1-4 カイルの力
「カイル様…どうされました? 何か調べものでも…」
「ギル、ヨハン病知っているか?」
私はあの青年と別れた後、古城の地下にある書庫へと向かっていた。目的はただ一つ、ヨハン病を調べるためだ。以前、書庫を訪れた際、ヨハン病について書かれた本を手に取った記憶がる。
「はい、存じております」
「その病気を治す治療法は無いのか?」
「カイル様…まさか…」
「ああ、そのまさかだ…お前の報告通り、ズウースの青年はヨハン病を患っている…」
ボロボロになった背表紙に『ヨハン病』と書かれたものを見つけ、慎重に取り出す。古書独特の香りを感じながら、埃を払う。ここの書庫は私がまだ人間と繋がりがあった頃、趣味で集めていたものが置いてある。何百年前のものもあり、人間界では高く値がつく古書もここに保管されている。ここには、ヨハン病について書かれた書籍は多く揃っているはずだ。この病は、私達吸血鬼にも深く関わる病だからな。
「…くそっ…何一つ載っていない」
「あの青年を…治すおつもりなのですね」
「そうだ…あの青年には洋菓子店を継いでもらわなければならない、あのまま閉店となって
は困るからな」
「ふっ…すっかりズウースを気に入られて」
「ああ、お前に連れられ沢山の店を周ったが、やはりあそこが一番だ」
「ですが…カイル様…ヨハン病は治らない病気なのです」
そう、私の努力は無駄だと自分が一番理解している、この行為は無意味だ。しかし、私の気が済まないのだ。ヨハン病に関する本に全て目を通し、私は部屋へ戻った。これで良かったのだ、彼を救うことは出来ず、あの洋菓子店は数十年後に消えて無くなるだろう。ヨハン病は不治の病だからな。
「お疲れでしょう、さあ」
テーブルの上には、いつもと同じ香りの珈琲と、「ズウース」の菓子がすでに用意されてあった。ズウースのケーキは素晴らしい。何度食べても飽きない味だ。
「カイル様、一つ私に考えがあるのですが」
「なんだ、言ってみろ」
「ヨハン病を治すのではなく、消滅させるのはいかがでしょうか」
「何を言っている、そのようなことが出来たら既に実行している」
「可能ではありませんか…カイル様のお力をお使いになれば…」
「……私の力は不幸になる者を増やすだけだ」
「しかし、現時点でその方法が一番有力かと…」
「いいや、ダメだ…その力はリスクが高い」
「上手くいけば、ここでこのケーキを一生食べられるかもしれませんよ?」
確かにあの青年を助ける方法はある、しかし、それはヴァンパイアの私だからこそ出来ることだ。あまり人間に使用するのは気が進まない。
「お前…ヨハン病だったな」
私はまだ、この提案を懐疑している。私のこの力は、本当に少年のためになるのだろうか。
「はい、そうですが」
「その病治したいか?」
「はい、もう諦めていますが…」
「私なら、お前をその病から解放出来ると言えば…信じるか?」
「は…? 何を…」
「信じるのか? 信じないのか?」
「信じるわけないじゃないですか! 散々治らない、不治だって言われ続けてきたのに!」
「そうだな…」
「一体貴方誰なんですか!? 何で僕に構ってくるんですか!?」