No.21『俺があいつで』
佐原「俺たち」
根岸「俺たち」
佐原・根岸「入れ替わってる!?」
根岸「と、まあ流行りに乗って入れ替わってみたわけだが」
佐原「間違いなく乗り遅れてる。あと入れ替わりネタは割と昔からあるだろ」
根岸「入れ替わっても特に面白いことないな、これ」
佐原「まあ、男二人の中身が入れ替わったところで、なぁ」
根岸「しかも、だよ」
佐原「しかも、なにさ?」
根岸「正直、読んでる側はどっちがどっちでもいいんじゃないか?」
佐原「気づいちゃったか」
根岸「根岸が佐原だろうが、佐原が根岸だろうが、みんなどっちでもいいんだよ!」
佐原「まあ、ねえ」
根岸「ぼくたち私たちの個性など、ないのだ! みんな一緒でみんな一等賞なこの時代!」
佐原「まあ、コレは……特に、セリフだけだしな」
根岸「実際、書いてる人もどっちでもいいと思ってる!」
佐原「……あー」
根岸「というわけで俺は根岸をやめるぞ根岸!」
佐原「俺の体で俺の名前を呼ぶとややこしいぞ」
根岸「大丈夫! ややこしさが誰にも伝わってない! むしろ伝わってない状態がややこしい」
佐原「そうかもしれんけどな?」
根岸「根岸の体なんてくそくらえだ。さよならだぜ。グッドラック!」
佐原「おう、早いところ返してくれ。みんなにとってどうでもよくても、俺自身にとってはやっぱり自分の体のほうがいいからな」
根岸「他のと入れ替わる!」
佐原「……ん?」
根岸「根岸と入れ替わっちゃっても面白くないから、他と入れ替わる!」
佐原「おう、まずは俺の体を返してからにしなさい」
根岸「かわいい女の子とかがいい! 俺もあの映画みたいに胸揉みたい!」
佐原「理由が最低だ」
根岸「ふふふ、入れ替わるぜー」
佐原「っていうか、俺とお前しかいないじゃん」
根岸「……………………?」
佐原「だから、まずは元に戻ろう?」
根岸「嫌だ! なんか別のと入れ替わるんだ!」
佐原「対象が無いってば」
根岸「とりゃー!」
佐原「とりゃー、って……」
根岸「……」
佐原「……?」
根岸「……」
佐原「……ん?」
閉幕「入れ替わった!」
佐原「待て待て待て」
閉幕「幕るぜー、がんがん幕るぜー」
佐原「え、何? 閉幕と入れ替わったの?」
閉幕「他にいなかった! 仕方なかった!」
佐原「他に……っていうか……えぇ……?」
閉幕「あはははは」
佐原「楽しそうだなぁ。そして俺の体には今、閉幕が入ってるのか……」
閉幕「たーのしー」
佐原「っていうか閉幕と入れ替わるって何だ、どういうことだ。物じゃん。物体じゃん」
閉幕「根岸もなってみるか? 閉幕。楽しいぞー、上下に動けるぞー。横は入力しても反応がありません隊長!」
佐原「それが楽しいのかどうかは知らんけども。とりあえず佐原は楽しそうだな」
閉幕「なってみ! 百聞は一見するより書いて覚えろってやつだ」
佐原「聞いたことない慣用句出てきた」
閉幕「とりゃー!」
佐原「……」
閉幕「……」
佐原「……どう?」
閉幕「……どう、っていうか」
佐原「あ、俺は俺の体に戻った」
閉幕「とりあえず、佐原のその「とりゃー」でなんでもできる能力はなんなんだよ」
佐原「うむ、これがいわゆる右ネジの法則ってやつだな。昔、中学校で習った」
閉幕「絶対違う」
佐原「習っただろ右ネジの法則」
閉幕「右ネジの法則は習ったけど、なんかこういう、入れ替わるとかそういう特殊能力じゃない」
佐原「右ネジの進む方向に電流を流すと右ネジの回転方向に磁場が発生する法則。右手でやると親指が電流の向きで、こう、指の向く方向がこんな感じでぐるぐるーっと」
閉幕「……うん、それだけど、今この状況とはまったく関係ないよね」
佐原「これの応用で入れ替わる」
閉幕「まじかよ」
佐原「だいたいのことは、中学校くらいの勉強の応用だよ、世の中」
閉幕「それはまあ、そうかもしれんけどな? とりあえず動けないんだよ、どうしたらいい」
佐原「ならうより生ハムメロンといってだな?」
閉幕「言わないね」
佐原「まあほら、ゲームでいえば上キーと下キーで動くような感じだよ」
閉幕「さっぱりだよ」
佐原「まあ、俺はもうちょっと今日は遊び疲れたから、そろそろ帰るわ」
閉幕「待て待て待て、この状態を放置していかないでくれ」
佐原「えー」
閉幕「えー、じゃないよ」
佐原「とりあえず、降りておけばいいんじゃない?」
閉幕「降りて……? ああ、そうか、俺が降りれば終わるのか」
佐原「そう。閉幕になる」
閉幕「どうやって降りるんだ。なんか佐原のときはギュンギュン動いてたじゃんか」
佐原「だから、親指を立てて、こう―――」
閉幕「だからそれは右ネジの―――」
佐原「グッドラック!」
閉幕「帰らないで!」
根岸