プロローグ
15年前に私は世界樹の根元にある小さな村で発見された。
私にその前の記憶はない。記憶の無いことで生活に困る事は無かった。
小さな村は世界樹の近くなので、記憶喪失の元冒険者等が発見されることはよくあることらしい。
だが、私が小さな村で一員として暮らすことで困り事は別にあった。
それは年を取らないことだった。
皆が年を重ねていく中で、私だけが年を取らない。
その事実は、村の中での私の取り巻く環境を少しずつ、けれど確実に様々なことを変えていった。
初めは、奇妙な病気扱いだった。医者や鑑定師を招いていろいろ質問された。どの結果でも原因は分かることはなかった。
私は年をとらないことはどうでもよかった。村の人達と一緒に働いてご飯を食べていればしあわせだった。
そんな私の思いとは裏腹に。連日私を目当てに訪れる人に話すことが多くなってきた。
国の中心から遣いが来た時が引き金だったのかもしれない。
そのことで、私は小さな村で観光資源として扱われるようになった。さらに、発見されてから五年経ってなんとなくみんなの接し方が変わった。
私は何一つ変わらないのにみんなはどんどん変わっていった。
私は置いていかれていると気づいた時にもう遅かった。行動を起こそうとしても、村の権力者から行動に制限がかかった。なにをしようとしても、あなたはなにもしなくていいで片付けられた。
私は話す為だけの少し大きき施設の一室に縛り付けられた。
環境のせいにして私はなにもしなくなった。もう村のみんなとは話すことはなかった。
ただ、ここから誰か連れていって欲しいと思っていた。
今日も私の体質目当てに訪れる人の相手をする。もう同じことを話すことにうんざりしていた。
部屋の前から入室の合図が聞こえる。私はいつもとおりにこたえる。
「はい、どうぞ。」
ガチャと音がする。今日の訪問者はどんな事をいうのだろう。
冒険者の男は椅子に座るなりこう言った。
「突然だが俺は異世界から来たんだ。」