No.49『次回作』
佐原「ドアーッ!」
根岸「あ、博士、おはようございます。出てくるなりうるさいですね」
佐原「ドアーって叫びながらドアを開けると元気になる健康法じゃよ」
根岸「既に元気なんじゃないですかねそれ」
佐原「無理やり元気を出すことで、元気がなくても、元気になれるのじゃよ。根岸くんも起き抜けにやるといいよ、なんかいつもローテンションじゃし」
根岸「僕の部屋のドアは自動ドアなんで」
佐原「ふむ、自動でドアーッ!って音声が出る機能をつけておくよそのうち」
根岸「いりませんよそんな騒音機能」
佐原「そう。それは残念」
根岸「っていうか博士の部屋は自動ドアじゃないんですね」
佐原「いや自動ドアじゃよ。壊れて手動ドアになってるけど」
根岸「自動ドアじゃないじゃないですか」
佐原「自動ドアじゃよ、壊れてるけど」
根岸「まあ、いいですけど」
佐原「さてさて、起きて一発目の新発明、いっちゃう?」
根岸「寝てただけなのに新発明ができてるって、どういうことなんですか」
佐原「そこはほら、ワシ、天才だしぃ?」
根岸「そうですか」
佐原「ではでは、今回の新発明! これはすごいぞ! 天上天下新天地創造的な新発明!」
根岸「毎回思うんですけど、この何何な新発明、って部分、勢いだけで言ってますよね」
佐原「そりゃそうじゃ」
根岸「……」
佐原「ふふふ、ついにワシの時代が来たのじゃよ、いわばもう元号が儂になっちゃうくらいの新発明! 今年は儂元年じゃよ!」
根岸「儂元年……」
佐原「今回の発明は、これじゃー! ででーん!」
根岸「これは……でかい……」
佐原「うむ、でかい」
根岸「ロケットですか?」
佐原「ミサイルじゃ」
根岸「ミサイル……、兵器ですか」
佐原「世間でブームじゃからな! なんとなく!」
根岸「ブーム、かなぁ。兵器なんて作ってどうするんですか、危ないなぁ」
佐原「うむ、普通の兵器ならば、危ない。だがしかしこれは大丈夫、なんか大丈夫なミサイルなのじゃよ」
根岸「なんですか、なんか大丈夫なミサイルって、ぼんやりしてるなぁ」
佐原「うむ、これはいわゆる、ほんわか兵器のひとつでな」
根岸「初めて聞く兵器の分類だ……」
佐原「これに根岸くんをくくりつけて飛ばすと、ほんわかする。ワシが」
根岸「ひどい」
佐原「冗談じゃよ冗談、ミサイルジョーク」
根岸「なんだそのジョーク。博士をくくりつけて飛ばしますよ?」
佐原「うむ、それじゃ」
根岸「飛ばされたいんですか?」
佐原「あ、いや、そうじゃなくてね。その怒りの感情、そういった感情を、なんかほんわかさせるのが、このミサイルなのじゃよ」
根岸「……ほう?」
佐原「空中でミサイルが爆散し、人間の共感する神経あたりに作用するなんかアレが散布されると、みんななんかほんわかするのじゃよ。具体的には温泉に浸かったときくらいほんわかする」
根岸「リラックスするってことです?」
佐原「まあ、だいたいそんな感じ」
根岸「相手側の戦意を無くさせたりできるわけですね。メンタルに効くタイプの兵器ですか、これはなかなか……」
佐原「違う違う」
根岸「はい?」
佐原「そういう目的に使っちゃダメダメ、これはほんわか兵器じゃよ? 相手がほんわかしたら、こっちもちゃんとほんわかするの!」
根岸「それは、どういう……?」
佐原「発射と同時に、こっち側にもちゃんとほんわかするアレが散布されるから、あっちもこっちもほんわかするの。それがほんわか兵器」
根岸「そういうものなんですか」
佐原「これぞ未来の兵器じゃよ、これで戦争とかそういうよくないのとはサヨナラじゃ! 人類の未来もこれで安心!」
根岸「なるほど……」
佐原「きっとどこぞの国が実験してるミサイルもコレじゃよ」
根岸「いやそれはどうだろうなぁ……」
佐原「あるいは空中で爆散して、桜の花びらが国中に舞うタイプのほんわかミサイルに違いない」
根岸「ないだろうなぁ……」
佐原「ふふふ、発射が楽しみじゃなぁ」
根岸「どこに向けて撃つつもりなんですか?」
佐原「んー、とりあえずはどこでもいいんじゃよ、地球全土カバーできる威力じゃから」
根岸「範囲広っ!」
佐原「ふふふ、ワシの作るものに不可能はないのじゃよ」
根岸「でも博士」
佐原「ん?」
根岸「博士が寝てる間に、人類滅んじゃってますよ?」
佐原「……へ?」
根岸「まじで」
佐原「…………えぇぇ!?」
根岸「博士がコールドスリープで数世紀寝てる間に、いろいろありまして」
佐原「いろいろあったのかぁ……」
根岸「この研究室だけは博士の作ったバリアーで無事でしたけど、外はもうだいたい植物だらけですね。地球は既に緑の星になってます」
佐原「そっかぁ、ほんわかミサイル出番無しかぁ……」
根岸「無しですねぇ」
佐原「せっかくコールドスリープ装置で未来にやってきたと思ったのになぁ」
根岸「未来の技術とか、楽しみにしてましたもんね」
佐原「人工知能搭載で喋りまくるロボットとか、見たかったなぁ」
根岸「……自分は?」
佐原「んー」
根岸「自分もロボットでしょ?」
佐原「確かに、確かにね。根岸くんはワシの作ったちょーすごいロボットじゃよ?」
根岸「ええ。自律行動をし、半永久的に動く―――」
佐原「でもね、未来じゃないの。全然」
根岸「めちゃくちゃ未来っぽいのに」
佐原「例を上げて説明しよう―――。例えば他の科学者が作ったこのロボット」
根岸「ぬいぐるみ?」
佐原「簡単な会話なら可能じゃよ? ナデナデシテーとか言うよ? 逆さまに吊るすとオロシテオロシテとか言うよ? だがこんなの未来じゃない!」
根岸「むしろ90年代後半だそれ」
佐原「他にはこれ、近くで音を立てると踊る植物型ロボット」
根岸「どんどん時代が古くなってる気がする」
佐原「これらは確かにロボットじゃよ、だがな、未来じゃない。決定的に未来じゃないのは、根岸くんと同じ動力、そう、電池で動いているということじゃ」
根岸「ちょっと待って」
佐原「ん、待った」
根岸「電池なんですか!? 自分の動力源」
佐原「そうじゃよ? しかもボタン電池。たまごっちとかで使ってたやつ」
根岸「えぇぇ……」
佐原「これで半永久的に動くんだから、すごいよね」
根岸「エネルギー効率だけ極端に未来っぽい」
佐原「しかし、そうかぁ、滅亡しちゃったかー人類」
根岸「しちゃいましたねぇ」
佐原「んー」
根岸「どうします? また数世紀寝ます?」
佐原「んんー」
根岸「自分はまた何年でも何万年でも待ちますけど」
佐原「いや、ちょっと作ろう」
根岸「新発明ですか」
佐原「いや、発明としては前にも作ったことあるから、新発明じゃないんじゃけど」
根岸「また作るような、役立つ発明とかって以前にありましたっけ?」
佐原「根岸くんを作る前の発明品じゃしなぁ、知らんのも無理はない」
根岸「その頃は役に立つものを作ってたんですね」
佐原「いやー、役に立つかはどうじゃろうなぁー。ワシの作るものじゃしー」
根岸「自分で言った。―――半永久的に自律行動をするロボットとか、たまにすごいもの作ってるじゃないですか、たまに」
佐原「あ、いや、実は根岸くんもすごい発明じゃないんじゃよ?」
根岸「まじすか」
佐原「ただのツッコミロボだもん」
根岸「……えぇ……」
佐原「というわけで、まあ、とりあえずひとつ、あ、いやふたつか。作ってからまたコールドスリープするとするよ」
根岸「何を作るんです?」
佐原「人間」
閉幕