No.12『巳年だった頃の話』
佐原「へびー」
根岸「俺たちはー蛇ー」
佐原「修行だ!」
根岸「道着なんか着て、どうした。ヘビなのに」
佐原「修行なんだ! 俺は、強くなるんだ!」
根岸「お前より強いやつに会いにでもいくのか」
佐原「うん、間違ってない。 根岸、干支は知っているな?」
根岸「まあ、知ってるな。来年は馬だったか」
佐原「午な」
根岸「発音すれば午も馬も同じだろう。んで? その干支とお前の修行はどう繋がるんだ」
佐原「干支って、アレ、勝ち抜きバトルなのは知ってたか?」
根岸「なんだその設定」
佐原「今年はヘビとウマがバトルするんだ。勝ったほうが来年の干支になる」
根岸「ふうん、じゃあ次はウマが勝つのか」
佐原「いや、それはまだわからない」
根岸「午年が来ないじゃん、負けたら」
佐原「うん、ウマが負けたら来年も巳年。俺たちヘビの天下だぜ!」
根岸「蛇だって言わなきゃツチノコみたいだけどなこの格好」
佐原「ツチノコもたぶん蛇だよ。デブヘビ」
根岸「デブヘビ……」
佐原「今年の蛇代表は俺なんだ!」
根岸「初耳だよ」
佐原「だから、修行して、ウマに勝つんだ!」
根岸「今年あと一週間切ってるじゃん」
佐原「しない努力より、する悪あがき!」
根岸「うん、心意気は買おう」
佐原「というわけで、まあ去年は敵が龍だったから楽勝だったけどさ、今年は相手がウマだからな、気を引き締めてかからないと、踏まれて死んじゃう」
根岸「よく龍には勝ったもんだ」
佐原「俺のアイアンクローですぐギブアップよ」
根岸「なんて地味な! 手も無いくせに!」
佐原「開始5秒の出来事だった」
根岸「見所の欠片も無い試合だな」
佐原「だが今回の相手はウマだからな、リーチの差が問題だぜ」
根岸「一応、勝つ気ではいるんだな」
佐原「あたりまえだ、来年もへび年が来てみろ、どうなる!?」
根岸「年賀状出した人たちが困る」
佐原「……困るなぁ、ウマの絵描いちゃったよ」
根岸「お前も困るのかよ」
佐原「だがよく考えてみろ! 来年もへび年だと、去年余っちゃったへび年の年賀状が役に立つんだ!」
根岸「メリットも年賀状関係か」
佐原「あとは特に何もない」
根岸「ないのか」
佐原「干支なんて正月過ぎたらみんな忘れちゃうもん」
根岸「まあなあ」
佐原「だから、俺は今年センセーションを巻き起こすぜ!」
根岸「大きな影響はなさそうだけど、インパクトはあるだろうな、へび年が二年続くとか」
佐原「というわけで修行だ! ウマを倒す必殺技を編み出したいと思う」
根岸「ほう」
佐原「その名も『馬殺し』だ」
根岸「それっぽいような、それっぽくないような。どんな技なんだ?」
佐原「聞いて驚くなよ」
根岸「うん」
佐原「俺の合図で、特殊部隊が馬を銃で蜂の巣にする技だ」
根岸「反則だろう」
佐原「限りなくブラックに近いグレーだと俺は思ってる」
根岸「いや、限りなくブラックなブラックだろう」
佐原「#000000?」
根岸「うん、それ」
佐原「いいアイデアだと思ったんだが、ダメかぁ」
根岸「ダメだろ、普通に」
佐原「でも普通に戦ったら負けるじゃん」
根岸「いや、そこを修行で頑張るんだろ?」
佐原「負けるようにできてるんだよ、世界創世のときから、そういうものなんだよ」
根岸「ああ、なんか、そういうものなのかやっぱり。これまで干支がちゃんと一年で交代してきたわけだ」
佐原「でも頑張らないで負けるのもアレじゃん?」
根岸「そうだな、負けるとわかってても、足掻きたいよな」
試合後
佐原「蛇の俺じゃ勝てないのわかってたけどさ……」
根岸「ボロ負けだったな」
佐原「わかってたけどな……」
根岸「あ、ほら、インタビューだぞ」
佐原「コメントは考えてあるんだ」
根岸「準備のいいことで」
記者「佐原選手、一言お願いします!」
佐原『手も足も出ませんでした』
閉幕