1-2 主のお気に入り
「カイル様、本日も向かわれますか?」
「勿論だ」
「かしこまりました」
人間の街へ出向くようになり、時間を持て余す日々とは縁遠い生活を私は過ごしていた。ギルの提案にも乗ってみるものだな。沢山の店を周ったが、洋菓子店「ズウース」は必ず立ち寄っている。あそこの菓子は本当に素晴らしい。だが、
「またか…」
最近定休日が多くなっている。折角気に入った店を見つけたが、残念だ。
「ギル、開店させろ」
「また無茶なご命令を…」
「もう3日もここの菓子を口にしていない、私は限界だ何とかしろ」
「当分の間は、私の作る菓子で我慢してください」
「お前の菓子は美味いだけだ、それ以上の感情が沸いてこない」
ギルの作る菓子も決して不味くは無いのだが、ズウースには敵わない。仕方ないが今日は帰るか…。
「……これは」
何だ……今、一瞬だがこの店からギル以外の吸血鬼の気配を感じた。私とギル以外の吸血鬼は、もう存在しないはずだが…
「カイル様…?」
「……ズウースの店主には…子供がいたな」
「はい、以前はこの店で見かけましたが、最近はいらっしゃいませんね」
「ギル…この店を少し調べろ」
「…かしこまりました」
あの気配は…とても気分が悪い、この街にあってはならない。