1-1 食の街「グァーハン」
「いらっしゃいませ~この葡萄ケーキはいかがでしょうか? 新作ですよ~」
「じゃあ、これにしようかな1つ頂ける?」
「はい!ありがとうございます!」
僕は、フルーフ国のグァーハンという街に住んでいる。実家は洋菓子店「ズウース」で、今日は休日でもあり沢山のお客様で賑わっていた。
「父さん~! モンブラン追加で~」
「あいよ~」
慌ただしい店内を周り、ケーキを補充し行列の整備。大変だけど、とてもやりがいのある仕事だ。
「ふぅ~…」
お客様が途切れ一息ついていたところ、静かな音をたて入口が開いた。
「カイル様、どうぞ」
入ってきたお客様は男性2人組であった。2人とも漆黒のスーツを身に付けており、とてもこの街には合わない異様な雰囲気を身に感じた。
「ほう…ここは…」
「洋菓子を売っているお店でございます」
「…なんともいい香りだ」
2人の会話から、主人と仕えるものという立場を理解することが出来た。どこかの貴族か…? 僕には無縁な世界の人だろうな。
「いらっしゃいませ…」
僕は恐る恐る声をかけた。普段道ですれ違っても絶対に声を掛けないけど、今店内にはお客様は二人しか居なかったから、掛けるしかなかった。
声に気づき、主人と思わしき人物の目線がこちらに向けられる。彼の目を見て異様な雰囲気を感じていた原因が分かった。真っ赤だ…例えるとすれば、血のように不気味で…こんな色の目は初めて見る。足元から全身を凝視され、身がこわばった。
「君はここの主人か?」
「まだ…ですが…成人すれば僕が跡を継ぎます」
「そうか…」
この言葉を最後に彼はケーキ選びを再開した。先ほどの質問の意図は分からないけど、ただの世間話程度だろう。黙々とケーキを選ぶ様子は、至って普通だ。
「これは…食べ物か?」
「カイル様、これはモンブランです」
「モン…ブラン…というのか、それはどういうものだ?」
「モンブランというものはですね…」
モンブランを知らないというのか…? 貴族なら必ず目にする機会があるはずだ。まさか、貴族では無いのか? 貴族でなければ、あの仕えている者は何者だ…? 使用人では無いのか? こんなにも惹きつけられる客は初めてだった。
数十分かけ、沢山の洋菓子を選んでいた。チョコレートケーキ、モンブラン、新作の葡萄ケーキ…支払いを終え大量の袋を軽々と手に持ち、静かに会釈し店を出て行った。
「お疲れさん、休憩行っていいぞ」
「うん…行ってく」
急に立ち上がったからか、視界が一瞬真っ白になり、地面に強く頭を打ち付けてしまった。
「おい!大丈夫か!?」
父さんに支えられ立ち上がろうとするけど、
「いった…ぐっ…」
「おい、どうした!?」
「あ…し………」
「はぁ? お前何言って…」
「足が…足が…あしが…あし…あぁぁ…」
「おい!しっかりしろ!! どうしたんだ!?」
「脚が…動かない…動かせないんだ」
僕の人生が180度変化したのは、ここからだった。