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どうも、邪神です  作者: 満月丸
冒険者編
98/120

文句を言ってやりましょう

私は一人、自室でごろ寝していた。


この宿の個室部屋は非常に狭く、ベッド一つでいっぱいいっぱいなくらいなのだが、そこは神の御技の出番だ。空間拡張で室内をずいーっと広げ、でも外からの面積は変わらないという魔法空間を作り出し、ちょっとした大部屋になっている。ま、個人部屋としては妥当な広さなのだがね。


今考えているのは、ハディのことだ。


ぶっちゃけね、ハディの目覚めた力に関して、私はまったく予想もしていなかった。だってさ、虚無の力を横取りしてくるんだよ?もう内心ではビックリだよ。もともと、ハディの中にある吸血鬼の力を制御できれば御の字、くらいに思っていたので、帰ってきたらとんでもないパワーアップしてて私は焦った。どんだけ人の予想を外してくるんだこやつ、と。

だが、それ以上に…なんというか、確信があった。

だから聞いてみることにする。


「おい、『世界』よ」


私が天に向かって呟けば、周囲が異様な雰囲気に包まれる…いや、この空間だけが、どこか異質に変化しているのだ。

天を見上げていれば、天井は黒く渦巻いて消えていき、宇宙のような大空と、その中央に座する巨大な混沌色の瞳が、こちらを見下ろしていた。物理的に上から目線だな。


『なにか御用ですか?ルドラよ』


相変わらず機械音声みたいな不気味な声色だ。

私の求めに応じた『世界』へ、私は疑問に思ったことを尋ねる。


「お前、ひょっとしてまた何かやってないか?」

『何か、とは?』

「以前、ガルガリの件で、お前は勝手に勇者の性能を変えたな?」

『変更ではなく手直しと言えます』

「御託は結構。…まさか、また同じように勝手に誰かの性能を書き換えてはおるまいな?たとえば…ケルトと」

『ケルティオ、ハディールの件に関して言えば、そのとおりです』


あ、この野郎、認めやがった。なんなんだよこいつ、前にこっちに言ってからやれって言っといたのにまた勝手に…。


『ですが必要な措置でした。現状、ルドラと出会う可能性のある存在だけでは、来たるべき戦いでは戦力が足りないと推察しましたので』

「だったらそれを説明をしろと言っとるんだ!!」

『必要性を感じません』


この…本気でキレるぞこの野郎…ほら、外で雷鳴ってるじゃん、下界に迷惑なんだから怒らせるの止めろよなぁ…!


と怒筋を浮かばせていると、予想外の声が。


「でもさ、勝手に変えちゃうのは良くないことだって、世界ちゃんもわかってるよね?」

「…ティニマ?」


天使ちゃん人形に憑依したティニマが唐突に出現していたのだ。

ティニマは笑顔を浮かべながらも、しかしどこか責めるように世界を見上げている。


「やらないでね、って言っておいたのに、勝手にやっちゃうのは悪いことだよ~。それが効率の為だとしてもマイナス要素だよ~」

『マイナスとは?』

「ん~…あたし達のやる気がなくなっちゃう、かなぁ?」


…おっとぉ?

ニコニコ笑顔のティニマがなんか黒いぞ。


「だってさ、こっちが頑張って世界ちゃんを信用しようっていうのに、その信頼関係を壊そうとしてるじゃん?それって不誠実だよね?言ってくれればこっちもちゃんと対応するのに、黙ってやっちゃうのは困るんだよ。だって、もしもの時に何かがあれば、それを知らないせいであたし達が失敗しちゃうかもしれないし、結局は世界ちゃんにぜーんぶ任せればいいや~って、何にもしたくなくなっちゃうかもね~」

『…』

「だからさ、あんまり世界ちゃんが説明が面倒だからって不誠実なことばかりしてると、あたし達もやる気を無くしちゃうんだよね~。それって困るでしょ?」


素敵なスマイリー。

ようは「今度また同じ事やったら神さま辞めるからな?」って言ってるのと同義だ。うわぁ、怒ってるなぁ………外で更にめっちゃ雷鳴ってるもん、こりゃ激おこだわ。

世界の奴も、新たな神を連れてくるのは可能だろうけど、それにもエネルギーが要るわけで。そんな無駄をするくらいなら譲歩する方がお得でしょ?という暗なる脅しである。

しばし世界は無言だったが、


『…了解しました。以後、何か手を加える際は、貴方へ報告しましょう』

「あたしだけじゃないよ。ルドラとヴァーベルもだよ。あたし達は三人で世界を守ってるんだからね」

『…なるほど』


世界はなんだか納得したような感じに目を細めた…目しかないけど。


『意外ですね。効率主義はルドラも同じと推察されましたが、貴方がそれを諌めるとは』


…ちっ、人の古傷を抉りやがって。

チクッと刺してきたそれに、ティニマは小首をかしげて言い返す。


「そうだね~。でも、それに関してあたしたちは仲直りした。ルドラはもうしないって約束してくれた。だからもう終わったことだもん」

『なるほど、それが貴方がた人間…人であった者の精神性なのですね。なるほど、興味深い…』


なんか人に興味を持ったロボットみたいことを言い出したぞ。

しかし、もう一つ念押ししておかねば。


「…おい、それでケルトとハディには、何をしたんだ?」

『ケルティオに関しては、彼はもともと勇者に付き従っていた精霊でした。彼へ今回の予言を告げ、その阻止を依頼したのです。彼は承諾し、人への転生を選びました』

「…だからか。妙に転生のタイミングが良いと思ったんだ。ダーナ達は何度か転生しているが、この時代に集ったのはそれもお前の仕込みかね?」

『いいえ。そちらは偶然です。しかし都合が良かったのは事実です』

「…ふん、どうだかね…で、ハディには何を与えた?」

『彼には運命を打破する能力を与えています。当人は自覚できませんし、今後も知ることはないでしょう』

「運命の打破?なんじゃそりゃ」

『私の観察の結果、人は些細な一言や行為によって、容易に転落する傾向があるように思えました。私は可能性の高い運命を見定めることができますが、ハディールにもその情報をある程度、精査して無意識下へ刷り込むことができるようにしています。それを元に、ハディールは無意識に行動を行い、不都合な未来を打ち消すような指針を与えています』

「…ハディはお前の人形というわけか」

『いいえ。あくまで人格や行動原理は当人独自のものです。ですが、必要な際は私の指針で行動する、と解釈なさってください』


ようは、世界にとって都合の良い選択肢を選ばせられるようにしてある、と。サウンドノベルで言えば複数ある選択肢のはずが、強制で一択だけにされてるようなもんだな。しかし選択するという自由意志があるだけマシと言えばマシ、か。

…じゃあ、虚無であるレビが変化したのは、ハディの影響か?食道楽に目覚めたり、人間と仲良くなっていったのは、レビの独自の行動…だけではなかった、と?たとえば、ハディの虚無の剣を解き放つべくレビが命がけでそれに応じたのも、世界の影響………やめよう、考えると虚しくなってくる。

まあいい、どこまでこいつの影響下かは知らないが、わかっただけ大きい。


「…世界よ。今後、ハディの意思を無視するような命令は出すな。出したとしても、当人の意思を捻じ曲げるような行為は謹んでくれ」

『…それは命令でしょうか?』

「要望だ。お前の行動に多々思うところは多いが、協力関係である以上はやめろとは言えん。だが、出来るだけ人の意思を消すような真似はするな」

『なぜ人の意思を尊重するのですか?』

「…さてな」


意思の力、祈りの力、それらがあの子供らを英雄へと成長させたというのならば、それはきっと世界をも救うような代物になるのではないか………って、言うのは私の柄ではないな。なので含みニヤリ笑いで誤魔化しとこう。

しばし世界はこちらを見下ろしてから、了承の意を示す。


『話は了承しました。可能な限り、私がハディールへ影響を与えるような行動は控えましょう』

「うむ」

『では、私はこれにて…ああ、それと』


最後に、世界は面倒事を落っことしていった。


『白状しますが、実はアーメリーンにも手を加えておりました』

「んなっ!?」

『それでは』


しゅるり、と目は渦に飲み込まれるように伏せて消え、周囲の情景も一瞬で元の部屋へと変化する。


あ、あの野郎…!?最後の最後に爆弾放り込みやがって…!?


私の部屋に戻ったのを確認してから、怒り肩な私はため息ついて、ティニマへ肩をすくめる。


「…すまんな、フォローしてもらったようで」

「ううん、たまたまこっちに来たら、世界ちゃんの気配を感じて飛んできたの。でも驚いたよ~。ルドラのお気に入りの子に、世界ちゃんの手が入ってたなんて」

「まったくだ」


この気持ち、なんというのだろうか…新品だと思っていたお気に入りのおもちゃに、前の持ち主の名前が書かれていたのを見つけた時のような、この気分…。

とりあえず、凄まじく腹立たしい。


「…しっかし世界の奴め。アーメリーンにも手を加えていただとぉ?なんだ、何をしやがったんだあいつは…」

「う~ん、見てた感じ、なんかされたようには見えなかったけどね~」

「それはそれで不気味だな…」

「…あ、そうだ、ルドラ~。あのね、もうすぐ大きな戦いがあるんでしょ?」


唐突なティニマの問いに頷く。

世界の予言がなかろうとも、確信を持って実感している。

じきに、奴らが一斉攻勢に出るだろうという予感が。

私の頷きに、ティニマは両手を合わせて笑顔を浮かべた。


「だからね、いっそみんなでパ~っと遊ばない?って思って」

「遊ぶぅ?おいおい、みんなって…どこまでだ?」

「もっちろんあたし達に~、六元神のみんな…は、無理だよね~」


うん、無理だな。天界の主要な神が消えたら、流石に怒られる。


「だから、あたし達の付き人の子と、あとここのみんなでね、焼き肉パーティでもしてみない?」


…焼き肉パーティ!?つまり肉パだな!!よっし!なんかやる気出てきた!!


「ふむ、悪くないな。しかしお前たちはどうやって来るつもりだ?」

「んふふ~、あたしはマウラちゃんが居るからなんとかなるよ~。ヴァーベルは、まあフェリちゃんが誤魔化してくれるんじゃないかな~」


仕事中に抜け出します宣言だな。悪くない。

その間、天界は手薄になるが、まあ大丈夫だろう。ちょっくら六元神ども(うち二柱不在)に気合い入れて警備してもらえば……え、心労?私には無縁の言葉だな。

冥府は…そうだな、ヴァルスかエルシレア、どちらかだけでも十分だろう。


「それじゃ決まりだな!私はツテを使って会場を設備しておこう。ティニマ、お前はヴァーベルでも招待してやってくれ!」

「なんか生き生きとしてるね~」

「当然だ!なぜなら肉が食えるんだぞ!?この機を逃す手はなかろうて!!」


私は酒も好きだが肉も好きだ。

ローストした牛肉っぽいのとかね~、ほっぺが落ちるような旨味と風味と香ばしさからデリシャスの大洪水が…、


「ルドラルドラ、ヨダレ出てるって」

「おっと」


じゅるり…

いかんな、想像したら腹減ってきた。


「…ふふふ!なんだかさ、ルドラも変わったよね~」

「ん?そうか?」

「そうだよ~。きっと、良い変化だよね!」


そう言ってティニマは笑う。

そうか…変わったか。あんまり自覚はないが。

しかし、


「今は私の変化よりも肉に関して考えたい」

「食い意地張ってるのは意外だけどね~」


へいへい、悪うござんしたね、食いしん坊で。


ともあれ、大食いチャレンジできそうなレベルの肉を調達せねばな。会場はゲッシュの宿の中庭でいいか。

ウキウキ気分でティニマと一緒にスキップしながらゲッシュの元へと向かう。食べ物の事を考えると気分は麗らかなのだ。


…うん、変わったかもな、私も。





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