは既に居るものなぁ」


佐原「ああ、ニンジンが憎い!」


根岸「あ、あっちのニンジンがビクッとした」


佐原「いっそニンジンを殺して、私も死んでやろうか」


根岸「怯えてる怯えてる」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「あぁ……っ」


根岸「崩れ落ちた」


佐原「よよよ……」


根岸「……」


佐原「ああ……、ああカレー」


根岸「……」


佐原「どうして、どうしてあなたはカレーなの……あぁ……」


根岸「……ダイコンだなぁ」




閉幕

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