ご乱心
「それで今日はどうするんだ?」
そうクリューちゃんが聞いてくる。
ちなみに今は朝食を食べ終えた後のまったりした時間。
朝食でも全部食べ切ろうとしたけど、やっぱり無理で顔が真っ青になってたけどなんでなのかしらね?
ご飯を残しちゃいけない教育とか受けてたのかしら? だとしたらやっぱりどこかのお嬢様なのかしら。
「今日は合わせたい人がいるから、その人の所に行こうと思っているんだけど、その前にクリューちゃんに聞きたいことがあるのよね」
「聞きたいこと?」
「クリューちゃんの持っている紙に書いてあることについてよ」
「紙のこと? ん~? ああ、あの紙か。聞きたいことって言われても、俺はあの中に書いてある文字は読めなかったんだよ」
「それって翻訳の魔道具があれば読めると思うけど? 試してみた?」
あっと驚いた様子で例の紙きれを取り出し、読み始める。
「………………………………」
読んでるうちにクリューちゃんの表情が怒りに変わる。
「あんのド畜生やっぱり訳ありの体を押し付けてやがったのか、許さねぇ、絶対見つけ出してこの体返品してやる。何が殺すだ、やってみろよ倍返しにして返してやるからなぁ!!!」
…………かなり怒ってるわね。
少女の口から出しちゃいけない単語のオンパレードだわ。
「フレア!!情報を集めたい時はどこにいけばいい!!こんの腐れ畜生の居場所を知りたいんだ!!!」
ぷりぷりと怒ってる姿もかわいいわ~♪。
コホン、和んでる場合じゃないわね止めないと。
「ちょ、落ち着いて、その前に冒険者になるんじゃないの? お金を使わないと碌に情報も集まらないわよ」
「金なんてこの貧相な体でも売りつけて稼げばいい!!一刻も早くあのド腐れ畜生を見つけ出して一発でかいのを食らわせないと気が収まらねぇ!!」
その体私が買います!とか言ったら本気にしそうなのよねこの子は。
昨夜の影響かしら、やたらと煩悩が思考の邪魔をするわね。
「わかったから、一回落ち着きなさいって」
「こんな文章見て落ち着いていられるかよ!! 文字からにじみ出るこの高圧的な態度、完全に煽ってきてやがる。絶対見つけてやるからなぁ!!!!!」
思いっきり吠えたからか、近くの鳥たちが一斉に飛び立つ。
全く落ち着いてくれないわね、思わずため息がこぼれる。
「それで話を戻すけどその紙に書いてあること、これはどうゆう意味なのか聞きたいのだけど」
怒りが収まりそうにないので、無理やり話を変える。
まだ怒り足りない様子だけど、なんとか落ち着いてくれたみたい。
「ハアハア…………、ふう。この紙に書いてあることは本当のことだよ。フレアと出会った森があったろ、あそこにいきなり飛ばされて右往左往している間に体を入れ替えられたってところだ。その後にどうしようもないから彷徨い歩いていたらフレアに回収されたんだ。あの時は本当に助かったよ、ありがとう」
そう言うとクリューちゃんはポリポリと頬を掻きながら恥ずかしそうにお礼を言ってくれた。
うんその笑顔金貨100枚♪
じゃなくて、ええい邪魔をするな私の煩悩。
でも今の話を正直に言うなら信用することはできない。
クリューちゃんは噓を平気でつけるような子には見えないんだけどね。
理由は単純、体を入れ替えるなんて魔法をそもそも聞いたことがないから。仮にそんな魔法が存在したとして、クリューちゃんの今の体の持ち主がその魔法を使ったことになる。
クリューちゃんの見た目の年齢はどうみても15~6ぐらいだ、そんな少女が聞いたことのない魔法を使えるのだろうか?
あんまり現実的じゃないのよね。
「その、私はあの紙に書いてあることがいまいち信用できないのよね。体を入れ替える魔法なんて私は聞いたことがないから、でも、そのクリューちゃんが噓をついたとかは思っていないの。ただ夢か何かだったんじゃないのかなって思ってて」
記憶を混乱させる魔法なら聞いたことがあるからそのたぐいだと思うのよね。
「…………そうなのかな」
納得はしてないみたいだけど、それ以上なにかを言うようなことはなかった。
魔法については正直私もよくわかってない、でもフィニアなら何か知っているかもしれないし、やっぱりこの子を連れていくべきね。
「それで最初にも言ったけど、今日は会ってほしい人がいるから今から行こうと思っているの、特に問題はないかしら?」
「問題はないけど、服が、服が欲しいよ…この格好で街を歩くのは拷問だよぉ」
あはは、それもそうだよね。
ドレス姿で街を歩くなんて私もさすがに無理ね、恥ずかしくて死んじゃうレベルだもの。
あまりに似合いすぎていて違和感がなかったから忘れてたわ。
「それじゃ服を買ってから、会いに行きましょうか」
「うい」
「う~ん、ねぇクリューちゃん、もうちょっとかわいらしい言葉遣いにはできないの? せっかくのかわいい顔が台無しよ」
「うぐっ!!! 可愛らしい言葉なんて似合わないだろ」
「いいから試しにやってみてよ♪」
「えっと、コホン、ごきげんようフレアさん今日も天気がいいわね、こんな日に飲む紅茶はさぞおいしいでしょうね♪ こんなんでどうでしょう?」
「なんか違うわ」
「…………しょんぼり」
そのなんとも言えない顔は100点なのにどうして色々と残念になっちゃうのかしら? 不思議よね。