No.41『花見』
佐原「花見をしようよ! 今日!」
根岸「いきなりだな、どこで?」
佐原「ココ!」
根岸「ココ、って、うちで?」
佐原「そう」
根岸「マンションの10階からできる花見って、何さ? そこの公園の桜とか見下ろせるけど、もう緑色してるよ?」
佐原「桜を見下ろすってのもなんかあれだな、新しい気はするけど、緑色だなほんと」
根岸「だろう? あとはなんか、犬の散歩してる人とか、絵を描いてる人くらいしか見えないけど?」
佐原「あの絵描き、池のほうに背向けてるな」
根岸「ほんとだ、こっち描いてる。変なの」
佐原「まあいいや、花見しようよ!」
根岸「だから、どこで」
佐原「ココ!」
根岸「だからココは―――」
佐原「桜の花びら拾ってきた!」
根岸「斬新すぎる花見だな……」
佐原「あとはコレを見るだけだ!」
根岸「間違っては無いような、そうでもないような」
佐原「満足した! 帰る!」
根岸「花見らしいこと何もしてない!」
佐原「なんだ、桜を見ただろう、ほかに何を必要とする!」
根岸「酒とか、食べ物とか、あるだろう」
佐原「なんだ根岸は花より団子か、お子様だな!」
根岸「さすがに桜の花びらだけを見て満足できるほどできた人間じゃない」
佐原「まあ、そう言うかなーって思って、実は食べ物も持ってきている」
根岸「あるのかよ」
佐原「ほい、桜の枝」
根岸「……うん。ありがとう、なんか、気持ちだけでお腹一杯だわ」
佐原「そうか、かじると苦くておいしいのに」
根岸「団子とか、甘いものは無いの?」
佐原「あるよ、ダイナマイト」
根岸「食べ物じゃない」
佐原「甘いらしいよ、ダイナマイト。 お腹下すらしいけど」
根岸「やだよ、それ食べ物じゃないって」
佐原「あれもやだー、これもやだーって、なんだ根岸はまったく、せっかくの花見なんだ、テンション上げていこうぜ!」
根岸「テンションを上げても桜の枝とダイナマイトは食べない」
佐原「じゃあこのダイナマイトに火をつけて、景気よくドカーンと」
根岸「うわ馬鹿やめろ!」
佐原「ふふふ、大丈夫、実はコレ、ダイナマイトじゃないんだ。 まあちょっと離れて見てろって」
根岸「ダイナマイトじゃないにしても、家の中で着火するのかよ……」
佐原「3!2!1!」
シュワー
根岸「これは……」
佐原「きれいな花火だろう」
根岸「家の中でやるな! 馬鹿か!」
佐原「いいじゃん、花見も花火も似たようなもんだよ」
根岸「よくないよ! 火事になったらどうすんだ!」
佐原「なんだよ、人がせっかく楽しませてやろうとして頑張ってるのにさっきからその言い方は」
根岸「誰が頼んだよそんなこと!」
佐原「いい感じにムカついたぞ俺も。 かかってこいよ、喧嘩しようぜ!」
根岸「この野郎!」
佐原「ふふふ、これぞ花見だな! おっと、そんなパンチ当たらねぇよ」
根岸「これのどこが花見だよ!」
佐原「火事と喧嘩は江戸の華ってね」
根岸「……見てないじゃん。俺ら自身が華だろそれじゃあ」
佐原「確かに!」
根岸「まったく、何しに来たんだお前は」
佐原「花見!」
根岸「そうだな」
佐原「ふむ、しかしだよ根岸、こう考えることはできんかね」
根岸「なにさ」
佐原「桜だって、ほかの枝の桜は見ることができるだろう? そう考えれば、華である俺が、華である根岸を見るのも、花見なんじゃないかな?」
根岸「そうまでして花見にこだわらなくても……」
佐原「あ、でもほら、倒れた花火が―――」
根岸「……ちょ、燃えてる燃えてる!! 煙い!」
佐原「これは……」
根岸「うわあ! 火の勢いがなんか急に強くなった!」
佐原「花見か!」
根岸「火事だよ!」
佐原「つまり江戸の華だな!」
閉幕