脱ドレス生活
見慣れない街並みを2人で歩く。
目的地は服の確保ための店探しだ。
「うう~やっぱり視線がきついよぉ~」
そんな情けない言葉が出るのも仕方ないだろう。
道行く人たちに見られる、興味深そうに見られる。好奇な目線が突き刺さる。
遠く離れた場所からひそひそとこっちを見ながら話している人達を見ると、日本育ちの精神にはかなりきつい。
いい加減このひらひらでフリフリなこのドレスとはお別れしたいよ。
早く着いてくれ、もう俺の精神ポイントは0よ。
「あははは、もう少しの辛抱だから我慢してね♪」
ちくしょう、他人事みたく言ってくれやがって。
実際他人事なんだから仕方ないんだけどさ。
「ところでクリューちゃん、宿屋でのんびりしすぎたせいで小腹がへっちゃったのよね~、そこの屋台で少し食べてからにしましょうよ♪」
彼女が言っているのはあの屋台か、肉の串焼き(焼き鳥っぽいもの)を売っている店っぽいけれど、でかいな。この世界の食い物はどれもこれも大きすぎる気がするんだが。
違うな、体が小さくなったのが原因か、あれなら前の俺ならいけそうだしな。
こういう所で前の体がちょびっと恋しくなるのは仕方ないと思う。
う~ん、確かに小腹は空いているんだけどなぁ。
でも周りにジロジロ見られた状況でのんびり軽食なんてとれるのか…………無理だな!!!
「いや~それよりも早く服がみたいなぁって、軽食は後でもいいからさ」
「ダ~メ♪ やっぱり食べましょう、恥ずかしがってるクリューちゃんがかわいいからイケナイのよ♪」
うぐっ!!! 自分が当事者じゃないからって余裕こきやがって。
こっちだって望んでこんな恥ずかしい思いをしているわけじゃねえってのに。
はぁ~、でもお金がない以上彼女の機嫌をそこねて、肝心の服を買えませんでした、なんてことになったらそれこそ本末転倒だからなぁ。
ドレスタイム延長入ります、とか勘弁だからな!
はぁ、諦めて食べるか。
この好奇な視線の中で食べますよ、ええ、有難くいただきますとも。
「わかったよ食べるよ、その代わり早く食ってくれよ。こんなとこに長時間いたら精神が死んでしまう」
「そんなこと言われるとゆっくり食べたくなるわね♪」
ここまで言われるとさすがにムカッとするな。
「………………………………」
つーん
「ちょ、クリューちゃ~ん、機嫌直してよ~♪」
心底面白そうな表情で謝ってくるのが腹立つなぁ。
まぁ、結構デートみたいで楽しんでる自分がいるんだけどさ。
女の子の体じゃなければ最高のシチュエーションだったろうに、こういうところで悔やまれるな。
「はぁ~、わかったから、早く買ってきちゃってよ・・・」
「は~い!クリューちゃんも一本食べる?」
「食べたいけど、あのサイズを一人はきっついからね、パスで」
フレアは軽く頷いてから、屋台に向かっていった。
あれこういう買い物ってデートなら男が行くものじゃなかったっけ? あ、ダメやん、金ないやん、買えないやん、ダメダメやん。
金がないから何かしら働かないとな、冒険者とかロマンだし絶対なりたいんだけど……こんな体じゃ厳しいよなぁ~。
そうこう考えたらフレアが串焼きを2つ分持って帰ってきた。
「あれ、なんで2つ分あるんだ?」
「美味しそうに眺めてたし、その、我慢してるんじゃないかなって思って、食べきれない分は私が食べるからっと・・・はい♪」
そう言いながら串焼きを渡されたので受け取る。
そ~ゆうところをちゃんと見てるのがちょっと腹立つ、こっちは問題だらけで余裕がないってのに。
でもこういう優しい気遣いができるなら、絶対にフレアはモテるよなぁ。
「そうゆうことなら遠慮なく・・・はふはふ、ん~おいしい」
男が好きそうな味の濃いやつだ、タレが効いててこりゃうまいうまい。
とはいえ、あのサイズの肉を食べきれるわけもなく、途中でバトンタッチ、間接キス云々はもう考えるのをやめた、精神衛生のために。
最終防衛ラインは一緒に入浴することだ、それだけは絶対に止めてやる。
羞恥心に耐えながら食べ終えた俺たちはようやく第一目的地の服屋に到着した。
「それでようやく着いたけど、この店さ、めっちゃ高そうな感じがするんだけど、俺金ないから安そうな中古のTHE・布の服みたいな奴がよかったんだけど…」
「ダメよ、安い服はゴワゴワしてて、肌を傷つけたりしちゃうから。中古なんて論外よ、誰が着たのかわからない服なんて絶対だめよ!」
そんなこと言ったってさ、ここのやつなぁ~落ち着いた服もあったりしていいお店だと思うよ、でもさフレアさんや、あなたが見てるとこはひらひらにフリフリなやつばかりのコーナーじゃないですかい? そんな服を買っても今日の課題である「目立たない服を買う」という最大の目的を果たせていないと思うんだが。
「あのさこっちのシンプルな服にしようよ、そっちは魔境だから」
「私にとっては確かに魔境ね、でもクリューちゃんならきっと秘境に変わると思うの!!!」
馬鹿な事いってんじゃねぇよって言いたくなった。
「馬鹿な事いってんじゃねぇよ」
…………言っちゃってたわ。