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No.23『アイドル』

佐原「何故だ!」


根岸「……」


佐原「教えてくれプロデューサー! 俺は、アイドルだろう!?」


根岸「そうだな、アイドルだ」


佐原「何故俺は、歌姫になれない!」


根岸「姫じゃないからだ」


佐原「照準をセンターに入れて右フック……照準をセンターに入れて右フック」


根岸「こら、理解を放棄するな」


佐原「なにをいう、姫だろう、どこをどうみても」


根岸「姫らしい要素がどこにある」


佐原「目が二つある! アイドルは、目が二つあるのだ!」


根岸「うん、俺も二つある」


佐原「プロデューサーがライバルか! 俺を歌姫にさせないで、自分が歌姫になるつもりだな!」


根岸「違う」


佐原「違うのか!」


根岸「今度の歌姫オーディションの応募資格は読んだか?」


佐原「漢字は読めぬ! アイドルは、漢字など読めぬのだ!」


根岸「どういうコンセプトのアイドルなんだお前……。いいか、ここにはそもそも、「女性」と書いてあるんだ」


佐原「性別など無い! アイドルは、男でも女でも無いのだ!」


根岸「初耳だよ」


佐原「俺も初めて言った。まあつまり、俺もアイドルだし、女みたいなものだよ、ということだね」


根岸「違う」


佐原「違うのか!」


根岸「おっさんだ」


佐原「おっさんかー」


根岸「いいか? 歴代の歌姫の写真がこれだ」


佐原「可愛いなー、みんな」


根岸「そうだな、歌唱力だけじゃない。見た目も重要だ」


佐原「うむ、俺も可愛い」


根岸「百歩ゆずっても、可愛くはない。ヒゲ面のおっさんだ」


佐原「キャバクラとか行くと、カワイイと言われるぞ!」


根岸「それはお前、セールストークだろう」


佐原「違う、キャバ嬢にじゃない、他のおっさんにだ!」


根岸「えぇ……なにそれ……」


佐原「キャバ嬢になど媚を売るものか! アイドルは、異性にはモテぬ!」


根岸「どういうアイドル像を持ってるんだよ」


佐原「そんなわけで俺も可愛いのに、歌姫にはなれないのか?」


根岸「うん、だから何度も言うが、おっさんは歌姫にはなれない」


佐原「歌姫のおっさんになればいいじゃないか」


根岸「そういうことじゃなくて、そもそもオーディションに参加する資格がないから、歌姫になろうとしても、無理なの」


佐原「刺客が無い……今回は命を狙われる危険は無いってことだな」


根岸「今回は、ってなんだよ」


佐原「昔はしょっちゅう命を狙われていたもので」


根岸「……おっさんの過去に何が……」


佐原「まあ、いろいろあったんだよ。人に歴史あり」


根岸「まあ、そうかもしれんけど」


佐原「とにかく、命を狙われる心配がないなら、安心して歌姫になれるな。歌姫になれば「まんが俺の歴史シリーズ」も爆売れだ」


根岸「違うぞ」


佐原「違うのか!」


根岸「あー、どうすりゃわかってくれるんだ……」


佐原「プロデューサー、俺は、歌姫になるよ。どんな壁がそこにあろうとも。ハンマーで打ち砕くさ。―――なろうと思えば、なんだってなれるんだ。ということを、世の中に伝えたいんだ。医者にも、スポーツ選手にも、なんにだってなれるんだ」


根岸「なんでそこらへんだけちょっとアイドル感あるんだよ……」


佐原「アイドルだからな! アイドルは、みんなに夢を与えるのが仕事なんだ!」


根岸「おっさんだけどな」


佐原「ただのおっさんではない、呑んで歌って踊れるおっさんだ」


根岸「酔っぱらいのおっさんだな」


佐原「そしてあなたはそんなおっさんのプロデューサー」


根岸「どう考えてもハズレ引いたよ」


佐原「まあそう言うな、また飲みに行こうぜ、歌って踊ってやるよ」


根岸「どこの居酒屋行っても、アイドル化するんだもんなぁこのおっさん」


佐原「悲しいかな、俺はみんなのアイドルだからな、いつも同じ店に行くわけにはいかないんだ」


根岸「妙なファンがどんどん増えていくんだよな。事務所に毎日酒瓶が届く」


佐原「俺は、おっさん達の希望の星なんだ」


根岸「そうかもなぁ」


佐原「彼らのためにも、俺は、歌姫にならなければならない」


根岸「なれない」


佐原「何故だ!」


根岸「だから……」


佐原「夢だったんだ、歌姫になって、世界を変えるんだ! おっさんになってからの夢だったんだよ!」


根岸「小さい頃からの夢とかじゃないのか」


佐原「小さい頃は、大きくなりたかった」


根岸「ざっくりしてるなぁ……」


佐原「まあ、大きくはなったんだけど……。今の俺は、歌姫になりたいんだ、大きくなったら、歌姫になりたい!」


根岸「なれないってば」


佐原「何故だー!」


根岸「だからー……。女性じゃないでしょ? 若くもないでしょ?」


佐原「そこらへんは努力でなんとかしますから」


根岸「おっさんに、歌姫になる資格はそもそも無い」


佐原「死角が無い……無敵ってことか……確かに俺は無敵だな……」


根岸「違うぞ」


佐原「違うのか!?」


根岸「無敵ってなんだよ……」


佐原「アイドルは、触れるものみな傷つけるのだ!」


根岸「ちっちゃな頃から悪ガキで、15で不良と呼ばれたのか?」


佐原「いや、無敵な状態」


根岸「なんだよ、無敵な状態って」


佐原「スター状態」




閉幕

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