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1-5 彼の正体

 

 僕は今でも覚えている、その言葉を。


「私は、ヴァンパイアだ…」

「は…ヴァンパイア…?」

「ヴァンパイアのカイル・エイジャーだ」


 月の明かりだけだったが、はっきりと見えた。口元に光る鋭く尖った白い歯。真っ赤に染まっている不気味な目。この人が言っていることが冗談ではないと一瞬で感じた。この世にヴァンパイアが存在するなんて、僕の頭の中は恐怖と不安でいっぱいだった。殺される…今すぐ殺される…。



「きゅ、吸血鬼…ぼ、僕の血を狙って…」

「残念だが、私はもう無作為に人の血を吸血していない」

「え…じゃ…じゃあ」

「私が今からすることは、お前に対する提案だ。飲んでも飲まなくても良い、聞いてくれる

  か?」

「………」

「…ギル、あれを」

「かしこまりました」



 ギルさんが胸元のポケットから取り出したのは、赤い液体がたっぷり入っている小さなビンだった。


「これは、私の血が入ったリキュールだ。これを飲み、俺がお前を吸血すればヨハン病を治す

  ことが出来る、血の誓約というものだ」

「血の…誓約…」



 受け取ったビンは月明かりで照らされ赤く光り、とても不気味だ。だけど、これを飲めば…


「ただし血の誓約が成立すれば、お前はいずれ私の仲間になる」

「つまりそれは…」

「ああ…ヴァンパイアになる。願いを一つ叶える代償だ」


 このまま、この身体で一生を終えるか。今これを飲んでひと時の生活を過ごし、ヴァンパイアになるか…


「飲みます、ください」

「…お前、良いのか?」

「はい…」

「もっと悩むかと思ったが…」


 すると、急にカイルさんは僕の腕を強く掴む。痛い…圧迫する強い痛みが流れる。ぐっと、真っ赤な瞳が僕を捕らえて離さない。


「いいか、よく聞け。ヴァンパイアになるということは、死ねない身体になるのだぞ? お前は永遠に私

  に仕えないといけないのだぞ!? それに加え血の吸血衝動に耐えねばならない。お前はそんな生活に耐

  えられると言うのか!? これは最後の選択だよく考えてから答えを出せ!」


 カイルさんに出会って初めてだった。こんなにも彼の恐怖が僕を襲ったのは。あぁ…この人は吸血なんだ…。冷酷な言葉と冷たい表情で全身が固くなり、上手く声が出せない。


「カイル様…」

「ああ…すまない…」


 ギルさんが手を引き離し、カイルさんを落ち着かせる。僕の腕が解放された瞬間、肩に入っていた力が抜ける。だけど、僕の答えはもう決まっている。


「まあ…急だったからな、少し考えるといい」

「いえ、カイルさん僕答えは初めから決まっています」

「…そうか」

「血の誓約を…お願いします」

「俺の吸血は…痛いぞ」



 その言葉を最後に、僕は手に持っていたビンの蓋を開ける。すぐにでも酔ってしまいそうな強いアルコール臭が僕の身体をまとう。それを一気に飲み干した。






「ぐっ…くっ…ううっ!!」


 リキュールを体内に摂取し、身体が燃えているかのように熱く息をするのも辛い。朦朧とする意識の中、カイルさんに左手をつかまれた。指まで覆っていた服の袖をまくられ、手首があらわになる。その手首にカイルさんはゆっくり顔を近づけ歯を立てる。


「あああああああ!!!!!!!」


 手が痺れ、涙が溢れる。先ほどまで熱かった身体が瞬時に冷たくなる。血だけでなく、精神も吸い取られているような感覚で、まさに死ぬ寸前を体験しているようだった。だけど、お構いなくカイルさんは僕の血を吸い続ける。僕の身体は痛いという感覚より、気が狂ってしまいそうな恐怖が身体をじわじわ支配していく。



「くっ…」

「カイル様…!」


 吸血を終えた私をギルが支える。人の血を吸ったのは何年ぶりだろうか、私の身体が拒絶反応を起こしている、この血は必要無いと。身体の中に入った青年の血が全身を駆け巡る。快感と拒絶が交互に襲い掛かり、ギルに支えられなければ立っているのがやっとだ。


「ギ…ル…青年…は…」

「…彼は意識を失ったようですね」

「そうか……彼をベットに…」

「ですが、カイル様!」

「私は…少し休めば…良い…心配するな」

「…かしこまりました」



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