No.33『熱意』
根岸「佐原くん佐原くん」
佐原「はい、なんでしょう根岸係長!」
根岸「この書類なんだけど」
佐原「はい、先ほどボクが提出した書類ですね」
根岸「ええと、キミは何についての書類を提出したの?」
佐原「タイトルを見てのとおりです!」
根岸「『ぼくのゆめ』?」
佐原「はい!」
根岸「ええと、どういう意図で?」
佐原「企業人となるには夢が必要です、ボクがこの会社でどのように進み どのように生きたいかを書きました!」
根岸「うん、そうか。大事なことだね。でもそういうのは面接で聞かれたんじゃ
ないのかね?」
佐原「はい、ですがその情報はおそらく根岸係長には届いてないだろうと思ったので
、この書類を提出するに至りました!」
根岸「んー、まあ、そうだね。私のところにはキミの夢の情報は届いていない」
佐原「ああ、やはり。夢の実現のためには周囲の理解も必要だと思うのです!」
根岸「何故だかわかるかね?」
佐原「へ?はい?何がでしょう」
根岸「何故私のところにキミの夢の情報が届いていないか、だよ」
佐原「ええと、情報伝達が適当だから」
根岸「必要ないから、だよ。この部署に、キミの仕事に」
佐原「はは、またまたー。夢が必要ない仕事なんてありませんよ」
根岸「いやいや、ええとね佐原くん」
佐原「はい!」
根岸「私の頼んだ書類は?」
佐原「はい、できてません!」
根岸「コラ!」
佐原「すみません」
根岸「キミは何をしに会社に来ているのかね!」
佐原「ええと、おりがみとか」
根岸「おりがみ!?ほ、他には?」
佐原「それ書いたりしてました」
根岸「これか……だから無駄に分厚いと」
佐原「あ、それまだ第一部です。最終的には五部まで続きます」
根岸「えー」
佐原「ちなみに最終的には地球を救います」
根岸「どうやって」
佐原「隕石が落ちてくるんです」
根岸「ほう」
佐原「それを最後まで会社に残った僕が止めるんです」
根岸「どうやって」
佐原「この会社の技術の粋を結集したロボで!」
根岸「……この会社、何の会社か知ってるかね?」
佐原「はい、魔法ロボットを作る会社です!」
根岸「うん、惜しい」
佐原「違うんですか!?魔法の力で動くロボット、オカルトとSFの融合、なんて燃える会社だと 僕は感動してこの企業を受けたのに!」
根岸「ポットを作る会社だ、ここは」
佐原「ろ……ロポット?」
根岸「なんだロポットって。ポットだポット。魔法瓶だよ」
佐原「まほう……ポット」
根岸「混ざったんだな。なんだ魔法ロボットって、何産業だ」
佐原「しかし、しかしです!僕の夢は変わりません!」
根岸「ほう」
佐原「それなら魔法瓶ロボットを作ればいいのです!」
根岸「そして地球を救うのかね?」
佐原「はい!魔法瓶の力で動く巨大ロボです!」
根岸「キミ、魔法瓶がどういうものかわかってるかね?」
佐原「魔法の力で保温もばっちりなビンです!」
根岸「魔法の力はともかくまあ、保温するビンなのは正解だ」
佐原「なので大丈夫です!僕は夢を諦めません!」
根岸「冷めないなぁ」
閉幕