No.52『北風ちゃんと太陽ちゃん』
佐原「太陽さんよ、ちょっと勝負をしようや」
根岸「なにさ」
佐原「あのカップルの、どっちかのコートを脱がせたほうが今日の晩飯おごりな?」
根岸「いいけど、お前北風じゃん、なんかもう話そのまんまじゃん」
佐原「はは、なーに、勝算のない勝負はしないさ」
根岸「へぇ、じゃあまあ、俺の番になったら俺の勝利は確実だから、先どうぞ」
佐原「北風の底力をみせるときがきたようだな。びゅおおお」
根岸「底力ったって、風吹かすだけでしょ?」
佐原「太陽さんだって、ただ温かいだけじゃん。ハロゲンヒーターと同レベルじゃん。びゅおお」
根岸「なんかひどいな!」
佐原「その点北風の俺はさ、吹こうもんなら仲のいいカップルが身を寄せ合ってチクショウ!」
根岸「ひとりで忙しいやつだな」
佐原「俺が吹けば吹くほどカップルの距離が縮まるなんて耐えられない! 太陽さん、やっちまえ!アイツらを別れさせろ!」
根岸「趣旨が違う!」
佐原「別れさせられないなら、この勝負は引き分けだな」
根岸「えー」
佐原「あーやれやれ、はいはい、アツいアツい。なんだよあのカップル、太陽さんいらねぇじゃん。この役立たず!」
根岸「ひどい!」
佐原「お、次のターゲットが来ましたよ太陽さん」
根岸「女子高生か」
佐原「じゃああの女子高生のスカートをまくったほうが勝ちな?」
根岸「下世話だ」
佐原「ひゃっはー、じゃあまず俺の番な! びゅおおお」
根岸「この寒いのにミニスカかー、がんばるなぁ女子高生」
佐原「スカートめくれろー!びゅおおおお!」
根岸「なんか……なんだかなぁ……」
佐原「こら太陽さん! なに勝った雰囲気出してんだよ!」
根岸「いやなんか、人間的にお前よりは上かなぁって」
佐原「わー、聞き捨てならなーい。太陽さんだってエロエロのくせにー」
根岸「なにその言いがかり」
佐原「夏場にはワイシャツを透けさせるじゃない太陽さん、このエロエロ大魔神!」
根岸「あれはー、いや……」
佐原「認めちゃいなさい、あんたはエロい!」
根岸「あ、ほら、次の人が来たよ」
佐原「オッサンかー、テンションあがんねー」
根岸「じゃあ俺先行な」
佐原「えー、オッサン脱がす性癖までもってんの太陽さん、守備範囲ひろーい」
根岸「俺の不戦勝でいいのか?」
佐原「わかったよー、じゃああのオッサンのヅラ脱がしたほうの勝ちなー」
根岸「暑さで、脱ぐかなぁ……。サンサン」
佐原「なにそれ、太陽のサンと燦々とをかけてるの?」
根岸「ちょっと黙ってなさいよ。サンサン」
佐原「だめだな、変化なし。所詮太陽か」
根岸「所詮とか言われた! 地球全体にすごい貢献してるのに所詮とか言われた!」
佐原「ま、太陽なんて北風様のホクロの毛みたいなもんだな結局」
根岸「よくわからんがいい気分はしないなソレ」
佐原「じゃあまあ、俺のヅラ飛ばしパワーを見てるがいい。びゅおお」
根岸「なんだよヅラ飛ばしパワーって」
佐原「びゅおおお!」
根岸「……変化ないなー」
佐原「ヅラじゃないのかもな」
根岸「なんだったんだよじゃあ今の勝負」
佐原「いや、じゃあ別にコート脱がしてもいいんだけどさ。太陽さんが興奮しちゃうから」
根岸「しない! しないよ! オッサン脱がして興奮する趣味はないよ!」
佐原「仕方ない、じゃあコートにするかー」
根岸「っていうか今互いに全力尽くしたよね?」
佐原「あれが俺の全力なわけないじゃないか」
根岸「吹くだけだろう、北風さんなんて」
佐原「木枯らし吹かせるぜー」
根岸「初冬に吹く北風じゃん。結局北風じゃん」
佐原「知らんのか、これだから太陽風情は」
根岸「どんどん扱いがひどくなってる」
佐原「木枯らしっていうのは、初冬に吹く風だが、その語源は木の葉を落とす風、つまりは木を枯らす風という意味から来ているのだ」
根岸「んで、それが何なんだ、結局ただの北風だろう」
佐原「木を枯らす風が、ただの風だとでも思っているのか?」
根岸「違うのかい」
佐原「有毒な風が、全てを枯らすのだ!吹け!木枯らし!びゅおお!」
根岸「なんだそのヤバそうな風は!」
佐原「びゅおおお!」
根岸「うお、オッサンが倒れた!」
佐原「びゅおおお!」
根岸「木々が、草花が枯れていく! 人が次々と倒れていく!」
佐原「びゅおおお!」
根岸「ちょ、ストップ! すとーっぷ!」
佐原「どうだ!」
根岸「どうだじゃないよ、えらい事態になってるじゃないか!」
佐原「まあ、北風様が本気を出せばこんなもんよ」
根岸「なんだこの本気……。ウイルスとかヤバい細菌とかばら撒いたみたいだ……」
佐原「風は万病の元っていうからな」
閉幕