警戒心が足りてない
「なんでこんなに警戒心がないのかしらね、この子は」
そんなことをため息交じりにつぶやくのも無理はないだろう。
私がしたことなんてただ森を迷ってたとこを助けて、町まで案内して宿に泊めてあげただけだというのに。
それなのに目の前の少女は警戒することなく心地よさそうに眠っている。
確かに私はこの子を助けた、でもだからといって同じベットで寝るといわれてなんの警戒もしないで、ましてや先に寝るのはやはり無防備すぎると思う。
「私が悪人ならいまごろ大変なことになっているのに、でもごめんねクリューちゃん、私は善人でもないの」
そう呟いて、寝ている彼女の服を調べる。
どこかに彼女の身元が分かるようなものがあると思うから、それを探すために。
「服の外側には特になにもないわね」
となると内側を調べる必要があるんだけれど。
「寝てるクリューちゃんの服をまさぐっていると、なんかイケナイことをしている気分になるわね、って艶かしい声を出さないでよ」
しかし、何も見つからない。
正直に言うなら身元が分かるようなものはないのかもとは薄々思ってはいた。
けど彼女は高位の魔導士に狙われていたと言っていたから、何かしらの呪いの類を仕掛けられたのかと考えたのだけど、どうやらそれも外れみたいね。
魔術師に狙われるなんて、余程の私怨か、あるいはお家騒動に巻き込まれたとかが予想できるけど、私怨を抱かれるような子ではないと思う。
となるとお家騒動に巻き込まれた可能性だ。
変なところで律儀だったり、すぐに警戒心がなくなるから、いいとこのお嬢さんだとは思っているけどね。
「う~ん、考えてもキリがないわね、でももう調べる所はもうないし・・・そういえば下着の中は見てないわね」
まさかね、でも気になっちゃったからには調べるしかないよね。
自分でもアホなことを考えている自覚はあるけれど、もしかしたらがあるかもしれないからね。
「……………………この子はやっぱり女の子として大切な何かが欠けてるような気がするわ」
結論から言うとパンツの中に紙が1枚しまわれていた。
おかしい。
何かがおかしい。
今の感じなら「やっぱりなにもないわね」って流れからの「服のはだけたクリューちゃんを見ているとなんだかいたずらしたくなるわね」からのにゃんにゃんタイム突入の流れだったはずなのに。
こんな状況でも心地よさそうに寝ているなら、少しぐらいにゃんにゃんしても文句は言えないのにね。
「はぁ、この空気の読めない紙きれ燃やしてやりたいわね」
さすがに燃やさないけど。
しっかしあんな所にしまわれてたからには何が書いてあるんだろう、これは見るしかないわね。
<パンツの中の紙きれ>
色々と整理がつかないだろうけど、最初にこれだけは伝えるわ、私を追いかけたら容赦なく殺すから。だから絶対に追いかけないでね。
文句も言いたいだろうけど回避不能の事故に巻き込まれたんだって思って諦めてほしいの。
それとその体については自由にしちゃっていいから、戻す気なんて欠片もないから。
自由に生きていいよ、って言いたいんだけど魔族には絶対に関わらないことを推奨するわ。訳ありで魔族に追っかけられているの。捕まったら最悪の事態になるから絶対に関わらないようにね。
それじゃ健闘を祈るわ九龍より。
「・・・・・・何なの、これ」
殺すだの事故だの追っかけられるとか魔族だとか。
いたずらにしては質が悪いわね。
それに「戻す気はない」とか「体を自由にしていい」とか訳がわからない。
「起きたら聞くことが増えたわね」
一体この紙きれは何なのか。
誰に向けられた内容なのか。
これからどうしたいのか。
「これだけははっきりしている、もしクリューちゃんを傷つけようとするなら、絶対に許さない」
たった1日彼女と一緒にいただけなのに楽しかった。
不安そうに森を歩いてた姿。
魔物と出会った時の怯えた表情。
街に入って辺りをキョロキョロと見ていた姿。
自動翻訳の魔道具でポカーンとした時の顔。
ご飯をお腹12分目ぐらいまで食べてグロッキーになっている姿。
残ったご飯を私が食べたら悶絶してた時の顔(理由はよくわかってない)
一緒のベットで寝ると言ったら嫌悪でも警戒でもなく、なぜか恥ずかしがっていたこと。
そんな日がこれからも続いてほしいと思っているから。