表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうも、邪神です  作者: 満月丸
冒険者編
93/120

落下演出(二回目)

議事堂の天井ごと、結界をぶっ壊して何かが墜落した。


ガラスと大蛇の肉片が雨のように降り注ぐ中、落ちてきたその黒い人影…黒髪の子供は、血まみれになりながら呻いていた。それに、思わず目を細めてしまう。


「…な、なんて巨大な光…く、ぐぅ…!!」

「なんと、アズキエル!?何故に…否、そうか!あの男か…!!」


クレイビーの声に反応するように、天より落ちてきたのは2つの人影。

結界を張っていたのか、地面にバウンドしてからゴロゴロと無様に転がったが、怪我はない様子で二人は咳き込みながら顔を上げた。

なんだなんだ、派手な登場じゃないかね、ケルト。あ、あと噛ませのカーマスに、最後に飛び込んできた半獣っぽいのはラーツェルか。


「な、なんとも…二度とやりたくは無いですね…!」

「ま、まったくだよ!」


起き上がった二人だが、目の前の惨状を認識したのか、カーマスが悲鳴を上げた。


「なっ!?こ、これはいったいどういうことだい!?な、なんで教授たちが倒れて…ああっ!?メル教授!?」

「…兄上に…コルティス!?」


ビクビクしてるカーマスとは裏腹に、ケルトは吊り下げられたコルティスと焦げているゲーティオを見つけて、目を見開いてから怒り心頭な様子でガンっと杖を突いて敵を睨みつける。


「…クレイビー!!」

「…ひょっひょっひょ!久方ぶりであるなぁ、若造!!少しは手練になったであるか?」


一瞬で現状を理解したのだろう、険しい目つきで視線を動かし、クレイビーの周囲を鋭く観察する。うむ、冷静さは失っていないな。


「…人質とは…アーメリーンといい、よくもまあ貴方がたは卑怯な手を使いますね」

「ひひひ、褒め言葉であるな。それより小僧、我が同輩がお主のことを気にかけておったぞ?なんとも、お主を食らうために様々な手管を弄したというのに、あっさりとお主に見破られた。その時のお主の感情、失望は、さぞや美味であったであろうなぁ?」

「………」


クレイビーの挑発には応じず…しかし怒気が漏れ出て周囲が震えている。怒り心頭、爆発5秒前。薄っすらと発光するケルトへ気後れしているらしきカーマスと、メルメルを介抱しているラーツェルへ、とりあえず手を出さないように言っておく。

が、それには皆が眉を顰めた。


「し、しかし大丈夫なんだろうかね…!?こんな禍々しい気配の相手、ぼ、僕も見たこと無いよ!」

「そうです、皆で仕留めるべきではありませんか?」

「…おじい様、なにか考えがありますの?」

「案ずるな、問題はない。というか、手を出したら怒られるぞ。なぁ、ケルト」

「…申し訳ありませんが、他の方は手を出さないでいただきたい」


わぁ、怒ってる怒ってる。

それじゃ、私は高みの見物と洒落込もうか。


パチン、と指を鳴らして、吊り下げられているコルティスくんを開放し、瞬間移動で後ろに置いておく。勝負の邪魔しちゃダメだしな。


「コルティス!!」


怪我を負うゲーティオくんが、呻いている弟くんを抱き上げている。ふむ、弟思いな奴じゃないか。


「…先生…申し訳ありません…」

「ふん、まったくもって役立たずであるなぁ、アズキエル?これは帰ったらお仕置きが必要かもしれぬな」

「…うぅ」


ニヤニヤといじめっ子の顔してやがる。なんかこう、腹が立つなぁ。


「…アズキエル、随分と厄介な男に捕まったようだな」


私の声かけに、アズキエルは眉を顰めて私を見てから、何も思い出せないかのような様子で頭を振っている。

魅了と、記憶操作か…まったく。



「気に食わんなぁ」



一瞬だけ、私の身の内で感情が暴れる。


その膨大な怒気に反応したのか、場の空気が震えたようだが、あいにくと不可抗力である。まあクレイビーは嬉しそうだけど。…アズキエルは私の元部下の力を受け継ぐ者だ。それを良いようにされれば、なんだかいい気分はしない。


…あ、そうだ。これ以上、なんかする前に釘を差しとくか。


「そうだな、クレイビー。ケルトと正々堂々、勝負を行え。それに勝てば、次は私が相手をしてやろうではないかね」

「…なんと!」


おっと目の色変えたぞ。ははは、わかりやすい奴だなぁ。

俄然、やる気を出したクレイビーの前で、ケルトは杖を構えて瞑想しつつその力を練磨させている。

それから目を見開いて杖先を向け、静かな声で告げる。


「貴様をこの場で滅します、クレイビー・カルネット」

「やってみよ、若造!我が魔導にて食らい付くして」

「はいカトゥ!」

「ぐおおおおぉぉっ!?」


ケルトの猫騙しみたいなそれを必死に避けるクレイビー。うむ、流石我が弟子。先制こそアドバンテージ。


「ななな、何をするであるかぁお主はぁ!?人が話している間は攻撃するなと教わらなかったのであるか卑怯者ぉ!?」

「すみません、うちの師匠から撹乱も騙し討ちも何でもありだって教わったので」


そう、生き残った者こそが正義。勝てば官軍なのだ。親指立てておこう。

…というか、こいつが卑怯とか口にするのかよ。


「そもそも、人質を取る相手に正々堂々を行う必要などありません。貴方相手に真正面から戦うほうが馬鹿げている」

「…ふ、ひっひっひっ!たしかになぁ…!」


おっとクレイビー、ダンっと地面を踏み鳴らせば、足元から魔法陣が出現する。あれは先程の小競り合いで仕掛けておいた罠魔法だな。ケルトが突っ込んできたら手痛いダメージとなっていただろう。

余計な魔法としてそれを解除し、互いに仕切り直して…、


まず杖を構えたケルト、短縮呪文で攻勢をかける。

相手のほうがレベルが上。ならば、長々と呪文を唱えさせないのが定石、わかってるじゃないか。


「カムル・ビン・カトゥ!」


背後から現れた無数の光弾がクレイビーに迫る。

一方クレイビー、鎌を突きつけお返し。


「その程度、毛ほども効かぬぞ!」


パパパパァン!と弾けて消える光弾の群れ。同じく飾り石がパキンっと壊れる。

しかしケルト、既に次の詠唱を終えている。


「『来たれ5つの水、我は汝に乞い願う。我は光の同胞なりて、我が思索は汝に望む。散りて惑わす霧となれ!』ジャグル・シカウ・バドレ=スン・ノ・セクト・マウラス!」


ブワァッ!と杖先から煌めく霧がクレイビーへ降りかかる。


「む、ならば、ラダ・バドレ=ビン・ヴェレシス!」


それを結界を張ることでガード。

あの霧、目眩ましの魔法だな。避けるにはやや広範囲なのでガードせざるを得ない、いい手だ。

しかし結果的に霧で視界が遮られたクレイビーは、ケルトの姿を見失う。


「む、どこへ…」


そこで上空へ飛んでいたケルト、頭上から魔力を込めた杖を構えて落下。

しかしクレイビーもまたそれに気づき、頭上へ向けて結界を強化。


ガキィン!!


バチバチと弾ける鍔迫り合いの最中、ケルトは片手を掲げてゼロ距離射撃。


「カトゥ・ビン!」

「なんの…これしきぃ!!」


しかしクレイビーはそれにも耐え、結界にヒビすら入らない。


「ひょっひょ!その程度では我輩へ傷一つ付けられぬであるぞ!?」


「『来たれ3つの土、地より穿て!』カトゥ・ビン・ムンダス!」


「なぬっ!?」


おっとここで搦め手か!

頭上に集中したせいで地面という結界の薄い部分を、ケルトの土の槍が貫通、そのままクレイビーの背中を貫いた。

その揺らいだ間際、


「…はぁあ!!」

「くっ!?」


ケルトの杖が結界を叩き割り、そのままクレイビーの横っ面に命中して殴り倒したぁ!よっしゃよくやった!!


「ぐはっ…!」


地面に転がるクレイビー、そんなチャンスを見逃すケルトではない。

身体強化で接近し、立ち上がったクレイビーへ物理攻撃!


「このっ…!」


棒術で鳩尾を突かれたクレイビーは蹌踉めくも、形相を怒りに変えて大鎌を振るう。

だがしかし、大鎌は中距離武器だ。

近距離のケルトは危なげなく躱してから、クレイビーの懐に入り込み、胸倉掴んで投げ技一発!思わず息を吐き出した相手へしかしケルトは容赦なし!片腕を極めて背中に足をかけ、杖先をその背に向けた。


「な、あ…!」

「カトゥ」


ドシュン!!


クレイビーの背中を貫く光線。

だがしかしケルトは容赦しない。


「カトゥ」


二発目


「カトゥ!」


三発目


「カトゥ!」


四発目


撃つ、撃つ、撃ちまくる!

何度もクレイビーの背を撃ち抜いてまるで銃で滅多打ちにするかのように撃ちまくる!

これにはみんなドン引きだぁ!


息切らせるケルトがようやく杖先を地面に向ける。おいおい、ブチ切れてるなぁ、形相が怖いぞ。それに怒りからか、全身がかすかに白く発光している。方向性を戦いに向けているから、暴走せずに済んでいるか。うむ、良い兆候だ。


…おっと、そこでケルト、何かに気づいて咄嗟に背後へ飛んだ。

パキン、と音を立てて地面に破片がこぼれ落ち、ケルトが居た場所に闇の刃が閃めいていたのだ。まあ、首の皮がうっすらと切られた程度だな。


「…く、っひっひっひっひ!!」


クレイビーがゆらりと立ち上がる。

何度も光線を打ち込まれ、腹に何発も穴が空いているのだが、さして効いた様子もなく立ち上がっている。と、その合間にもクレイビーの腹の穴はゾルゾルと再生している。うっわきもっ。

口端の血を吐き出しながらも、クレイビーは楽しげに、しかしどこか怒りを乗せた笑み浮かべている。


「流石流石!以前会った時よりも随分と戦い慣れたものであるなぁ…!しかし!この程度の怪我では我輩は倒れぬ!殺すことはできぬぞ定命の者よ!」

「…首を切り飛ばすべきでしたかね」

「否!それでも無意味であるぞ!この首が潰れようとも我輩は立ち上がる…それが我ら、虚無の力である!!」


う~ん、普通に考えるとマジ面倒だよな、あの再生能力。私が体を粉微塵にしても逃げ切るし、規格外だわ。

しかし今の攻撃で、クレイビーもある程度のダメージは負っているようだな。体力的には再生できても精神まではそうもいくまい。ま、虚無の精神力って普通の者とは違うけど。あと、今ので首飾りの石が全て砕けている。これでもう、高威力の無詠唱魔法も安易に使えないだろう。


荒い息を整えるためか、双方は攻撃に出ず互いの動向を探っている。

が、そこで唐突にクレイビーが口を開いた。


「…しかし、ケルティオ・アレギシセルよ。お主も随分と数奇な運命の元に、ここへ辿り着いたものだなぁ」

「…何が言いたいのです?」

「くっひっひ!いや?伝え聞くところお主はかつて、この学園に在籍しておったそうではないか?しかし、ここの連中はお主に落第生の烙印を押し、派閥争いにかこつけて放逐したと!なんとも無能の集団であるな、と、笑える話ではないか」


目を眇めるケルト、嫌な過去を突かれて苦虫を噛み潰したような気分だろう。

それがわかっているのか、クレイビーはコツコツと歩き回りながら語りかけている。


「そんな人間どもを、お主は何故に守ろうとする?魔法至上主義などという下らぬ思想で思考停止し、自らの優位性をそれで証明した気になり、挙げ句に才ある人間の足を引っ張り、自らへの練度を高めることもせぬ…なんとも!我輩がかつて接触したどの魔法サークルよりも愚かでバカバカしい場所だ。そんな連中を守る理由が、どこにあるのだ?ケルティオ・アレギシセル」


まあ、小集団より大きな組織だし、大きくなるほどに自然と格差が生まれるもんだしな。例えば、うちの神界事情とか。


「…貴方にそれを語る必要があると?」

「いや?しかし我輩は思うのだ。魔法規格の統一と知識の共有を名目として、この都市は発展したが、衆愚に合わせた結果、魔法の練度は平均以下。6レベル魔法すら使えぬ蒙昧共の集団に成り下がっている…我輩はな、それが許せぬのだ」


クレイビーは目の色を変えて囁く。

文字通り、ここの連中を心底から軽蔑しているかのような、怒りを乗せた色合いだ。

そしてバッと両手を広げて演説するように叫びだす。


「魔法とは!ただ自己をひけらかすだけの道具ではない!知の探求を極め、未知の領域を邁進し続ける為の手段である!世界の真理、果てに至る為の道標…その標こそが、魔法という神秘を神の扱う奇跡へと至らせる道となる!虚無という終へと至るまでの過程、それまでにこの世界を構築する「何か」を解明することこそが、我らが魔法士としての目標でもある…!!」


…世界を構築する「何か」、それは我ら神を指すのだろうか?

神の深奥を暴き、世界を分解し、世界の如き万能を得ようとしている。

それを愚かと言うべきか、それとも人の好奇心に果てはないと戦慄すべきか…。


「…随分な御高説ですが、精霊を喰らう貴方が言っていい台詞ではありませんよ」

「はっ!精霊を気にかけるとは、元精霊らしい言葉であるなぁ?」

「…元、精霊?」


おや、カーマスくんが呟いている。というか、前世のことをバラされてしまったようだ。ケルトの苦虫の数が増えていくぞ。


「ケルティオ・アレギシセル。魂が強き精霊であるお主にとって、精霊とは重要な存在なのであろう。されど、大局から見れば精霊とは、所詮はただのエネルギー体でしかないのだ。神々が作り出した、世界を鎮めるための統治機構としての存在に過ぎぬ。意思も薄弱で自己を持たず、人や世界に使われるだけの存在を、意志ある存在と同列に語るのは愚かであるぞ」

「精霊を侮辱しますか…!」

「事実であろう?神は人を人として生み出したが、精霊にはその自由を与えなかった。それはお主らが使われるだけの存在の方が、都合がよいからだ。反逆されれば面倒なのは神でも同じであろうからな?」


………痛いところを突くぜ。

実際、精霊は自然災害を減らすために、元素へ意思を与えた存在だ。その使命に準じて動いてくれなければ、世界が壊れてしまう。ボイコットは困るのだ。だから彼らに意思はあまり与えていない。それを道具として使っていると言われれば、まあその通りではある。

そんなことを言われ、ケルトはちらりと私を見た。

それを真正面から見返すことしかできないが、とりあえず逃げるような真似はしない。

彼らを作り出した神として、逸らすことはしない。

その視線を受けて、ケルトは少しだけ目線を下げてから、クレイビーへ向き直った。


「…なるほど、確かに貴方の言う通り、我々は使われるためだけの存在かもしれません。…それは、ここで嫌と言うほどに見てきました」


ケルトの言葉には実感が籠もっている。ここでいろいろ見てきたから、尚の事だろう。


「遊び半分で悪意に加担させられる苦痛は、精霊にとっても等しくおぞましい。彼らが純粋だからこそ、悪意には過敏になる。…ええ、ここを出る前は、私は人間など嫌いでしたよ」


お、ぶっちゃけたな。

なんか目が据わってるのは気の所為ではないだろう。


「よくわからない理由で幼少期からずっと閉じ込められ、ようやく学園に出されたと思えば、くだらない争いばかり、体質の問題で見下され、迫害され、挙句の果てには裏切られて魔物の餌になるところでした。しかも、その後は責任問題で私を巻き込んで放逐。実家からも見切りをつけられ、冒険者に身を窶する羽目になりましたよ、ええ、そんな人間にいったいどんな好意を寄せろと?バカバカしい!、と」


苛立たしげにカンカンカン、と杖で地面を叩いているのだが、それにゲーティオくんが顔を引き攣らせている。

過去を思い出して頭にきているようだが、まあ良い傾向だ。諦めて虚無的になってたかつてよりはずっと健全だろう。感情を抑え込んでも、良いことなんぞ何もない。


「…しかし、世界に一歩出て、いろいろと実感しましたよ。小さな世界に居た頃には思いもよらなかった人々に出会い、彼らと親交を深め、見識を深めていく内に…人間という、大きな括りで物事を見ることの愚かさも思い知りました。人であろうと、人でなかろうとも、良きものもいれば、悪しきものもいる。私の友は人ではありませんが、彼は良き人としてあろうとしています。…そう、悪しき者であろうとする、貴方がたとは真逆に」

「………」


クレイビーは目を眇めた。なんか、今ので思うところでもあったのか。


「私の魂は精霊ですが、同時に人でもあります。そして人として、…いえ、善き人として、友に顔向けできないような行動はできないんですよ。たとえ、そのために救うべき人々が、精霊の友を苦しめるような者たちであろうとも、見捨てることはできない」

「…ふん!友のため、偽善を働くと言うのであるか?なんとも!それがお主の本心であるのかね?」

「隔意がないといえば嘘になります。思うところは多い。…でも、それでも、私はそういう生き方をしたいと思う。…それだけです」

「…ひひっ、ひっはははははっ!!」


クレイビーは唐突に笑い出し、凄い笑みでケルトを睨めつけている。


「精霊が生き方を選ぶとは…否!なんとも甘っちょろい人間である!ならば結構!お主の身体を引き裂いて、その魂を喰らってやろうではないか!!」


『我、虚無の実行者より招致を命ず!

 無より来たりし汝は有限を喰らいしモノ!

 この地に集う源を その顎にて食い尽くせ!!』


おっと、クレイビーが唐突に詠唱した。

それと同時に周囲の精霊がクレイビーに吸収されていくが…、


『全ての精霊よ!我が元へ集え!』


ケルトの精霊語に反応し、周囲の精霊たちが全て、ケルトの肉体…その中へと入り込んでいく。おお、対策をちゃんと考えていたようだな。

ケルトは元・精霊。その器である肉体は人間のものだが、魂に引っ張られて器の方も練磨されている。つまり、精霊との親和性は抜群なのだ。だからケルトは自身の肉体の中に精霊を取り込んで、守ることにしたのだろう。

事実、クレイビーは食いが悪くて舌打ちしている。

しかしすぐに立ち直り、ケルトへ向けて掌を向けた。


「我、実行者たる虚無が命ず!アマネシュト・エマ・カムル=フレイア!」

「セクト=ラダ・ヴェーシャ!!」


ケルトを中心に炎の縛鎖が翻って爆発する寸前、ケルトの魔法がそれを引っ掴んで一つの球体に収め、それを天に向けて弾き飛ばした。


―――ボガアアァァンッ!!!


と上空で爆発音が響いている。


「我、実行者たる虚無が命ず!エマ・ラダ・バドレ=ビン・ムンダス!」


それを尻目にクレイビーが次の魔法を放つ。

地面から飛び出た鋭い石柱がケルトの周辺を閉ざすように覆った。


「我、実行者たる虚無が命ず!アマネシュト・ノ・ラ・シア・ビン・セクト=マウル!」


その中心の上空に、現れた氷塊が冷気を発しながら、触れる全てを凍てつかせるべく降り注ぐ。


「アマネシュト・ジャグル=アシャル・ベシュト・ヴェーシャ」


ケルトが杖を掲げれば、上空の氷塊はふわりと浮かび上がり、唐突に弾けてクレイビーへ襲いかかる。それをクレイビーが鎌で薙ぎ払う間に、ケルトが石柱から脱出し、反撃する。


「ビエンシェ・カトゥ!」


太い光閃が空を裂いてクレイビーへ襲いかかるが、クレイビーはそれすらも大鎌で叩き伏せるも、


「ビエンシェ・バドレ=ビン・カムル!」


途端、クレイビーの上空に現れた光球が膨張し、爆発四散する。


「ぐっ…我、実行者たる虚無が命ず!アマネシュト・ラ・カムル=ビン、セット!」


その爆発を食らって肉が焼き切れながらも、クレイビーは再生のゴリ押しで詠唱する。

そしてケルトの上空から大量の水が周囲に広がるように放射され、雨の如くケルトの身体を濡らす。


「凍り砕けよ!セクト・マウラーシル!」

「くっ!」


ピキン!と甲高い音を立てて、広範囲の水が全て一瞬で凍りつく。無論、それはケルトが被った水にも言えること。

咄嗟に光の癒やしで凍りつくことは回避したが、動きが緩慢になっている。その隙に、クレイビーが詠唱を挟む。


「我、実行者たる虚無が命ず!ゼケルト・ラ・ビン・シェロ・ヴェルシア!」


ケルトの周囲に黒いわだかまりが出現し、点在した。あれは以前、ケルトに披露した光魔法対策の地雷原だな。

しかしケルトもあの時とは違う。

足の氷を砕きながら脱し、慌てること無く魔法を唱えた。


「ノ・ラ・シア・シェロ・シュラファ・ヴェシュケト!」


ケルトを中心に円陣の光幕が天より降り注ぎ、それは爆流の如く周囲すべてに向けて流れ、地雷をまとめてふっ飛ばした。衝撃がケルトを襲うが、その全ては光の結界によって通過され、無傷で終わる。


「ひょっひょっひょ!!見事見事!!やはりそうでなくてはなぁ!!」


お気に召したようで、再生を終えたクレイビーがケラケラ笑い、ケルトは残りの氷を溶かしている。

ふむ、いい勝負してるじゃないか。

しかし、クレイビーとも一筋縄ではない。

息継ぎをしていた間を破ったのは、もちろんクレイビーだ。


「我、実行者たる虚無が命ず!」


空を指差せば、天より降り注ぐ黒い槍の群れ。

対するケルト、空に杖を向けた。


「セクト・ラダ・バドレ=ビン・ラ・ビエンシェ!」


天へと向けて光の盾が翳され、それらが全ての槍を防いで尚、留まって術者を守っている。これで天からの攻撃はしばらく無理だ。

おっと、しかしここでクレイビー、地を蹴って大鎌を振り上げて襲い来る!

しかしケルト、冷静にこれを迎え討った。

魔力を込めた杖で大鎌を弾き飛ばし、返す一撃でクレイビーを穿つ。


「げはっ…ひっひひひ!!」


おや、クレイビーが笑ってケルトの杖を抱き込み…


「我、実行者たる虚無が命ず!ティニア・ゲン・カトゥ・カムル・フレアーヴィド!!」


奴め、そのまま詠唱したぞ!

そしてクレイビーの体がカッと発光し、


「脆い人間がこれを避けられるかなぁ!?」

「っ!!」


おっとこれはクレイビーの自爆攻撃だぁ!


視界を巻き込むエネルギーの本流、それは周囲のすべてを消し飛ばさんと猛威を振るうが、それらはすべて私がシャットアウト。

結果、二人の周囲だけを覆うように、球体の炎獄が出現していた。


…そして、渦巻くようなそれが小さく消えていく中、そこに居たのは…、


ボロボロのクレイビーと、それに対峙するかのように佇む、七色のオーラを放つケルトがいた。

…あいつめ、ここまでやるか。


「…なんとも、己が身の内の精霊を使い、防御するとは…!」


クレイビーが感嘆の息を吐いている。

ケルトは先程取り込んだ精霊の力を束ね、防御一点の力を行使したのだ。ただし、それは原初魔法のようだったが…それでも、クレイビーの自爆技に耐えるには十分だったらしい。


「…はあっ…!」


ケルトが息を吐けば、身の内から七色の光の大本…つまり精霊たちがブワァっと出ていき、大半は逃げていく。しかし一部の精霊は残り、ケルトの周囲を回ってクレイビーと戦おうとしているようだな。なんとも、まるで精霊を使役しているようだ。

そんな相手を見て同じことを思ったのか、クレイビーは楽しげに笑う。


「ひょひょっ…!面白い、実に面白いである…!しかし若造!お主はやはり危険だ…精霊の魂が精霊を引き寄せ、己が力として対抗する意思の取りまとめ役となっておる。なんとも、厄介な…ひっひひひ!!やはりお主は、ここで必ず殺さねばならぬようであるぞ!!我輩の力は………否、虚無の力はこの程度ではなぁい!!」


お、クレイビーめ、あれをやるつもりか。


『我、虚無の眷属にして滅びを謳うもの。

 我が身体は虚無成りて道となる。

 開け滅びの扉よ そして現われよ!

 全てを喰らう虚無の御方よ!』


クレイビーの朗々とした詠唱と同時、奴の額の中央が黒い何かを零しながらも縦に裂かれ、金色の瞳がギョロリと現れる。そして白い角が2つ現れ、左腕は鱗状の巨大な異形のものへと。

変化、いわば第二形態に移行したクレイビー。その威圧感は、先程までの比ではない。ま、私には屁のような代物だが。

しかし、空気が震え精霊が悲鳴を上げるその只中は、魔法士にとって怖気を振るうほどの威圧を感じるだろう。


「…それが、貴方の本性なのですか…?」


ケルトの呆然とした言葉に、クレイビーは愉悦の笑いを上げている。


「否否、これもまだ本性とは程遠い!我輩はまだ変化を一段回残しているのである!!」


私はまだ一段階の変化を残していますよ、って宇宙の帝王かお前は。


しかし、このままではケルトでも辛かろう。さて私が手を…と思ったのだが。

…ふむ、なんとかなる、かな?

あちらの情景で確信したので、双子に伝言を伝えてから高みの見物続行である。


「いくであるぞ!!」


と、こちらではクレイビーが攻勢に出た。


『虚無魔法・消』


「っ!!?」


混沌の魔法陣が輝き、放たれた一閃は過たずケルトを狙う。

しかしケルトは咄嗟に魔法を込めた杖でそれを受け…


「ぐぁっ…!?」


杖が虚無魔法に押し負け、折れた。が、かろうじて魔法は天へと打ち上げて消えていく…うわぁ、今のはヒヤッとした。

杖を失い、ケルトはしかし諦めず、掌を掲げて逆の手で印を切る。杖が無いから辛かろう。


「マティオ・レイ・カトゥ・カムル!」

『虚無魔法・放』


ケルトの背後から放たれる光の槍、しかしその全ては真っ向から放たれた広範囲の虚無魔法に消され、更にケルト自身へと襲いかかる。

が、なんとかそれは自力で避けたようだ。


『虚無魔法・消』


クレイビーの狙いすました一撃が、体勢の悪いケルトを襲う。

思わず当たるかと思った最中、


「マ・フェレス!」


無理な態勢で地面を蹴り、俊敏になった脚力のおかげで魔法の射程外からは逸れた。

が、それを見てクレイビーはいたぶる猫のように魔法を放つ。


「そらそらそらぁ!!逃げてばかりでは倒せぬぞ若造!?」

「くっ…!それが、貴方の…」

「ひっひひひひ!魔法一辺倒では面白くなかろうて?では少し力任せでいくぞ!?」

「っ!?」


一瞬で肉薄したクレイビーが、怪腕を振り上げてケルトを襲う。

しかし師匠の賜物か、ケルトは硬直すること無く背後へ逃げる。


―――ゴガァァンッ!!


と凄い音を立てて地面が粉々に砕けて割れた。相変わらずの馬鹿力だな。

顔を青くするケルトへ、クレイビーは巨大な腕を掲げて含み笑う。


「さて、これでも尚、我輩に勝つつもりであるか?杖を失い、圧倒的魔法の前に手も足も出ずに翻弄されるのみ。ひょっひょっひょ!これぞまさに我が虚無魔法の素晴らしさである!!」

「虚無魔法、なんと恐ろしい代物ですか…!触れただけで存在どころか、精霊すら掻き消えている…!」

「左様!この世のすべてを消失させる、無への回帰を成す魔法。故に虚無魔法である!これならば、神ですら消失させることも不可能ではない…!!」


まあ、将来的には不可能ではなくなると思う。今のままではガワしか消せないが、こっちの本体に傷を付けられるようになったら…厄介だなぁ。やっぱ消滅リストナンバーワンだな。

…不意に、クレイビーはフッと顔を上げて天を仰ぎ、憎々しげに口を歪めた。


「…そう、神。忌むべきモノ、あり得ざるべきモノ、怠惰なる神…!か奴らを消すことこそ、我らが虚無の眷属の使命、目的…そう、それこそが、私の存在した意味…今生の存在理由…」


…ん?なんか少し様子がおかしいな。

と思っていれば、すぐにクレイビーは顔を下ろしてニヤリ笑い。だから止めろってその笑み。


「…ここで消えるお主には、とっておきの魔法をくれてやろうぞ」


クレイビーが魔法を唱える。

天に指を掲げれば、指先に巨大な…紫の混沌とした色合いの魔法球が現れ、ゆっくりと虚空へと浮き上がった。

それはまるで弾ける寸前の爆弾のように、低く磁場を放ちながら存在している。

…やばいな、あれ。あれが爆発すれば、この議事堂は一瞬で消滅するぞ。それほどまでに凶悪なエネルギーの圧縮体だ。

同じことを察したのか、ケルトが呆然とそれを見上げている。


「…なんと、いう、巨大な悪意…!」

「虚無は人の悪意を喰らう。これは、お主ら定命の者の悪意である………それによって、消えるがよい」


『虚無魔法・爆!』


指先が地面に向けられると同時に、その巨大な球体がフワリと地面へ向かって落ちて…、


「…おっと、ここで真打ちが登場だな」


間に合ったようで一安心だ。

私の声と同時に、天から何かが閃光となって落ちてきた。それは稲妻の如き速度で地へと向かい、持っていた黒い剣を掲げた。


「…虚空斬!」


一閃。


その一閃は虚無魔法を一刀両断にし、周囲へ風を撒き散らしながら、恐ろしい魔法を無のエネルギーへと変えて散らしていった。


これにはクレイビーもケルトも仰天だ。


「なっ…ば、馬鹿な!?我輩の…我輩の魔法が!?虚無魔法がぁ!?馬鹿なぁぁっ!?」

「これは…」


天より降りた人物は、地面へ軽やかに降り立ち、何事も無かったかのように立ち上がって、黒の剣を肩に担いだ。

それは癖のある黒髪であり、赤い瞳であり、一対の黒い角を生やし…


そして、背に黒い異形を従えていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ