仲良しはトリオだと相場が決まってる
豚子女史にお礼を言われてしまった。なんだかちょっと感動してしまった気がするぞ。
うん、面と向かって「ありがとう」と言われるの、久しぶりだから……あれ、なんか涙が出そうになってきた。感謝されにくい立場だからねぇ、ちょっとの感謝でもすごく嬉しい、うむ。
それと、彼女もこちらへ便宜を図ってくれるらしく、それに一にも二にも無く了承した。ほら、私は基本的には不干渉なスタンスだから。人の世は人でなんとかすべし、って感じだったから、化身として降臨してても出来るだけそこは重視したいのだ。
しかし、みんなあっさりと私の正体を看破するなぁ。ひょっとして魂の気配が滲み出てる? 隠す意味合いがあんまり無い状態なので、もうちょっと魂の気配の隠蔽をしておこうかな。代わりに周囲の元素が渦巻くことになるけど、まあいいか。神だってバレなきゃいいんだし。
それで、シェロス氏の報酬の件だが。
ネセレの捕縛は駄目だったって事にしたので、報酬は金貨10枚だけだった。ところが、この10枚はなかなか大きいようだ。この世界の金銭価値が未だによくわからないのだが、どうやら帝都の家くらいなら余裕で購入できる値段なんだってさ。ま、日本との土地価格とか違いすぎるから参考にはならないんだけども。
でさ、それならってことで、とりあえず金貨2枚をゲッシュに収めて、一階の酒場を再開してもらうことにした(なお、渡した時にゲッシュはもの凄い顔をしていた)。とにもかくにも、店を再開するには金が必要だから。
ネセレが溜めてたお宝も残っていたから、こちらもつぎ込み、更に追加の金貨5枚で外観の修理をシェロス氏に依頼しておいた。数年しか経ってないのにボロボロだからね。なんかゲッシュが感動して男泣きしてるけど、私は近づかない。男に抱きしめられる趣味はない。ハディが被害に遭っていたが、まあ尊い犠牲だよ、うん。
それから、嫌がらせに関しての対策だけど。
メルメルがとりあえず結界を張ってたけど、私も密かに店の周囲に魔法で永続結界を張っておいた。なお、魔法のレベルは8です。普通の人間じゃ解除は無理だね。この結界は悪意ある連中の攻撃性のある行動すべてを阻害する代物で、ただの人間じゃあ暴力一つ振るえませんよ。凄いでしょ? メルメルの防御結界もあるし、これで店先へ糞をぶちまけられる心配も無いだろう。投げた瞬間に自分の顔面に命中することになるだろう。
でさ、依頼が来るには名声が必要で、宣伝をしなきゃいけないわけだ。シェロス氏にこの店の宣伝もしてもらうことにしたし、豚子女史にも頼んでおいたから、商人の間ではぼちぼちと名声が広がるはずなのだが、それだけでは心もとない。
ところが、街頭で喧伝しようにも邪魔が入って不可能なので、だったらと私が出張ることにした。
帝都へ来て一番最初に泊まった高級宿まで出向き、ゲッシュの宿に関して広告してもらうようにあえて大声で頼みつつ、反応を見る。揉み手でこっちの話しを聞いてた主人だが、私の話を聞いて、ものすっげぇ微妙な表情をした。流石に皇帝がじきじきに嫌がらせしてる、なんて知るわけないだろうが……どうせ中間にどっかの貴族が入ってて、その忖度として非協力的になってるんだろう。
なので、私は交渉をしつつテーブルの上に金貨20枚を載せて頼んでみた。が、主人は、それはもうすっごい顔で冷や汗だらだら。欲と打算の入り混じった葛藤を超えたのか、結局は頭下げられて拒否された。そりゃそうだね。そっちに頼んできたお得意さんの機嫌を損ねるわけにはいくまい。まあ、私が金貨を仕舞う時は、なんとも言えない切ない顔をしてたけど。
そもそも、これの狙いは金持ち連中へのパフォーマンスなんだがね。あえて大声で何か騒ぎを起こし、注目している金持ちの客人の前で大金を置いてみた。それに何事かと目をつけた人々は、おそらく噂するはずだ。隠されしものは暴かれるのが常だからね。自然とゲッシュの宿は、金持ちの間で認知されるようになるのだ。
これくらいはするよ。でも今後は定命の者達の仕事だから、私は飯でも食って寝るぜ。日に日にケルト達から向けられる視線が微妙な代物になるが、知らんなぁ、私は知らん。
・・・・・・・・・
さて、ネセレが仲間になったが、彼女は田人で才人なので元から強く、戦闘などで彼女がいるとケルト達の訓練にならないので、あまり手を出さないように、と釘を差しておいた。あくまで、冒険は彼らの成長が主だから。まあ依頼って言っても、良いものは近場の森で素材収集、あとは足で稼いで見つけてきたドブさらいとか、下水掃除とか。ほら、不浄関係って嫌われ者の仕事だから、なり手が少ないんだよね。細菌という概念が薄いこの時代、不浄に近寄らないのが一番の対策だったりする。
……え、私は行かないのかって? 行くわけないじゃん。簡単すぎる依頼は彼ら二人に丸投げだよ。あと汚くなるのは嫌だ。
依頼がない日の、二人の訓練はネセレに任せている。宿には広い裏庭があってさ、ここで身体を動かせるんだよ。ゲッシュが必要だって事で敷設したらしいけど、非常に助かる代物ですな。
ネセレはスパルタ訓練士なので、それはもう罵詈雑言が飛びまくる飛びまくる。「玉なし野郎!」とか「てめぇそれでもモノがついてんのかぁ!?」とか「もっと気合い入れて避けろこの能無し!!」とか、お前はチンピラか。ああ、チンピラだったわ。で、それに揉まれる二人も悲鳴を上げながらメキメキと腕を上げている。才能はある二人だからね、ステータス急成長だよ。勇者ほどではないが。
ハディは転生特典による剣術の才能があるので、ネセレから没収したお宝にあった、そこそこに業物の剣を持たせて戦わせている。剣術の才を持つハディは、不慣れな動きからあっという間にこなれた動きに変わり、今では剣無しじゃ考えられない程の動きを見せるようになった。先が楽しみだなぁ。
で、ケルトだけど、彼は短縮呪文を覚えたわけだが、これは精神的に昂揚しないと扱えず、また光属性のみという縛りもある。しかしもっと凄腕になってほしいので、私が魔法に関してのレクチャーを続けている。流石にメルメルに釘を差されたので、ハディの訓練みたいにメチャクチャはしない。
主な講義は扱える初歩魔法の練度上昇と、発動速度の最適化だな。なお、私の訓練の後にはメルメルの錬金術講座も履修している。元が付くとはいえ錬金科の講師だからね、スパルタだけど腕は良いのだ……ん? スパルタだらけだな?
そういや、メルメルってケルトの事を知らなかったみたいだけど、それはケルトが錬金科を受講していなかったせいらしい。錬金術は魔法の応用だから、基本しか扱えないケルトは不要と思って受講していなかったようだ。でも、学園で目に入った時は何度か手助けしていたらしく、メルメルは当たり前すぎる事をやっただけだからって忘れてたみたいだけど、ケルトは覚えてたようだねぇ。
しかし、ケルトへの負担がデカ過ぎて、毎日のようにぶっ倒れているようだが、まあ頑張れ。魔法士って事で体力をつけないでいるから倒れるのだよ。戦いの資本は体づくりからだよ、君。
そんな感じで、半年くらいがあっという間に過ぎ去ったのである。
※※※
ある日の依頼、珍しく5人で魔物退治に出かけている時の事。
巨大蜂を3体まとめて細切りにしたネセレは、悪態つきながらナイフを弄んでいる。
「けっ! ワスプなんざ夕飯にもなりゃしねぇぜ」
「ふむ、ワスプは食べれるのだろうか?」
「おじい様、食い意地張って魔物まで食べないでくださいまし」
「何を言うメル、私とて魔物をそのまま食うつもりはないぞ。ちゃんと火は通す」
「そ、そういう問題なんでしょうか……?」
「っていうか、食べれる部分ってあるのか? 死んだら消えちゃうし、魔核くらいしか残らないじゃんか」
「ううむ、蜂の子みたいに炒めればいけそうな気もするのだがなぁ」
何気に昆虫食を計画するあたり、悪食の気もあるのかもしれない、とメルはドン引きしていた。
……ここはガゼリス周辺の丘陵部。最近、この近辺で魔物がよく見かけられるため、退治依頼が入ったのである。で、暇していたカロンがパーティを引き連れてやって来ていた。
夕方になってようやく現れた『ワスプ』という巨大蜂の魔物を駆除していれば、不意にハディが気づく。
「……あれ? あの崖の上に誰かいないか?」
「あん? なんだぁありゃ」
目を向けた一同の向こうで、夕日をバックに誰かが居た。否、なんか決めポーズしてた。
こちらが気づいたのを見たのか、その連中は叫んだ。
「いくぜ二人共! フォーメーションBだ!!」
「オッケェ!」
「うむ」
バババッ! と3つの影が崖から飛び降り、唖然とする一同の前で見事に着地し、
「……獣剣のライド!」
獣人が剣を振ってビシィ!っと構え、
「イケイケ炎魔法士のミライア!」
魔法帽子のピンク魔女がセクシーポーズで杖を構え、
「そしてこの俺様こそがぁ! 北に名だたる疾風のジャド!!」
バンダナ男が剣を天に掲げて決めポーズ。
「「「我ら、竜巻旋風団!!」」」
ドドドーンッ!! と背後が唐突に爆発した。
エフェクト魔法で際立ったそれは、まさに特撮か戦隊モノなアレである。
思わずポカンとした一同の中で、カロンが妙に感動したように拍手を送っている音だけが響いた。
沈黙の場の中、立ち直ったケルトが怪訝な顔で指をさす。
「……え、えっと、貴方がたは確か同じ宿の……」
「そのとぉり!! オレ達ははるか北のゴド・ヴェンガードからやってきた、名だたる冒険者パーティ!」
「そうそう、確か竜巻なんとかという、なかなか愉快なパーティが来たとゲッシュさんが言ってましたね。貴方がたの事でしたか」
「ふはははっ!! かくいうお前らこそ、宿一番の問題児の集まりだそうじゃねぇか!!」
「も、問題児?」
ジャドの言葉に、ケルトが怪訝な顔をする。
そんな一同へ、ジャドはビシィっと指差し宣う。
「まず! ゴロゴロするだけの狸爺と評判の怠け者! カロンとはアンタだな!?」
「ん? ああ、そうだな」
「確かに噂に違わぬ狸っぷりだぜ! オレじゃなけりゃ騙されるとこだった!!」
「私が何を騙していたのか気になる口ぶりだな」
「そんで次ぃ! 錬金術師のミステリアス美女のメルさん!」
「ええ、アタクシがそうですけども」
「サインくださいっ!! 実はオレあんたのファンなんですっ!!」
「……は? え、ええっと、簡単なのでよろしければ…」
「ありがとうございますっ!! ……いえーい! オレ、メルさんのサインもらっちゃったぜー! どうだお前らー羨ましいだろー!?」
「あぁら、アタシ以外の女に見惚れるなんて腹立つ男ねぇ、ジャド」
「バーカ! 誰がお前みたいなピンク魔女に見惚れるかってんだ! 鏡見て出直してこい!」
「ビン・フレム!」
「あああぁぁぁぁっっ!?」
炎魔法でぶっ飛ばされるジャドが哀れな悲鳴をあげるのを横目に、ミライアが続けた。
「それで、そっちの貴方は《盗賊》のネセレね? どこかの大盗賊とおんなじ名前の」
「……なんだぁ、文句でもあんのか?」
「いいえ? ただ、随分と可愛らしいお人なのねって思っただけよぉ」
「あ? ぶっ殺されてぇのかクソアマ」
「ほほほっ! まっさかぁ~! 冗談よ、ジョ・ウ・ダ・ン!」
永遠の幼児体型なネセレが殺気立った目で相手を見るも、ボンッキュッボン(死語)な魔法士は高笑い。いっぺんぶっ殺してやろうか、とネセレが危ない目でナイフを抜くのを、メルが頭痛がするような顔で止めている。
女性同士の殺気立ったブリザードから避難する男連中。こういう手合いは関わらないほうが身の為である。
「ぐぉぉ……顔面が崩壊するぅ……」
「……落ち着けジャド、顔は元々壊滅的だ、うむ」
「喧嘩売ってんのかライドォ!?……と、ともかく、後はえっと、その……」
這い上がったジャドは、しかしケルトとハディを指さして、あーとかうーとか唸るだけ。
「…………ええっと、なんか無名なおまけ二人!!」
「おまけ……俺達っておまけ扱いなのか?」
「まあ、間違ってはいませんね」
「ともあれ!! お前たちに告ぐ!! この狩場はオレ達のものであり、後から来たお前らはお呼びじゃねぇんだよ!! ってなわけで、とっとと尻尾巻いて逃げ帰れってんだ!!」
「…………はぁ?」
ジャドの一方的な要求に、一行はなんとも言えない顔をしている。
「ええと、ジャドさん? この丘陵部は誰の所有物というわけでも無いと思うんですが……そもそも、国の土地という方が正しいのでは……」
「っかー! ちげぇよバーカ! この魔物が出現する狩場は魔核を乱獲するに相応しい場所だぜ! だから! オレ達がここを占有しているってこった!!」
「乱獲って……」
「……お待ちなさいませ。その口ぶりでは、貴方がたがここへ魔物を引き寄せているように聞こえるのですけど」
「おお、その通り!!」
はぁぁ? と怪訝な声を上げる一行へ、女魔法士がごそごそと香を取り出して言った。
「い~い? このお香は魔物を呼び寄せる特殊な配合をしたお香なのよぉ。だから、魔物、特にワスプはこれに引き寄せられて、夜ごとにやってくるってわけぇ。で、寄ってきたそいつらを罠にかけて一網打尽にして、あとは魔核を手に入れて大儲けって算段なわけねぇ」
「……それは、国で禁止されている調香ではありませんか?」
「ええ、禁止されていますわね」
「え、そうなのぉ? これ、アタシが自分で作ったんだけどぉ……え~、もう作ってる人が居たなんてねぇ」
「なるほどな。お前たちがここでその香を炊いたから、こうして魔物が多く見られるようになり、討伐依頼が出されたわけだ。なんとも、お騒がせな連中だなぁ」
「けっ! くっだらねぇ」
しかし、とメルは少し鋭い目で三人を見る。
「偶然とは言え禁止されている香を作り出し、乱用したのは事実。今回は問題なかったとは言え、一歩間違えれば被害が拡大している可能性があった事案ですわ。本来ならば、すぐにでも国に報告して捕らえてもらうところですけども」
強いメルの視線に、ジャド達は流石に狼狽した。
「な、なんだとぉ……!?」
「そ、それは困るわぁ……帝国を敵に回すなんて嫌よぉ」
「けれども、故意ではないのならば情状酌量の余地はありますわね。二度とそれを使わないと約束するのならば、お目溢しも宜しいですわ。ゲッシュを困らせるわけにもいきませんし……幸運なことに、被害は無かったのですからね」
「ほっ……」
あからさまにホッとする三人に、しかしメルは厳しい目を向ける。
「けれども、近隣住民の方々を脅威に晒したという事実は、思いの外、厳しくありますわよ。考えなしに物事を起こせば、必ず自分の身に振り返るということを、肝に命じておきなさいな」
「うっ……! それは、その……わ、わかったぜ。メルさんが言うなら仕方ねえな……」
「わかれば宜しいのですわ」
見た目とは裏腹に教師然としたメルに、ハディとケルトはこそこそと言い合う。
「やっぱさ、メル姉って学園でもあんな感じだったのか?」
「まあ、概ねあんな感じではありましたね。学園ではやんちゃをする子供が後を絶たないので、講師陣は威圧的ではありましたが、特にメルさんはなかなか……怒らせると怖い方と評判でした」
「怖いって、具体的には?」
「召喚した精霊と極限まで遊ばされるそうです。下手をすれば死にかねない攻撃を、ギリギリの間際で避けさせられる訓練とか、或いは本当に腕を失った者もいるそうですけど、それを一瞬で治しながら笑顔で『さあ頑張ってくださいませ』と言うそうです。そこから付いた裏の名前が《微笑みの女王様》とかなんとか……」
「へぇぇ~、カロン爺さんそっくりだな」
「ちょっとそこの方々、聞こえてましてよ」
その合間、立ち直ったジャドは再び指差ししながら言う。
「と、ともあれ、ここで会ったが三年目……実に都合の良い状況だ! これからオレたちとお前ら! 最強の冒険者パーティがどっちか決めさせて貰うとするぜ!!」
「……最強の冒険者パーティ? なんじゃね、それは」
「決まってるぜ! 北で名高いオレ達と、南で名高いお前ら! どっちが冒険者としての力量が上か、きっちり最初っから教え込まねば後腐れもあるってなもんだぜ! そういうわけで、まずは」
「はいはい、うんたらかんたらごにょごにょ~っと転移魔法発動」
ブォン! と発動した転移魔法陣がジャドを包み、その姿を消した。
これに仰天するのはピンク魔女だけ。魔法士二人は諦めた顔で遠い目をしている。
「ちょっ……今、何したのよ!? 明らかにおかしい魔法が発動しなかった!?」
「さぁて何のことやら~」
驚く女魔法士に、カロンはすっとぼけながら酒瓶出して飲み始めた。おかしい、明らかに異常な魔法だったわ、とぶつぶつ呟き始めた魔法士に、思わずケルトとメルもうんうん頷いている。
と、なんとか我に返った獣人が、カロンへ尋ねた。
「それで、ジャドはどこへ?」
「んあ? ああ、奴ならケンタックに送っておいたぞ。なにやら喧しそうだったし、見ている分には面白いんだが絡まれるのは面倒だからな。よくて衆人観衆の前で恥を掻いてる程度だろ」
「うむ、そうか……ミライア、迎えに行くぞ」
「ちょ、ちょっとまって、アタシは今起きた事象に関して魔法士としての究明をぉ」
「向かいながらやればいい。行くぞ」
ズルズルと引き摺られながら去っていく二人を見送り、ネセレがぼやく。
「……んで、なんだったんだ、あいつら」
「面白トリオなのだろう、おそらく。私好みの連中で大いに楽しい道化役者だな」
「おじい様、変な事はお考えにならないようにしてくださいませ」
「失礼な奴だな、お前は」
などと言い合いながら、一同はワスプを駆除してから、悠々自適にガゼリスへの道を戻っていくのであった。
そんな、冒険の日々の一幕である。




