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どうも、邪神です  作者: 満月丸
冒険者編
39/120

メルメルと愉快な旅の路3と+α


 翌日はお祭り明けという事もあり、皆が二日酔いで役に立たなくなっていましたが、アタクシは錬金術の酔い覚まし薬のお蔭で平然としていましたわ。まあ、おじい様も珍しく二日酔いに悩まされていましたけども。あえて二日酔いを治さないでいるようで、定命の感覚をエンジョイしているようですわね。

 それと、なにやら街の悪徳商人の家が泥棒に入られて、帳簿とかが衛兵詰所に全て置かれていたようです。もちろん、表に出せないアレやらコレやらも。おかげさまで悪は滅び、街の治安がまた一つ良くなりましたわ。いったい誰の仕業なんでしょう。我がパーティの大盗賊は食堂で行儀悪く米酒を呷ってますけど、いったい誰なんでしょうねー(棒)……まったく、商人の私財を根こそぎ持っていったんでしょうね。まあ、おじい様が何も言わないので、見逃しますけども。


 更に翌日になってから、我々一行はギグ・シュトールを出発しました。山を下ってからドワーフ王国首都ゴド・ヴェンガードまで向かい、数泊してから南下して地方都市メーシュカへと赴きます。メーシュカは帝都から北東に位置する平原の都市で、魔法都市カルヴァンが出来る前までは、この街が主な技術都市でしたの。

 その昔、からくり好きな領主が私財をなげうってまで研究者へ手厚い厚遇を行った結果、大勢の研究者が住まうようになったようで、現在もそれは続いているそうです。されど時流の問題か、様々なカラクリを発明する者達でごった返してはいますけど、その研究者の大半がカルヴァンが出来た際にあちらへ流れていったらしいので、残っているのは偏屈な研究者と一般人だけですわ。世知辛いものですねぇ。

 けれども、残っている研究者でカラクリ技師同士のサークルを作っているらしく、その技術は難しい魔法が使用されていないにも関わらず、誰でも扱えるという点で実に重宝されています。たとえば、農耕は農耕牛に器具を取り付けて行うが一般ですけども、この街のカラクリはヴァルタイトをエネルギー源にして動作する、自動式農耕機ですのよ。聞いてみれば凄そうですけども、実際にお目見えするのは珍妙で巨大過ぎるカラクリが、杵を突くようにドッスンドッスンと土を均しているのが現状です。まだまだ、実用段階には程遠いですわね。


「農耕機が存在するとはな……エンジンが無いにも関わらず、機械を動かす動力の雛形があるという事か。まあ、まだ(笑)が付くレベルだが。数百年後に期待しようかね」


 おじい様的には、カラクリに一定の理解があるようですわね。街の人々からは生暖かい視線で見られていますけど、ひょっとしたら大化けする道具なのかもしれませんわねぇ。

 それと、メーシュカはもうすぐ吟遊大会が開かれるので、ちょっと街中が騒がしい様子でしたわね。祭りの用意もちょこちょこ設置されていて、浮足立っている雰囲気がしましたわ。ドワーフと違ってしっかりとした段取りのようで安心しますわね。



 さて、数日の滞在の後に、アタクシ達は遂にネーンパルラへ向かいます。メーシュカから南下して、大河のマルク大橋を渡った先がネーンパルラ地方となります。あそこは帝都の東隣なので、あと少しで北大陸を一周してしまいますわね。

 河を渡れば彼方に大森林が見えますけど、その前に小さな村があります。あそこはカミシュの村と言って、アタクシも以前の旅でお世話になったことがある場所ですわ。ネーンパルラまでは長いですから、今日はここで一泊してから明日出発となりました。

 ……しかし、ここの景勝地は闇の神殿、ですのね。

 闇の神殿は、アタクシも勇者の試練として赴いた事があります。歴代の勇者の皆が、闇の精霊王へ謁見するために赴くべき聖地の一つですわね。アタクシも昔あそこで闇の精霊王に拝謁し、試練を……ええ、試練を、試練を受けたのですけども……ううぅっ! 思い出したくありませんわ!? もう……もう蜘蛛を素材にするのはイヤですわぁ!?


 はぁぁ~……ああ、そうでしたわ、ここの地酒がブラッツでしたわね……あの、触覚が生えた多足で気持ち悪い赤蜘蛛のグルーモを漬けたお酒。案の定、夕食の席でグルーモのブラッツが出て、赤蜘蛛の瓶を見てケルティオもトゥーセルカ様も引いてましたわ。逆に、ネセレとおじい様はガパガパ飲んでましたけど。二人とも大食らいですし、この方々、ひょっとしてゲテモノ食い……?


 と、ともあれ、次の日に村を出てネーンパルラへと向かいます。

 ネーンパルラは大森林の中にある森林都市で、場違いな城壁が森の中でお目見えする、一風変わった都市ですわ。城壁は全て木材で出来ていて、ヴァルの宿った木材のお蔭で普通の城壁よりも頑丈ですの。パルラ木材が高級な理由は、その宿っているヴァルの密度が大きいから、ですわね。


 どこかの商会の物らしき馬車とすれ違いながら木材の城門を越えれば、そこは人間の街でした。外は鬱蒼と茂った森林なのに、この都市周辺だけは切り開かれてますの。だから日も当たるし、緑豊かで人混みも無く空気が良いと言うことで、貴族の静養地として人気の場所ですわ。

 木材建築の家々が立ち並び、適当に石材で舗装された道もあれば、土を均した程度の舗装路も多くあります。丸太小屋の店の前には、味のある看板が揺れてぶら下がり、風と一緒にどこからかウィンドチャイムの音色が聞こえてきます。……ああ、風情ですわねぇ。

 かつてはエルフが住んでいたとされる森ですけど、今は奥地に僅かな数が見られる程度との事。アタクシもこの森でエルフを見たことはありますけども、集落は見たことがないですわね。

 やはり一等宿に宿泊して、アタクシ達は休養を取ってから闇の神殿へと赴きます……けども、そう急ぐ事もないので、もう2日ほど滞在してから出発となりました。都市とは言っても、商店は少なく、材木関係の製材所が多くあるので、街という感じはしないのですけどもね。けれども、休養を取るにはいい場所ではありますわ。

 ネーンパルラの工芸は主に木彫りの神像です。ヴァルが宿っているので、一定のご利益が期待できるということで、お金のある家庭では小さな神像を家に飾っていたりしますの。ここでは天光神より大地神の像が人気のようで、次点では土の神ガイゼルムンドか風の神フェレシアーヌの像が多く売られています。

 どうせだしゲッシュの宿にも一つどうかしら、と思って見てみたのですけども、よくよく考えればあのゲッシュが神頼みをするとは思えませんし、どうせ手入れもしなさそうなので、やめておきましょう。あと、やはりおじい様の神像はありませんでしたわ。仕方がないので、おじい様の像ではありませんけども、三日月の意匠が入った木像を購入しましたわ。三日月はポピュラーな意匠ですから、おじい様の神像以外にも用いられていますのよ。


 さて、3日という短いようで長い休息を終えてから、アタクシ達は闇の神殿へと向かいます。ネーンパルラ南にある、森林の最奥に神殿がありますの。あの神殿は誰が作ったのかはわからないのですけども、古びた中に垣間見える見事な彫刻は未だに健在で、芸術的な建築構造に歴史学者からは高い評価を得ているらしいですわ。おじい様に聞けば、誰が作ったのかわかるかしら?

 しかし、闇の神殿へ向かうには森の地理に詳しい人物が必要ですの。森は迷いやすいですからね。道はありますけど、ギザギザした虫のような足を枝に見せかけて擬態した、一つ目のトラントという魔物が生息しているらしく、旅人を迷わせて食べようとする習性があるそうですわ。厄介ですけど、これらを看破するには狩人の力が必要なので、案内役の狩人を一人雇って向かいます。

 狩人は朴訥で垢抜けない、髭が特徴的な革鎧の殿方でした。狩猟犬を連れていて、背負っている弓は使い込んでいる様子ね。

 ぶっきらぼうな狩人の案内で、アタクシ達は南へと向かいました。以前、ここには来たことがありますけども、やはり何度来ても道を覚えられる気がしませんわ。……え、いえ、別にアタクシが方向音痴というわけではありませんわよ! ええ、そう! ちょっと道が複雑だからですわよ!! 最初に来たときもゲッシュとラーツェルが迷子になって大変でしたからね! 別にアタクシが迷子になったわけではありませんったら!!



※※※



 南下しつつ一晩野営をした後に、俺達の前の木々が唐突に開けて、小川の向こうに大きな建築物があることに気がついた。


「見えたぞ、アレが闇の神殿だ」


 狩人のおっさんの指差すとおり、白い石材で出来た大きな建物が見えた。なんていうんだっけ? 神殿のような? うん、そんな感じの建物だ。尖塔の先に光が灯っていて、遠目でも見ることは出来ていたけども、改めて目にすると大きいなぁ。

 ケルトと一緒に感心しながら見上げてると、メル姉がしみじみしてる。


「懐かしいですわねぇ。アタクシがここに来たのはもう…………暫定10年以上も前になりますのね」

「メルよ、さり気なく歳を誤魔化そうとしなかったか?」

「へぇ~、メル姉も来たことあるんだ?」

「当然、来ないと使命が完遂できませんでしたもの。大変でしたのよ? 他にも火と風の神殿の為にザーレド大陸に渡って、ヴォイ族に追い回されたり、ディア族に食べられそうになったり、リオ族をもふもふして癒やされたり、本当に大変でしたの……ふふふ」

「そ、そっか……でもリオ族ってなんなんだ? もふもふって……」

「ハディ、リオ族は兎の獣種ですよ。人間の腰程の高さしか無い、長耳が特徴で毛玉のようなと称される種で、外見がとても愛らしいそうです」

「へえ~……じゃ、抱っこすると気持ちよさそうだなぁ」

「問題は、彼らの種族的に抱きかかえられるのは拘束行動に近いので、それをやったら噛み付かれるそうです。リオ族の前歯は人の指くらいなら簡単に噛みちぎります」

「こ、怖いな……あれ、それじゃメル姉は大丈夫だったのか?」

「当然! このアタクシの美しさにリオ族は見惚れて、快くもふもふさせてもらう権利を得ましたのよ! 素晴らしいでしょう!?」

「正確に言えば、メルがリオ族に蔓延していた、病を持つダニに効く薬を開発したおかげなのだがなぁ。連中にとっては数百年来の宿敵を退治してくれた恩人ということになるから、便宜を図ってくれたようだ。まあ、当人らの顔を見るにものすごい嫌そうな顔だったが」

「あら? 可愛らしく髭を揺らして、舌をペロッと出しておりましたわよ?」

「アレは抗議のアクションだ。覚えておけ」


 なんか、メル姉がショック受けている間に、ネセレが神殿の周囲を見て回ってた。身軽な様子で扉の周囲を探ってて、けども開かない様子で舌打ちしてた。


「なんだこの扉……鍵穴一つ、蝶番一つありゃしねえぜ。どうなってんだ」

「あるわけなかろう。お前のような存在を締め出すために、神々がじきじきに作ったのだからな。まあ、現状は必要ないから閉じられている。また必要時に開くだろう」


 メル姉が居ても開かないようだな。それにメル姉は残念そうに……してないな。むしろホッとした様子で胸を撫で下ろしている。そんなに闇の精霊王に会いたくなかったのか?

 そんな俺達を尻目に、狩人のおっさんは野営の準備してる。ここで一泊するって言っておいたからな。あと、犬っころが周囲を探って焚き火用の枯れ木を咥えてきてる。賢い犬だなぁ。


「なかなか素敵な場所ですね……梢が囀り、せせらぎが流れ、日陰が草葉に落ちている。ここは闇の元素が強くあるようですね」


 トゥーセルカの言葉に、俺も思わず頷く。

 吸血鬼って闇のヴァルってのと相性が良いらしく、逆に光のヴァルとは相性が悪いんだってさ。だから、ここは俺にとってはいい場所に感じるんだ。気が安らぐっていうのか?

 そのままトゥーセルカが岩場に座って、リュートを手にした時、不意に俺の耳が何か声を拾った。

 小さな囁き声……詠唱だ!


「危ないっ!!」


 咄嗟に動いてトゥーセルカをひっ掴んでそのまま跳躍すれば、彼の居た場所に植物の蔓が伸びてきて、繭みたいになってた。なんだありゃ?

 唐突な襲撃でみんな一斉に戦闘態勢へ入る。


「敵ですの!? どこから……」

「敵影はありませんね……『第2の光精。払い、暴け』ベシュト・セルス!」


 ケルトが杖を持って放った魔法が効果を発揮し、輝く光の粒子が周囲を飛来した。生命反応ってのを探って追尾するらしい。

 植物の微かな発光の向こうに、たしかに大きな輝きが見えた。あそこだ!


「へっ、どこのどいつか知らねぇが、落とし前はつけさせてもらうぜぇ!!」

「言っておくが、傷つけるなよ」


 ネセレが小さなナイフを投擲すれば、それは輝く相手の傍に命中した。次いで、聞こえるのは小さな悲鳴……って、え、子供?

 俺と同じように驚いた感じでメル姉が叫んだ。


「ちょ、ちょっとお待ちになって!? この声は……」

「知ってるのか? メル姉」

「ええ、おそらくそこにいるのは……」


 メル姉は歩を進めて、茂みを掻き分けてネセレのナイフが飛んだ先を覗いた。


 そこには、小さな少女が居た。

 緑の衣がナイフで木に射止められてるようで、うんうんと唸りながらナイフを取ろうと頑張っている。


「んまぁ!? やっぱり貴方でしたのね! ダーナ!!」


 メル姉の素っ頓狂な声に、少女はビクッとしてから、こっちを睨みあげてきた。


 ……俺は思わず、その子の顔を見つめてしまった。


 黒く波打つ長い髪に、浅黒い肌、緑の瞳、植物で作られたような貫頭衣に、裸足。

 そしてその耳は尖っていた。エルフだ。

 でも肌の色が……。

 同じことを思ったのか、ケルトが眉を上げながら呟いた。


「ひょっとして、闇エルフですか? 光エルフのように突然変異として現れた、伝説の」

「ええ、そうですの。この森に残っていた闇エルフの生き残りが、この子ですのよ。以前、アタクシもこの子に邪魔をされましたの」


 闇エルフは敵愾心を剥き出しにしながら、犬みたいに唸るようにこっち睨めつけている。

 な、なんか嫌われてるな。


「あ、アンタ達……ここに何の用よ!? 人間なんかさっさと巣に帰りなさいよねっ! ここはアタシ達エルフの聖域よ! 観光地になんて、さ、させるもんですかっ!!」


 エルフの言葉に、俺達は思わず顔を見合わせた。

 メルが膝を着いて、ダーナと呼ばれたエルフに話しかける。


「ダーナ、覚えていませんの? アタクシ、10年くらい前に貴方に邪魔をされた勇者ですわ」

「……勇者? ……ああ! あのときのタカビー女! っていうか、10年前じゃなくて20年近く前じゃない……な、なによ、蜘蛛相手に泣きわめいて逃げてたのに、また性懲りもなくやってきたのね!」

「く、蜘蛛はともかく! ……貴方、まだこんなことをやってらっしゃるのね。それに、観光地って何のことですの?」

「う、うるさいうるさいっ! あの騎士をけしかけて来たアンタなんかと話すことなんて、な、何も無いわよ! とっとと森から出ていきなさい!」


 キャンキャンと取り付く島もない。

 そんなエルフへ、爺さんが興味深そうに見にやってきた。


「随分とじゃじゃ馬な子供のようだな。元気そうで結構結構」

「な、なによアンタ……! 変なこと考えてるんじゃないでしょうね! 言っとくけど、アタシに手を出したらケーズムが黙ってないんだからねっ……!」

「ケーズム?」


 と、そこで地響き立てて、森の奥から何かが姿を現した。


 それは、巨大な土塊で出来た何かだ。

 まるで石像のようなのに、自分の足でしっかりと歩いているそれに、俺は思わず唖然となった。

 そんなこっちを見下すように、ダーナは胸を張って指をさす。


「さ、さぁケームズ! この失礼な連中を、放り出しちゃって!」

「ぐごごごぉぉ~!」


 軋むような声を上げながら、石像はこちらへ手を伸ばしてくる。

 思わず臨戦態勢になった時、カロン爺さんが一歩、前に出た。

 そして、言ったんだ。


「なんだ、またこの森に戻ってくるとはな。随分と気まぐれな精霊だ」

「ぐご?」

「私がわからぬか? まぁ無理もなかろうが、しかし喧嘩を売る相手は選んだほうが良いぞ、土の精霊よ」

「……ごごぉっ!?」


 唐突にケームズと呼ばれた石像が跳び下がって、爺さんに向かって頭を下げてた。

 これには俺達もダーナもポカーンだ。ただ、ケルトとメル姉はもう悟ったような顔をしていた。なんなんだ。


「よしよし、なんだ素直な奴だな。可愛い奴め」

「ぐごごっ! ごご~ん!」


 3メートル級の石像が、飼い主にじゃれ付く猫みたいになってるなぁ。

 と、そこでぷるぷると震えてたダーナが奇声を上げた。


「な、な、なにをやったのぉアンタ!? なんでケームズがアンタなんかに懐いてるのよ……! お、おかしいわっ!! 変よ! 絶対に変よっ!!」

「はっはっはっ! ほ~らほらほらここが良いんだろ~?」

「ゴロゴロゴゴ~ン!」

「ち、ちょっと! 人の話を聞きなさいよね……! こっち見なさい! こらっ!」

「はぁ~はっはっはっは~!」

「このっ……ケームズ! ケームズったら……!!」

「ごご~ん!」

「……ううっ、ば、馬鹿っ! もう知らないんだからっ!!」


 無視され慣れてないのか、ダーナは踵を返して森の中へと走っていってしまった。

 それを見送ってから、俺ははっと我に返った。


「え、ちょ、大丈夫なのか? 泣いてなかったか?」

「ははは~……ああ、いいんでないか? 手を出してきたのはあちらだし、そもそもこちらへの敵意なんぞ無かったしな」


 言われてみれば、確かにダーナが放ったらしき魔法は、束縛の魔法だったな。

 でもさぁ、女の子を泣かせてそのまんまってのは、なんか嫌だ。

 だから、俺はちょっと小走りで追いかけることにする。


「俺、心配だからちょっと見てくる!」

「お~、頼んだぞ~。……うむ、やはりあいつは主人公属性があるな。きっとエルフ娘もニコポナデポで落とされるに違いあるまい」

「おじい様、そのニコポナデポという呪文はなんですの?」

「天の彼方から放たれるフラグ魔法だ。この魔法を受けた者は決して滅びず、世界を救ったり、死んでも生き返ったり、世界一の強さになったり、大金持ちになったり、女の子の大軍にキャーキャー言われたりするのだよ。全ての世の男性が夢見る上位世界の魔法だな」

「それって勇者とどう違いますの」

「ぶっちゃけ、あんまり違わないな」


 そんな与太話を背後に受けつつ、俺は蝙蝠に変じながら、森の合間を抜けてダーナを追った。

 ……で、ニコポナデポってなんなんだ?



※※※



【第2世代魔法について

 呪文とは原初の魔法使いエーティバルトが考案した、魔法に於いてもっとも重要な要素である。エーティバルトは第二世代の魔法体系を作り出し、世に広めた偉大なる魔法使いの名であるが、彼が考案したこの呪文の法則性は、現在の魔法にも用いられている程なので、ここでその法則性の一端を紹介しようと思う。


 まず、第2世代魔法は今から1300年前まで主流となっていた魔法体系である。魔術神の出現から後に新たなる第3世代魔法が現れ、現在ではこちらが一般となっているが、それまでの呪文は自由な構文を用いて使用されていたようだ。

 第2世代魔法の呪文式だが、非常に単純明快で加算式なのだ。

 呪文の単語毎に数値が決まっており、その数字を合算したものが、完成した魔法のレベルとなる。精霊はこのレベルに即した存在を呼ばねばならなかったようだ。また、魔法士が現在扱える限界レベルというものもある。限界以上のレベル魔法を扱うと暴走し、身体が吹っ飛んだりと悲惨な事になるケースが多く、また魔法は使うと精神疲労で失敗しやすくなるという傾向が多いのは、現在も似たようなものである。


 呪文には属性形があり、呪文属性に沿った形で末尾にこれを置かねばならない。例外もあるようだが、これはごく一部であるので割愛する。

 これらは1レベル→4レベル→6レベル→8レベルによって意味もランクアップしていく。

 火の属性形の場合は、


 レベル1:フレム=火

 レベル4:フレス=炎

 レベル6:フレイア=火精

 レベル8:フレアーヴィド=炎獄


 となる。

 単語としてよく活用される言葉は「ラ」であるが、これは「留まる」「停滞」を意味する。

 これを用いた「ラ・フレス」は「灯火」という意味となる。

 同じように

 ラ・マウル=貯水

 ラ・フェリス=送風

 ラ・ムンドゥ=土塊

 となる。


 他によく使われる単語一覧……


 ラダ=守護、壁(術者から10m以内が対象、半径は最大2メートル)

 マ=纏う(半径1メートルの身近な対象にしか不可)

 ビン=大きい、長い、大量(ビン・フレムで火柱)

 スン=小さい、短い、少量

 ベシュト=追尾、捜索

 エマ=縛る、捕らえる

 バドレ=変化、与える(バドレ・ビンで強化)

 カムル=暴れし、巻き上げ、四方八方、ランダム(カムル・フレム=爆風、カムル・フレス=爆炎)

 セクト=圧縮、固着、硬い(セクト・マウル=氷)

 アマネシュト=広範囲

 カトゥ=貫く、貫通


               エルベン・マグリル著「初等魔法理論学」より】




 「セルシュ様、過去のデータを探っている時に

  神語に類似した魔法言語の基礎となる代物を大量に見つけたのですが、

  これはどういう代物なのですか?」

 「ああ、それは……大昔、ティニマ様とルドラ様が魔法に関して話し合った時に……


『ルドラー、架空言語作ってよ! 難しくってあたしじゃ無理~』

『自分で作れノータリン!……そもそも、言語なんて適当に作れば良いんじゃないか?』

『適当って?』

『例えば適当な音を当てはめたり、既存の言葉に当てはめたり……

 どうせ意味なんてわからないんだから、適当でいいんだよ、適当で』

『わかった! じゃあ適当に作るねー!』


  ……という感じで作られたそうですよ」

 「その光景が目に浮かぶようですね……

  で、この《ギャル文字》とか《ハナモゲラ語》などの神語もどきも、

  あの方々が適当に作った言語なのでしょうか?」

 「さあ?」


          後世での魔術神ゲイルロードと光の神セルシュとの会話】



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