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No.39『部』

根岸「佐原、部活の前に話があるんだが」


佐原「どうした?」


根岸「俺、この部活やめようと思う」


佐原「なっ!」


根岸「お前には悪いと思ってるよ、直前まで黙ってて」


佐原「そんな! 誰よりもツライ練習に耐えて、誰よりもお前は頑張ってたじゃないか!」


根岸「ああ」


佐原「体力と下半身作りのために毎日走りこみして、過酷なメニューを毎日こなして!」


根岸「ああ」


佐原「あのお前は、なんだったんだよ!」


根岸「……」


佐原「一緒に全国目指そうって言ったお前は、なんだったんだよ!」


根岸「……ごめん」


佐原「いつだってそうだ! 勝手に決めて、勝手に動いて!」


根岸「……」


佐原「この部はお前だけのもんじゃないんだぞ!」


根岸「……ああ」


佐原「俺たちは、残された俺は、どうなるんだ!」


根岸「……」


佐原「残されたやつのことを考え――


根岸「ジェンガなんて二人いればできるだろう!」


佐原「……」


根岸「……」


佐原「……」


根岸「……ごめん」


佐原「いいよ。最悪一人でもできるから」


根岸「いや、なんていうか……」


佐原「ジェンガ部なんてマイナーな部、学校で何人知ってるのかって感じだもんな」


根岸「……」


佐原「聞いていいか、なんで辞めるのか」


根岸「ふとさ、わかんなくなったんだ、このままジェンガしてていいのかなって」


佐原「どういうことだよ」


根岸「体ボロボロにして、神経すり減らして、俺たちは木の棒を一本抜いては、積み上げていくよな」


佐原「ああ、それがジェンガだ」


根岸「でも、いつかは終わりが来る。1セットの木の棒の数が、ジェンガの限界なんだ」


佐原「それが、ジェンガというスポーツだ」


根岸「そうなんだけどな……」


佐原「お前、それは俺も怒るぞ?」


根岸「……」


佐原「サッカーやってるやつに、球追って蹴ってゴールに入れるだけ、それがサッカーの限界だって言うのか?」


根岸「……」


佐原「卓球やってるやつに、暗くて地味で窓締め切ってなにそれ球技?とか言うのか?」


根岸「いやなんかそれは違――


佐原「焼き芋同好会に、太るからやめろよって言うのか!!!」


根岸「言わない」


佐原「言わないかー」


根岸「っていうかなんだよ、焼き芋同好会って」


佐原「この学校にある不思議な同好会。秋だけ活動する」


根岸「妙なものがあるんだな」


佐原「部長は3組の山田」


根岸「デブキャラじゃん、そのまんまじゃん」


佐原「山田はあとおでん大好き部の部長もやってる」


根岸「山田すげぇな、なんだその主張の激しい部は」


佐原「あー、んで、なんだっけ、なんで根岸はジェンガ部辞めるんだっけ、焼き鳥食べたい部に入りたいからだっけ?」


根岸「違う。っていうかまた妙な部が出てきた」


佐原「部長は山田」


根岸「またかよ。って、違うんだよ、こう、先が見えなくなったというかさ」


佐原「ふむ」


根岸「野球とかメジャーなスポーツなら、夢としてプロ選手になりたいって思って、そこを目指して頑張ったりするのかもしれないけどさ」


佐原「目指せよ、プロジェンガー!」


根岸「はじめて聞いたそれ」


佐原「なんにでもプロはあるもんだ。プロペラとか」


根岸「プロペラはともかく、そのプロを目指す過程でさ、ふとわかんなくなるんだよ」


佐原「七の段とか?」


根岸「なんで九九だよ、そうじゃなくて、自分がどの辺にいるのかとか、そこからあがいても進まない現状とか」


佐原「ふむ、じゃあとりあえず九九覚える部に入ってはどうだろう」


根岸「小学校でそこは覚えてこいよ、なんだよその部、自由すぎるだろこの学校」


佐原「だいたい、お前がいなくなったらこの部が俺と斉藤の二人だけになっちゃうだろ! 斉藤は幽霊部員だし」


根岸「よく部としてやってこれてたなこの部!」


佐原「ジェンガはひとりじゃできないんだぞ!」


根岸「さっきできるって自分で言ったのに!」


佐原「やめんなよ! お前がいなくなったら……誰がジェンガを積むんだよ!」


根岸「自分でやれよ!」


佐原「俺がやるとなんか向きが全部一緒になっちゃうんだよ!」


根岸「……それはお前、ジェンガできないじゃん」


佐原「だから、お前がいなくなったら、この部は……」


根岸「……廃部か」


佐原「いや、ジェンガ積みたい部になっちゃう」


根岸「自由だなぁ」


佐原「ジェンガ積みたい部になると部員は増えるんだが……」


根岸「なんで」


佐原「すでにあるから、くっつくことになると思う」


根岸「あるのかよ! ジェンガ積みたい部! なんだこの学校!」


佐原「ジェンガ関連だけで30もの部が存在する」


根岸「すげぇ!」


佐原「うち半数の部長は山田」


根岸「ポテンシャル高すぎるだろ山田! いや低いのか!」


佐原「そんな、数多あるジェンガ関連の部活のトップが、このジェンガ部だ」


根岸「……そうなのか」


佐原「お前は、そこのエースなんだぞ」


根岸「ジェンガ積めないお前と俺と、あと幽霊部員ひとりしかいないんじゃぁなぁ」


佐原「だから、辞めるな」


根岸「……」


佐原「積んだジェンガの、一番上を取ったらどうなると思う?」


根岸「……どうにもならない」


佐原「そのとおりだ、何も教訓っぽくならなかったな」


根岸「なんなんだよ」


佐原「根岸がいなくなってしまったらこの部は、一列の真ん中だけを抜いたジェンガになってしまう!」


根岸「……両側抜くより安定するじゃん」





閉幕

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