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どうも、邪神です  作者: 満月丸
冒険者編
97/120

ババ抜きは異世界でも通用するのだ

更に数日後。

カルヴァンも一応の落ち着きを見せ始めた頃合い、メル達一行は帝都へ戻ることとした。とはいえ、勇者の帰還なので大々的な見送りが予想されたうえに、復興途中のカルヴァンに負担を強いるわけにはいかないということで、一部を除いて秘密裏に帰ることとなった。


誰も居ない早朝、日も出ていない暗い最中、カルヴァンの門前で一行は最後の挨拶を交わした。


「いやぁメル教授!何から何までありがとうございました!おかげさまでカルヴァンも持ち直せそうですぞ!」

「しかし、これから我々の手腕を問われるとも言えますな。議長にふさわしいのがどちらか、ここからが勝負とも言えるでしょう」

「まあまあシオルくん!そう肩肘張らずに見送りくらいは軽くやりましょうよ!ねぇ?」

「…」


シオル・コルショーの両教授は、相変わらずの関係性のようだ。

この二人、意外と噛み合ってるんじゃないか、とメルは思ったりしたのだが、それは表には出さずに笑顔で頷く。


「ご両名も、これからが大変でしょうけど、頑張ってくださいませ。アタクシも陰ながら応援しておりますわ」

「おお!救世姫の応援があるとなれば、これはおちおち寝ていられませんなぁ!」

「メルサディール殿下も、どうぞ息災であられますよう」

「ええ、カルヴァンは頼みましたわ、皆様方」


勇者の激励に、魔法士達はどこか胸を張っていた。


「では兄上、コルティス。二人とも、どうかお元気で」

「ああ…ケルティオもな」


アレギシセル三兄弟は、以前より自然な様子で挨拶を交わしている。

ゲーティオは、少し顔色を暗くしながら、ケルトへ述べる。


「ケルティオ…その、お前が家に戻れるように、私から父上へ直訴しようか?お前の力に関して、私が説明することもできるが」


ゲーティオの言葉に、少しケルトは目を見開いてから、


「…いえ、申し出はありがたいのですが、遠慮します」


微笑んで首を振った。

それに、ゲーティオは少し残念そうな、しかし肩の荷が降りたように微笑んだ。


「…そうか。いや、そうだな。おそらく、家に戻るよりも、今のお前のほうがずっと自然で楽しそうだ」

「あの、ケルティオ兄上は…家に戻りたくはないのですか?」

「…そうですね。戻りたくないわけではありませんが、あそこにはいろいろと確執が残ってるんですよ。それに…」


自分を捨てた親に、どういう態度を取れば良いのか、ケルトはよくわからない。

言葉を濁して苦笑すれば、ゲーティオは察したように口を開く。


「いや、お前はお前の好きに生きるべきだ。どのように生きようと、それを決めるのは…ケルティオ、もうお前の自由だからな」


貴族としての確執、家長となるべく生きてきたゲーティオには、ケルトの生き方はもはや縁遠い存在となってしまっている。

それでも、ゲーティオは笑顔を向けて弟を送り出す。


「家の繋がりはなかろうとも、血の繋がりは切れないものだ。…ケルティオ、いつでも頼ってきてくれ。お前の道先を、私もここから応援しているよ」

「僕も…がんばります。だから、ケルティオ兄上も、どうかお元気で」

「…ええ、ありがとう。二人もどうか、負けないでください」


握手を交わし合いながら、兄弟は別れを告げ合う。その表情には、どこか晴れ晴れとした感情が乗っていた。


「水臭いなぁ、ケルティオ。この僕に一言もいわずに帰ろうだなんてさ」

「だからなんで貴方が居るんですか」


一方、空気を読んでいたらしきカーマスが、前髪バッサァしながら近づいてきた。そんな相手へ梨の礫なケルトだが、最後なので軽くため息を吐く。


「ま、いいでしょう。貴方のお陰でいろいろなものが守れましたし…カーマス殿も、卒業すれば帝都の騎士になるべくご実家に帰られるのでしょうが、頑張ってください」

「はっはっは!当然、僕の実力と功績なら魔法騎士団に入るのもわけないともさ!なんといっても、この僕だからね!」


相変わらずの物言いだな、と呆れ気味にしていれば、カーマスはふと笑顔を消して、ケルトへ向き直った。


「…改めて言うのもなんだけどね。それでも、言わせてもらいたい。…ケルティオ、君たちのおかげでカルヴァンは救われた。ありがとう」


思わず目を見開けば、カーマスは恥ずかしげに頬を掻いている。


「いや、まあ、その…僕を英雄の一人だと君は言ったけど、やっぱりどう考えても君のほうが凄かったし…で、僕としては君は終生のライヴァルだと思うんだよね。それにあの老人も言っていたし。どんな力を持っているかじゃなくて、どんなことを成すのかが大事だって。だから、僕が君より強くなくても、君より偉大なことをすればいいだけだし、うん」

「…つまり?」

「ええとつまり……す、すまなかったね、いろいろと」


それは、カーマスなりの、過去の所業への謝罪なのだろうか。

数度か瞬きしてから、ケルトは思わず吹き出した。


「な、なんだね!人が素直に謝ってやってるってのに!」

「貴方…よく素直じゃないって人から言われません?」

「余計なお世話だよ!」


そっぽ向いてふてくされる相手へ、ケルトは微笑んでから手を差し出す。


「…貴方のことは嫌いでしたけど、今回のことで見直しましたよ。レティオ・カーマス殿」

「…ふん!それはこっちのセリフだね!」


憎まれ口を叩き合いながらの握手。

少し笑い合ってから、ケルトはメルの元へ向かう。


「…それじゃ、行きましょうか」

「そうですわね。…それでは皆様方、ごきげんよう」

「失礼する」


三者三様に別れの挨拶を交わし、メル達は馬車に乗り込んだ。

馬の嘶きの後に、帝都紋の馬車はガラガラと車輪を鳴らしながら、朝日の方角へと走り去っていく。


…それが見えなくなるまで、ずっと彼らはそこで手を振り続けていた。




※※※



室内は鋭い緊張感で満たされていた。


誰かの吐く息すら聞こえそうなその只中で、カロンはキラン、と目を光らせてカードを掲げる。


「ふふふ…甘いな小娘よ!この私相手に謀ろうなどと片腹痛い!」


それはカロンの故郷では馴染み深い、しかしこの世界にはまだ存在しない代物、トランプであった。


そう、ゲッシュの宿では今、ババ抜き大会が開かれていたのである。


「ちぃっ!クソジジイめ…サマやってんじゃねぇだろうなぁ!?」

「はっはっは!大丈夫だぞ!我が主人はこういうゲームでイカサマをやるほど、人でなしじゃないからな!ま、やってたらやってたで問題はないが」

「ヴェイユ、失礼ですよ」

「ん~と、このカードの絵柄がこうなってて…あ、俺あがりで」

「なんだとおおおぉっっ!?馬鹿なハディ!?お前イカサマやってたんじゃなかろうな!?」

「し、失礼じゃないのこの爺さんは!?ハディがそんなことするわけないじゃないの!!」

「ふぇぇ~~…ボクぜんぜん勝てませぇん…」


わいわいがやがやと、いつもどおりに喧しい見慣れた面々。

長旅から帰ってきたメル達一行は、相変わらずな店内にため息を吐いた。


「おじい様、何をやってらっしゃいますの?」

「む?ああ、メルとケルトか。おかえり…っていや待て待て!?なんでヴェイユまでどさくさ紛れてに上がっとるんだ!?普通ここは主人の顔を立てるもんだろうが!?」

「はっはっはっは!いやぁなんででしょうなぁ~!」

「…ヴェイユは生前、賭け事ばかりしてましたからね…はぁぁ」

「…楽しそうですね。こちらは大変でしたのに」


ケルトの不機嫌なそれに、ハディが両手を合わせて笑っている。


「悪い悪い!でも俺もさ、なんか出来ないかって爺さんに聞いたんだけど、やっぱ俺に出来ることは無いって言われて」

「そ、そうよ!ハディはちゃんとアンタのこと待ってたんだからね!でも帰りが遅かったからこうしてゲームやってんのよ!」


ぷんぷんするダーナを、ハディが宥めている。

それを聞いて、ケルトは思わず微笑んでしまう。


「いえ、ハディ達はわかってますよ。問題はあちらの方々です」


ケルトの冷たい目線などなんのその。神々はカードゲームに夢中である。


「…っかぁぁ~~!!なんだってアタイが負け越しなんだよ、くそったれ!」

「…ネセレ、足を机に乗せるな。泥がつく」


そんな中、見慣れぬ人物が一人混ざっている。

ネセレの横で興味深げに勝負を見ている、燃えるような瞳の男性だ。後ろに撫で付けたような長い赤髪は腰まで届き、全体的にローブのような服を着ている。全体的に赤い。

同じくその人物を見つけたのか、メルが小首を傾げた。


「それで、そこの殿方はどなたですの?初めてお会いしましたけど」


メルの問いかけに、その人物は少し眉根を寄せてメルへ言った。


「否、私と会うのは二度目だ、勇者よ」

「え?」


思わず瞳を瞬かせるメルへ、ネセレがバカにしたように笑った。


「見てわかんねーのか?こいつ、フェスだよ。火竜フェスベスタ」

「…まあ!?」

「火竜といえば、私と同じ精霊の…」


思わず、まじまじと見てしまう。

人型をしているが、たしかに魂は輝かんばかりで、メルの目から見てもただならぬ人物なのはわかった。しかし、なぜそんな人の格好をしているのか。

それを察したのか、フェスベスタは仏頂面で述べる。


「突然、この小娘が寝ていた私の元へ来て、騒動を起こしてな。いつもどおりに勝負を終えてゆっくりしていたら、この御方が来て人化の術を授けてくださったのだ」

「おじい様が?」


ピースしているカロン。

意図がわからず視線で問えば、カロンはニヤリと笑う。


「別にドラゴンが人の姿を持っていても問題はなかろう?というか、むしろセオリーだろう、こういうのは」


カロンの中ではセオリー通りというやつらしい。つまりこの世界では非常識だが。

まあ、この御仁に関して考えるのは無駄なので、一行は理解するのを諦めた。人型になってネセレに連れ回されているらしきフェスベスタへは、同情的な視線だけ送っておく。

と、そこで奥から宿屋の主人が顔を出し、赤ら顔に笑みを乗せてやってきた。


「おぉう!メルメルとケルトか!無事に帰ってきたようで何よりだぜ!」

「ゲッシュ、ご心配おかけしましたかしら?」

「はっはっは!そりゃ心配するに決まってんだろ?なんたって俺とメルメルの仲だからなぁ!」


バシバシと皇女の背中をぶっ叩くゲッシュ。一般人から見ればなかなかにすごい光景である。


「んで、手紙で聞いたが、ラーツェルのことはどうでい?あの朴念仁は相変わらずか?」

「…うふふ、もちろん、いつもどおりでしたわ。けれども、アタクシも黙って見ているだけの女ではありませんのことよ」

「おお!なんかメルメルがやる気出してるな!ま、何をするかは知らねーが頑張れよ!」


いい笑みを交わす勇者一行。勇者の目は猛禽類の輝きが宿っている。

城門前で別れたラーツェルへ、ケルトは胸中で黙祷しておいた。今頃くしゃみでもしているかもしれない。


と、そこでカードでボロ負けしたらしきカロンが、ため息交じりにカードを仕舞いつつ言った。


「ともあれ…今日はメルとケルトの依頼達成祝いだな。そういうわけで、今夜のメニューの代金は私持ちだ」

「なに!?マジかよクソジジイ!!」

「ネセレ!この御仁への口の聞き方を直せとあれほど…」

「けっ、メンドーなこと言ってんじゃねぇよ!それよりフェス!今日は食って飲んで飲みまくるぞ!!腹が破裂するくらい食いだめすんぜ!!」

「へぇ~、いいのか?爺さん」

「良い良い、たまには私だって年上らしくするし。それに、ハディの試練突破祝いも兼ねてる。ま、今日くらいは宿総出で大騒ぎでもするか」


その声に、聞いていたらしき冒険者達が拍手喝采の大声援。ミステリアスなカロンがどこからか潤沢な資金を捻出してくるのは、もはや皆が知るところであった。


「あぁ~、まあ店が潤うのは良いことなんだがなぁ…おうダーナ嬢ちゃん!今夜はクソ忙しくなるぜぇ!」

「うぅ…め、面倒なことするわね、この爺さんは…」

「えっとね、ダーナちゃん!ボクも手伝おっか?」

「だ、大丈夫よ!この程度、アタシ一人で捌き切ってみせるわ!」


意気高揚するダーナだが、途中でヘバリそうなのは容易に想像がついたので、ケルトは密かに助け船を出す。


「カロン老、どうせならネセレの部下の方たちも呼んでは?それと、彼らのツテで臨時の給仕人でも募集してみてはどうですかね」

「あ~ん?…ま、別にいいがね。言い出しっぺは私だし」


細かいことは気にしないカロンなのだが、ケルトのさりげない気遣いは察したようで、それを了承した。そのままゲッシュに話しをしているのを横目に、ケルトは息を吐いて店内を見回す。


「…帰ってきましたねぇ」

「だな」

『なんとも喧しい連中だ』


見れば、横に来たハディが楽しげに煎り豆を摘んでいた。

レビの声が下から聞こえたので目を向ければ、ハディの影が少し盛り上がり、顔を擡げるように影が言葉を話す。

パチパチと瞬きしてから、ケルトはしゃがみ込んでレビを見る。


「レビですか。貴方も随分と見違えました。まさか、ハディから分離するとは」

『完全な分離ではないがな。小僧と我は一心同体、離れることはできぬ』

「というか、もう離れ離れってのも想像つかないよなー。こうも一緒にいると」


ハディが影に煎り豆を放り込めば、影はもぐもぐとそれを咀嚼した。別途で口もついているらしい。なんとも不思議な存在だ。

そんなレビを見て、ケルトは疑問を口にした。


「…クレイビーが言っていましたね。虚無の本能を凌駕した、と。レビ、貴方は彼らと対峙することに、今も抵抗はないのですか?」

『…ない、と言えば嘘にはなるな。だがなケルトよ。我は元から宿主を守るために分かたれた種子なのだ。いわば、ハディを守るのが我の使命でもある』

「虚無の本能、それは世界を終わらせること…貴方は、それを望まないと?」

『望まぬよ。我は我として、世界に存在し続ける事を望む。生まれてすぐに消えるなど、まっぴらごめんだ』

「虚無が消えたくないと思う、ですか…ならば、彼らも本当は同じことを思っているのでしょうか?」

『ケルトよ。あまり奴らに同調するな』


諌めるようなレビに、ケルトは目を丸くする。


『あれらは生まれついての異形だ。虚公がそのように作った。おそらく、生まれた際にハディの影響を得た我と違い、入念に形成されたその異様な性質は、欠片に過ぎぬ我とは比較にならぬほどに歪で大きい。…アレらはそのようにできているのだ。それを否定しようとも、その性質から抜け出す術など、どこにもない』

「…」

『だから、主…アーメリーンはお前を待っている。その時になれば、答えてやれ』


ケルトは、その意味を問うようなことはしなかった。

ただ静かに黙して、頷くのみだ。

同じく聞いていたハディは、複雑な顔で豆を齧る。


「…リーン、か」


ハディはふと思う。

なぜ、リーンは自分を喰らい、眷属にしたのだろうか、と。

偶然なのか、それとも目的があったのか。

ただ、特別製だという自身の力に、ハディは少しだけ仇敵のことを思う。


(俺を怪物に変えた仇敵。だけど、どうしてリーンはこんな力を俺に与えたんだろう?レビのおかげで、虚無の力を振るえるようになったけど…これも、リーンが目論んだことなんだろうか?)


そうは思えど、考えることは得意ではない。

ただハディはため息を吐きながら、口の中の豆をガリッと噛み砕いたのだった。


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