No.1『キャラ付け』
佐原「うわぁっ」
根岸「佐原が撃たれた!伏せろ!敵の宇宙人だ!」
佐原「うぅ……。足を撃たれた、俺はもうダメだ」
根岸「しっかりしろ! 足なんてまだあるだろう!」
佐原「出撃前の、あの話が、やっぱりダメだったかなぁ……」
根岸「あれか、出撃前に「帰ったら森の中の小さなお家を買う」とか言ってたやつ」
佐原「シルバニアファミリーみたいな家庭をつくるのが夢だったんだ……」
根岸「佐原! しっかりしろ佐原!」
佐原「俺のこと……忘れないでいてくれよ……」
根岸「まだ大丈夫だ! 足の一本がなんだ、手当すれば助かる! しっかりしろ!」
佐原「ところでだ」
根岸「うお。いきなりしっかりしたら、びっくりするだろう」
佐原「キャラ付けって大事だと俺はこの死の間際に思うわけだよ」
根岸「え、ああ、うん。まあ足撃たれただけだから、いきなりすぐは死なないと思うけど」
佐原「そうか。……で、そんなことよりキャラ付けの話なんだけど」
根岸「撃たれた足はそんなこと扱いでいいのか」
佐原「いいのいいの、大丈夫。そのうち回復する」
根岸「本人がそう言うなら」
佐原「キャラ付けがしっかりしてると、覚えてもらえるわけだよ、人に」
根岸「ふむ」
佐原「デブキャラとか、メガネキャラとか、しばらくぶりに会うことになっても、割と覚えられてるだろ?」
根岸「あー、まあ、うん。芸能人に似てたりとか、出身地とか、それだけ覚えてたりするよな」
佐原「そう、ざっくり記憶しておくのに、キャラ付けはとても有効なんだ」
根岸「ふむ」
佐原「たとえば俺が今死んだら「あーあのシルバニアファミリーの佐原さんね」となるわけだ」
根岸「そのファミリーに所属してる人みたいになってるな。本人がそれでいいならそれで記憶しとくけども」
佐原「こういったキャラ付けによって、わかりやすくなるわけだ、誰がどういう人なのかってのが。そして人の記憶に残る」
根岸「まあ、そうね」
佐原「だが!貴様に俺の何がわかるというのだ!」
根岸「いきなり怒鳴るなよ、びっくりする。あと戦場で急に立ち上がらない」
佐原「ごめん」
根岸「遺憾である」
佐原「つまりその、こう、そんなに浅くないぞ俺はーって言いたい」
根岸「ふむ。でも情報不足だぞ。俺は佐原のことをよく知らない」
佐原「でも全部わかられてると、それは恥ずかしい」
根岸「いかんともしがたいなぁ」
佐原「だから俺は、あえてキャラ付けを捨てる! 恥ずかしいのだ!」
根岸「急に立つな。あと戦場で叫ばないでください」
佐原「ごめん」
根岸「いいかげんにしてほしいものだな」
佐原「だから俺は、あえてキャラ付けを捨てる」
根岸「小声だ」
佐原「もう、遅刻魔人、とか、借金天国、とか言わせない」
根岸「かなりダメな感じの人だなお前」
佐原「キャラ付けを捨て去り、なんか印象の薄い人として生きるのだ」
根岸「いかにして」
「こうだ!」
根岸「お……おお……。誰だ」
「佐原だよ」
根岸「佐原なのか。一瞬誰だかわからなくなったよ」
「すごいだろう。これで戦場ですぐ死ぬキャラともおさらばだぜ! ふふふ、では行くぜ! 俺は死なない!」
根岸「ひとりで突撃なんてそんな無茶な!」
「うわぁっ!」
根岸「さは……ええと、誰だかわからない人が撃たれたー!」
「ダメだキャラ付け関係ない! 戦場でキャラ付けは無意味!」
根岸「戻ってきた。誰だかわからないけど、頭撃ち抜かれて無事に?帰ってくるとは、元気だなあ」
佐原「佐原だってば!」
根岸「おお佐原、いつの間に頭に怪我を」
佐原「ダメだわー、キャラ付け関係ないわー、敵の宇宙人マジ容赦ねー」
根岸「そりゃお前、味方からしてみれば「あいつはああいうヤツだった」って記憶には残るだろうけど、敵さんからしたらキャラ付けは無意味だろう」
佐原「盲点!」
根岸「盲点だなー、そうだなー」
佐原「敵からしてみれば、俺が地球人でも火星人でも関係ないってことか!」
根岸「まあ、うん、概ねそうだね」
佐原「でもさ」
根岸「なんだ」
佐原「試してみなきゃわからないよね。もしかしたら撃たれないかも」
根岸「試して死んだらそこで終わりなんだけど」
佐原「やってみる」
根岸「いかがなもんか」
地球人「こうだ!」
根岸「うわあ地球人だ! 撃て撃て!」
地球人「ぎゃーす!」
根岸「ああびっくりした、なんでいきなり地球人が」
佐原「ダメだこれ味方に撃たれる!」
根岸「佐原! いつの間に全身に怪我を!」
佐原「ふふ……どうやら本当にもう俺はダメみたいだ……」
根岸「佐原! しっかりしろ佐原!」
佐原「さよなら……、根岸……がくり」
根岸「心臓が……止まった……。佐原ぁー! しっかりしろ!」
佐原「あと二つあるけどね」
根岸「だからいきなりしっかりするなよ。びっくりするから」
佐原「タコ型宇宙人でよかったよ、まだ生きてる。心臓みっつあるからな!」
根岸「なに、佐原、お前タコ型宇宙人だったのか」
佐原「え、うん。そうだけど」
根岸「撃て撃て!」
佐原「ぎゃーす! ま、まさか根岸、お前は、イカ型宇宙人だったのか!」
根岸「イカにも!」
閉幕