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No.56『笹に願いを』

根岸「夜風が気持ちいいですね」


佐原「ん、おー」


根岸「お疲れ様です」


佐原「おう、おつかれー」


根岸「七夕の後は、いつもここで?」


佐原「そうね、だいたいここかな。七夕の後は。―――土手で、ひとりで、缶ビール」


根岸「いいですね。天の川も綺麗ですし」


佐原「七夕の翌日だもんなぁ、そう夜空に変化は無いよな。昨日も、今日も、星空は綺麗だよ」


根岸「ですねぇ」


佐原「……」


根岸「横、いいですか?」


佐原「おー」


根岸「……」


佐原「凪いだ夏 揺れる景色と 缶ビール」


根岸「酩酊して揺れる景色と、夜風で揺れる草原がかかってるんですか、いいですね。―――誰の句です?」


佐原「俺」


根岸「へぇ」


佐原「……お、流れ星」


根岸「おー」


佐原「―――あんたは、流れ星に願い事とかしないんだな」


根岸「ええ、まあ。割と満たされてます」


佐原「ふーん。―――星ってさ、願い事、叶える力あるのかね」


根岸「どうなんでしょうね、星に願いを、とは言いますけど」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「何か、気にかかることがあるようですが?」


佐原「……んー……。―――あのさ」


根岸「はい」


佐原「なんで、笹なんだと思う?」


根岸「主食が?」


佐原「いやいや、七夕」


根岸「あー、笹に、短冊を吊るして―――」


佐原「そう、書くじゃん、願い事」


根岸「書きますねぇ。叶うんじゃないんですか? 願い事」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「……なあ」


根岸「はい」


佐原「俺、何者だと思う?」


根岸「笹」


佐原「だよね!? 笹だよね!? ねぇよ! 願い叶えるパワーがそのへんの笹にあるんだったらもう願い事叶いまくりだよ!」


根岸「あー」


佐原「織姫と彦星の話ちょっと調べてみ? 笹出てこないから! 俺、登場人物ですらないから!」


根岸「人物じゃないですしね」


佐原「そうじゃなーくーてー!」


根岸「出てこないんですか、笹」


佐原「出てこないんだよ! なのになんだこの、七夕といえば笹!とかいう謎の圧力! ただの笹でいさせて! 特別扱いしないで! ないから、不思議なパワー無いから!」


根岸「笹の葉には抗菌作用が」


佐原「お弁当を腐らせない限定の願い事なら叶えられます!」


根岸「やったぜ、笹すげぇ!」


佐原「わーい」


根岸「よかったよかった」


佐原「わーい、じゃない! よくない!」


根岸「ダメですかー」


佐原「願い事を書く物としてさ、絵馬とかはいいよ? なんかカミサマパワーで叶えてくれたり、後押ししてくれたりしそうじゃん?」


根岸「あれもまあ、願い事を書く物かと言われると微妙っちゃあ微妙だけど」


佐原「笹に、願い事を書いた短冊を吊るして、何したいの!? 意味不明!」


根岸「意味不明とか言わないでくださいよ、みんなイベントとして楽しんでるんですから」


佐原「そういうもんかなぁ」


根岸「うんうん、笹すげぇ」


佐原「あんまりすごいって実感ないけど」


根岸「いまさら笹意外で七夕できませんしね」


佐原「あ、っていうか、そもそもさ、織姫と彦星いるじゃない?」


根岸「いますね」


佐原「会ったことねぇし!」


根岸「そりゃまあ」


佐原「短冊吊るされてもこれ、どうやって願いを届けりゃいいんだよ! わかんないよ!」


根岸「真面目だなぁ」


佐原「だいたい、相思相愛の男女がだよ? 年に一回、一日だけ会えるって日だ!」


根岸「うん」


佐原「普通、そんな日に他人の願い事とか聞かない!」


根岸「うんまあ、そうかもしれませんけどね。そこはまあなんか、あやかろうって話じゃないんですかね?」


佐原「この短冊見てみ」


根岸「いろいろ吊るされてるなぁ」


佐原「笹だからな」


根岸「笹ですものね。―――なになに『梓とずっと一緒にいられますように』。小っ恥ずかしいですけど、いいじゃないですか、ピュアで」


佐原「うん、こういう恋愛系の願い事はまだわかる。織姫と彦星にあやかろうという気持ちも理解できる。この名前がアニメキャラでも、それはそれだ」


根岸「……うん、まあ、そこは個人の自由ですよね」


佐原「こっちの、こういうのが困る」


根岸「『何々大学に合格できますように』」


佐原「勉強しろ!」


根岸「正論ですけどね」


佐原「笹に頼むなよなー」


根岸「まあ、笹にお願いしてるわけじゃあないんでしょうけど。そういう見方すると、えらい切羽詰った感じになりますね」


佐原「だろ? 笹頼みっておまえ、割ともう大ピンチじゃん」


根岸「藁にもすがる、一歩手前みたいな」


佐原「笹も藁も大差ない気はするよ、願い事に関しては」


根岸「こっちの短冊は? ちっちゃい子かな」


佐原「あー、それはそれで困る系のお願い事だな、それは」


根岸「えーと、『プロ野球ボールになりたい』」


佐原「なんか、言いたいことはわかるんだけどなー。叶えたら叶えたで、両親泣くぞそれ」


根岸「でも、叶えられないんでしょ?」


佐原「そう、よかったよ、叶えられなくて」


根岸「いろいろあるんですねぇ、笹にも」


佐原「まあねぇ。ま、笹に頼るなってこった。俺は何も叶えてやれん。無力だよ」


根岸「そうでもないですよ」


佐原「そうかねぇ」


根岸「ほら、例えばこの短冊」


佐原「意味不明系な、なんだよ『笹食べたい』って。食えねっつの、繊維だらけで」


根岸「私の願い事なんですけどね、これ」


佐原「……は?」


根岸「割と叶いそうかなーって」


佐原「まさかあんた、パンダか……っ!」


根岸「いただきます」


佐原「ちょ、うわぁモリモリ食われていくぅ!」


根岸「もぐもぐ」


佐原「たすけてー」


根岸「叶うじゃないですか、願い事。あ、ビールまで用意されてる」


佐原「あぁぁぁぁ……」


根岸「もぐもぐ」


佐原「あぁ―――凪いだ夏 回る景色と 缶ビール、が辞世の句になるとはなぁ」


根岸「笹うめぇ」


佐原「いや別にうまいこと言ったわけじゃ―――」




閉幕

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