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どうも、邪神です  作者: 満月丸
冒険者編
28/120

神もおだてりゃ木に登りますよ

 結局、ヴァルスは私の休息を認めて冥府へ帰っていった。


「とりあえず、父上は全て忘れてゆっくり休んでてください」


 という掌返しのような事を言っていたが、私は病人か。

 しかし、別れ際にケルトへ、


「父が何かやらかしそうな時は、私の名を叫んでください。すぐに飛んで行きますので」


 とか言っていたのは何なんだ。そんなに私、信頼ないか?

 そしてケルト、神妙な顔で頷かない。っていうか、もう正体バレてるよね?

 くそぅ、みんなして私を苛めてさぁ。


「ご自分の胸に手を当ててお考えになったら如何ですか?」


 辛辣なエルシレアちゃんの一言。なんだよぉ、私が何したっていうんだよぉ。


「そうですねぇ、主上が私共へ話を通さず、グリムちゃんへ勝手にあげてしまった半獣の魂の件とか」


 あ~はいはい、そんなことあったね~はいはい。すんませんね邪神で。


 ともあれ、息子夫婦と別れて、我々も行動を起こすことに。

 しかし、何故かナチュラルにメルメルがくっついて来ることになってた。

 その理由を尋ねたところ、


「おじい様が下界で何か仕出かさないように、監視せねばいけませんもの」


 なんだよぉ、お前も私への信頼が無いに等しいな。失礼しちゃうんだもん! ぷんぷん!


 と、年甲斐もなくプリプリ怒りつつ、とりあえず目立ちに目立った魔法都市を後にして、帝都に戻ることにする。皇女なメルは大丈夫なのか、と思ったけど、変装するんで大丈夫だってさ。じゃ、心置きなく向かえるな。


 そんなわけで、一同は乗合馬車を捕まえてケンタッキーへと向かったのである。ああ、なんか腹減ったな。



※※※



 はい、5日くらいかけて帝都に帰ってきましたよっと。


 それで、これ以降の動きをどうするかって話だけども、まずケルトには大成してもらいたいので、呪文構築に関して学んでもらうために先人へ教えを請うてもらいます。欲を言えば田人の爺さんがいいんだけども、ほらあの爺さん、最近になって時空間魔法習得してさぁ、自分の領域に引きこもってる。引きこもりだな。……なに、人のこと言えないって? だまらっしゃい!

 で、爺さんは当てにならないので、素晴らしき先人を探さねばならないのだが、その適任だってあんまり居ないんだよ。居ても魔法が本場な翼種だったりしてゲンニ大陸には居ないのだ。つまり、人種でケルトの望む知恵を持つ人は居ないということになる。

 じゃあどうすんだ、と思うかも知れぬが、なぁに大丈夫大丈夫。

 《魔法道具》から学んでもらうのだよ。


 ……魔法道具と言えば錬金術だが、これってヴァーベルが創り出した分野だ。しかし、それをメルに教えるまで、様々な工夫を凝らして魔法を道具に定着していたのが、元祖魔法道具と言うべき物たち。今でこそ錬金術でちゃっちゃっと作れるようになったが、前まではいろんな手法による試行錯誤で作られていた。

 例えば、偶然呪文以外で神語っぽい新言語を発見した人なんか、文字としてそれを道具に刻んだりして凄い道具を作ろうとしていた。ただ、あまりにも強力すぎて暴発とか起こしてて、結局は解明する前に爆発によって発見者ともども無に帰したから、世に出ることはなかったのだ。

 ようは、過去の魔法道具ってのは、さまざまな知識の集体なのだ。それを独自で解明していけば、いつかは自分だけの呪文式を編み出すはず。たぶん。

 ……あぁ、私が口出しできれば楽なんだがね。当人で頑張るって宣言してたし、なら私はそれを尊重するまでだけど、なんだかヤキモキするなぁ。例えるならば、一度やったゲームのネタバレを我慢しているかのような気持ち。あぁ~超言いてぇ! 超教えてぇ!


 ……ま、まあともかく。


 ケルトに関しては魔法道具収集で、ハディはレビの様子を見つつ、一人でも生きていけるように鍛えていくということで。え、メルメル? さぁ? 自由でいいんじゃない?


 そういうわけで、帝都に着いてから我らはメルメルの案内で、拠点となる安宿へと赴いた。……余談だが、この渾名を付けたのは私ではない。これから会う人物が付けたのだ。

 大通りから西へ逸れて、そこそこに人通りが見える中通りに存在する、外見はボロっちい宿だ。

木造なのだが家屋はガタガタ、ところどころ穴が空いているボロっちい雰囲気……大丈夫かこれ、と思わせる外観だな。

 思わず不安げにメルを見るハディ達へ、当のメルは眉を顰めながらも頷いてくれる。


「だ、大丈夫ですわ。ここの主人は癖がありますけど、アタクシの身元がバレる心配もありませんから安心ですの」


 まあ、そうだろうけども。

 そして、ギギギィ……と軋んだ音を立てて宿の扉を開けるが、中は明かりもなく薄暗い。まるで廃屋じゃのう。


「そんな筈は……ゲッシュ、ゲッシュ! アタクシですわよ! いらっしゃいませんの!?」


「……うるせぇ! そう大声出さずとも聞こえてらぁ!!」


 濁声だしながら出てきたのは、禿頭で黒髭なずんぐりむっくりのドワーフだ。赤ら顔で酒でも飲んでたのか、酒瓶片手で酩酊した目でこっち見てる。

 と、ドワーフが皇女ちゃんを目にして、真ん丸な瞳で指さした。


「……って、メルメル! メルメルじゃねえか!! ひっさしぶりだなぁおい!!」

「ええ、お久しぶりですわね、ゲッシュ」


 お~実際に会うと本当にドワーフだな、このおっさん。私の胸ほどまでの上背しか無い。

 と、そこで見ていたケルトが不思議そうに呟いた。


「ドワーフの方ですか? 帝国では珍しいですね」

「あん? なんだぁ、痩せっぽっちで枯れ木みてぇな人間だなぁ。あんた、メルメルのコレかい?」

「まさか、私ごときがそのような立場には預かれませんよ」

「ま、そりゃそうだなぁ! なんたってメルメルも御年さんじゅう」

「ゲッシュ?」


 低いその声に、ゲッシュはハッとなってからガハハっと頭を掻いて誤魔化した。うん、軽口の多いドワーフだ。

 コホン、とメルは咳払いしてから、皆にドワーフを紹介した。


「ああ、皆様。この方は見た通り、ドワーフのゲッシュという者ですの。かつて、アタクシの使命のため、共に旅してくれた恩人ですわ」

「おう! ガル・ミンシェーレのゲッシュだ! まぁよろしくなぁ!」


 そう、ドワーフのゲッシュ。

 メルの勇者としての旅に同行し、彼女を補佐した英雄の一人なのである。

 ドワーフ流の名乗りに、初めてドワーフを見たらしきハディが小首をかしげている。


「ガル・ミンシェーレ?って、なんだ?」

「ドワーフの名乗りの一種ですわね。彼らは名の前に、出身地を入れるのが習わしですの。《ガル》は村を意味してますわ」

「ま、正式名称なんざここ数十年ほど使ってねえけどな!!」

「へぇ~」


 なお、エルフの名乗りも似たようなもんです。こういう名乗りは異文化してるんで私は好きだ。


「それで、我らはこの御仁の世話になる、ということでいいのかね? メルや」

「ええ、ゲッシュはアタクシのことを秘密にしてくださいますし、おじい様の手を煩わせるようなことにはなりませんわ」

「なんだなんだぁ? この爺さん、メルメルの爺さんなのか?」

「いえ、そういうわけでは無いのですけど……そうですわね、前にお話ししませんでした? 以前、夢の中に出てくる老人がいると」

「……おぉっ!? そうかあの爺か! 乙女の夢に出てくるなんざとんだスケベ親父だと思ってたが、面構えはスケベどころか犯罪者だな!!」

「口さがないな、君」


 だが嫌いじゃないぜ。

 神になってからというもの、こんな対面で悪しざまに言われる機会が少ないから、なんか新鮮。ヴァーベルもティニマも、口は悪くないんだよねぇ。元は育ちが良かったんだろう。え、私?……さあ?


 なんか慌てた感じでゲッシュを諌めるメルに手を振ってから、本題に入る。

 冒険者になるため、この宿を拠点にしたいって話だ。

 しかし、ゲッシュはう~む、と腕組みして唸った。


「そうしてぇのは山々だがなぁ、どうにもこの宿は赤貧状態なんだわ!」

「それは、まあ外観から見ればわかりますが……」


 ぼそっと呟くケルト。皆が同じ意見である。

 しかし、それに納得しないのはメルである。


「けれども、どういう事ですの? 仮にも世界救済の旅を共にした貴方の宿が、こんな風に廃れるだなんて思えないのですけども。戦士としても一流の貴方が」

「そうなんだぜ! なんかよぉ、宿でも経営しようかと思って開いたはいいが、他の連中から嫌がらせを受けてんだわ!」

「は? それはどういう……」


 ゲッシュは語った。まあ、ありきたりというか、よくある話だが。

 ゲッシュは仮にも英雄と言うべき立場なのだが、それを妬む連中は一定数存在するのだ。それで、何やら他の宿経営者が結託して悪評を流したり、ある事ない事を言いふらしていたんだとさ。日によっては宿の前に汚物が投げつけられてたり。ううむ、姑息じゃのぅ。

 それには流石のハディも柳眉を顰めてる。


「ひどい話だな……ゲッシュさんは何もしてないんだろ?」

「おおよ! 人様に顔向けできねぇことなんざ、ガキの頃にくっついて行った狩猟で鳥を1匹ちょろまかした時以来、やってねえぜ!」


 微妙に食い意地が張ってる子供だったんだな。というか、ドワーフって翼種の血が入ってるから長命だし、それって50年くらいは前なんじゃないの?

 そんな思考が逸れる私とは裏腹に、ケルトはちゃんと思案していたようだ。


「しかし、そうなると……単純にゲッシュさんの評判が気に食わない、ということなのでしょうか? それだけでここまで面倒なことをしますかね? ゲッシュさんの宿から見て、そこまで大勢の客人を招ける程の規模ではありませんし、脅威には成りえないはずなのですが」


 ケルトのインテリな人っぽい見解に、ゲッシュも首を傾げている。


「そうなんだよなぁ~! 俺も不思議でよぉ! なんで俺だけがここまで槍玉に上がるんか、わっかんねぇんだわ!!」

「おそらく何か原因があるはずなのですが……」

「ゲッシュに心当たりがないとなると、別に要因があるということですわね……」

「というか、カロン爺さんも考えろよ」


 ハディに言われたが、私は面倒なのでクロネパンでも食べてる。

 だって、知ろうと思えば何でも知れるし、答えを言ってもいいけど、君らの為にはならないでしょう?

 って言ってみたら、呆れたような顔をされた。


「なんだぁ? 随分と態度のデケェ爺さんだぜ!」


 態度がでかいのは元からだよ。


「しかしよぉ、人のためとかなんとか言って、実は何も出来ねぇんじゃねえのかぁ? 失敗するのが怖くってやらないだけだろーよ」


 ああん? なんじゃい、喧嘩売ってんのかこら。


「そうじゃなきゃ、ただの誇大妄想家の妄言ってわけだ。よく居るぜぇ? 爺さんみたいに偉そうな事のたまっといてなーんにも出来ねぇ無能が」


 ああぁん? なんじゃね、私をそんな連中と同じにするつもりかね? んん?


「げ、ゲッシュさん……その、あんまりその方を挑発しては…」

「うるせぇ! 怠けもんに払う敬意なんざねぇ! 神でも始祖でも、てめぇで仕事してこそ正しい評価が与えられるんだよ! 尊敬されたかったらふんぞり返ってねえでとっとと働いてみるんだな!!」


 ……んふふふ、実にその通りだな。なかなかいい度胸してる親父だぜ。

 と、密かにイラッとしたので、指振って空中にウィンドウを出現させる。ええ、神界会議でも使用してる、PCっぽい枠ね。

 驚くみんなに溜飲を下げつつ、そこに時神の権限で過去の映像を流す。そう、ゲッシュが現在の原因となってる映像だ。


・・・・・・・・・・


 そこに流れたのは、ほんの数年前。

 帝都で暴れていた強力な魔物討伐という偉業を成したゲッシュが、皇帝のじきじきの招待によって城へと招かれたのだ。

 帝国のケンタック城、その謁見の間。

 鎧に身を包んで片膝突くゲッシュの前で、玉座にふんぞり返った皇帝が言った。


「我が帝国のために、我が手足として働く気は無いか?」と。


 それに、ゲッシュは呵々大笑しながら言ったのだ。


「俺ぁ自由気質なんでしてね! この地で骨を埋める気ではありますが、出来るなら下町で宿でも経営しながら面白おかしく過ごしてぇんですわ!!」


 それへ、皇帝は残念そうに頷いた。


「そうか、ならば致し方ない。気が変わればいつでも来ると良い。我が国はいつでも、そなたのような英雄を望んでいるからな」


 そして、ゲッシュが退室した後、皇帝は冷たい顔で側近へ命じたのだ。


「ゲッシュの宿を潰せ。必ず我が元へ来るように勧誘せよ」


・・・・・・・・・


 ……はい、以上。終わり。


 これにはみんな唖然だったね。

 特にメルは顔面蒼白で、思わず机に手をついて頭を抑えてる。


「お……お父様っ……!! 貴方という人はどこまで……!!!」

「げぇ……そうか、皇帝の野郎が邪魔してやがったのか。どおりで城からの勧誘が引っ切り無しに来ると思ったら!」

「いや、気づこうぜ。そこまであからさまならさ」


 ハディに突っ込まれるも、ゲッシュは笑って誤魔化してた。脳筋の匂いがするぜ。

 ところで? どうだね? 私の力の程は?

 よんじょそこらの凡人と一緒くたにされては敵わんのだよ、んん?


「おうおう!! 確かに爺さん、すっげぇ魔法士なんだなぁ!! こりゃ素直に謝罪するぜぇ! あんたはすげぇ! 帝都一の大魔法士なのは間違いねぇぜ!!」


 はっはっはー、そうだろそうだろ。敬って構わんのだよぉ君。

 ああ、いいねぇ、人の称賛と敬意の眼差しは最高じゃなぁー!


「……おじい様をいいように扱うなんて、ゲッシュってやっぱり良い性格をしてますわ」

「いや、アレは天然では?」

「それに、おじい様も最近あんまり人に敬われてないから、煽てられていい気になっちゃったのですわね」

「それはそれで悲しい話ですね……」

「ふーん、つまり寂しかったのか? 爺さんは」


 外部でなんか言ってるが、私には聞こえんなぁ。聞こえんぞぉー!



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