第88話:本物の孫登場⁉
俺とマイカの話に入らない方がいいと思ったのか少しの間黙っていたティアはタイミングを見計らっていたらしく、話がひと段落したところで
「それで、お主は何を食べるつもりだったんじゃ? 店の場所は分からんでも何か食べたいものくらいあろう」
「いや、適当に屋台とかで気になったものを買って城の屋根の上にでも行こうかな~、くらいにしか考えてなかったけど。別に食いたいもんもないし」
「ソウジ君って朝と夜はちゃんと食べるのにお昼はお菓子だけで済まそうとしたりするもんね。何時もリアーヌかエメさんに見つかって怒られてるけど」
「別に昼くらいお菓子だけでも死にはしねえだろ。それに仕事してる時とかは食べながら出来るし、何より糖分と食事が一緒に取れて楽だし」
まあこれを二人に言ったら『食事でも糖分は取れますし、何よりお昼ごはんをお菓子で済ましていては栄養が偏ります』とか、『仕事が忙しいのでしたら食べやすい物をご用意いたしますのでそちらをお召し上がりください』と怒られたんだけど。
なので今度は『でもお菓子で取る糖分とごはんで取る糖分ってなんか気持ち的にお菓子の方が効果ありそうじゃない?』って言ったらリアに、『私達が作るお食事に何か文句でもあるのですか?』と殺気混じりに言われたので最近はちゃんとお昼を食べるようにしている。家にいる時は……。
「言っておくがお主がたまに城を抜け出して屋根の上でお昼の代わりにお菓子を食べておるのは既に二人にバレておるぞ。仕事が忙しかったりする時だけは特別に見逃しておるようじゃが」
「でもそのお陰でその日の夜ご飯は何時もよりちょっと豪華だったりするんだよね。多分お昼の分の栄養もそれで補わせようとしてるんだろうけど、それが出来るほどの腕があるっていうのも凄いよね」
「………お前ら、俺が家を抜け出してお菓子を食ってる時がどういう時か知ってて言ってんのか? こんな話聞かされたら今後やりにくくなるじゃねえか」
別に俺は気まぐれやお菓子が食べたいからという理由で昼飯を抜いているわけではなく、仕事の量が多かったり面倒な仕事があってイライラしている時だけこっそり屋根の上に行ってパソコンを弄りながら~とかやっていたのだが……、普通にバレてたのね。
「なら大人しくお昼を食べればよかろう。別にお菓子を食べるなと言っておるわけでもないんじゃし、それなら誰も文句を言わんわ」
「……ごもっともで」
チッ、最近気が緩んでるな。昔はこんな我が儘を考えたこともなければ、それを実行するなんて絶対にあり得なかったのに。
そんなことを考えているとマイカは俺の心を見透かしたかのようなタイミングで
「そんなことよりどこでお昼を食べるかそろそろ決めた方がいいんじゃない?」
「もうこんな所まで来ておったのか。話をしておったせいで気付かったわ」
「別に不味くなければ何でもいいわ。……パン以外があるのは絶対条件な」
一応飲食店らしき店が集まっている場所は知っている、というか少し考えればギルドの近くにそういった店が多くなるのは当たり前であり、今俺達が歩いている場所はまさにギルドのすぐ近くなので適当に最低条件だけ伝えると
「ん~、じゃああそことかどう?」
そう言いながらマイカが指さした場所は冒険者ギルドの隣にあるいかにもファンタジー世界で居酒屋として出てきそうな店だった。
「見るからに飲み屋じゃねえか。別に俺は昼間から酒を飲む趣味はないし、何より酔っ払いの冒険者に絡まれそうで嫌だ。なんたってあそこは異世界人がいちゃもんをつけられやすいスポット第二位だからな」
「お主は何を言っておるんじゃ? 普通冒険者ギルドが隣にあるというのにそのようなことをする者がいるわけなかろうに。今となってはお主のお陰でどこであっても同じ結果になるがの」
「どこのお店でも店内で暴れられれば迷惑なのは勿論、冒険者ギルドなんていう強い人達が集まってる場所の隣でそんなことをすればすぐに人を呼んでこれるからねぇ。それにこの世界には飲食店っていたら基本飲み屋しかないよ。ソウジ君が嫌いな高級レストランとかなら話は別だけど」
そういえば初めてマイカ達と夜飯を食った時にそんな話をしたっけか。普通に忘れてたわ。
「その理論でいくとこの店は超好立地の場所で商売をしてることになるんだが、そんなに人気なのか?」
「はい! それはもう毎日お昼になればランチを食べるために一般のお客様が沢山いらしてくれますし、夜になれば冒険者の方々がお酒や夜ご飯を食べにきてくださる方々で大繁盛ですよ」
「へ~、でも冒険者ギルドにもバーぽいところがあったよな。普通冒険者だったらそっちで飲んだ方が楽でよくねえか?」
ちゃんと見たわけではないが受付とは別にもう一個受付というか、バーのカウンターらしき場所があったり、普通に真昼間から飲んでる連中もいたのでわざわざ店を移動する必要はないと思ったのだが
「確かにそちらでもお酒は飲めますし、食事に関してはうちに注文してくださればお届けしていますがそれを出来るのは夜の6時まで。というより冒険者ギルドの営業時間が18時までなので実際はもっと早いんですけど」
「は~、お役所仕事はどこの世界も営業時間が短いことで。ちなみにそっちは何時までやってるんだ?」
「少し前まではうちだけ夜中の0時までやってたんですけど、ソウジ様のお陰でどこも営業時間を延ばし始めちゃったんですよね」
冒険者ギルドが閉まってもこの店には冒険者が客として沢山いるお陰で他の店とは比べ物にならないほど安全が確保されていたが、俺が警備体制をガチガチに強化したせいで他の店も安心して営業時間を延ばせるようになり、今まで一人勝ち状態だったのがそうじゃなくなったと。
「これは営業妨害をしたってことで一応謝った方がいいのか?」
「いえいえ、ソウジ様のお陰でこの国は世界で一番安全な国なんて言われ始めてるくらいですし、謝る必要なんて全然ないですよ。それに営業時間を延ばしたところで結局最後は味だったりお店の雰囲気が重要になってくるわけで、その点においてうちはこの国一番の自信がありますので」
見た感じマイカと同い年くらいなに凄い強気だな。……そういえばマイカも中々だったわ。
「……んで、この子誰?」
「えっ⁉ 二人とも知り合いじゃなかったの? あんなに自然に話してたのに?」
「さっきのエレーナとかいう女子もそうじゃが、お主が初対面の者とあそこまで自然に喋れるとは珍しいのう。何時ものなら敬語を使ったり、上っ面だけ仲ようして信頼できる相手か見極めようとしおるのに」
それに関してはずっと昔からやってることなんだから余計なことを言うな。お前のせいでこの件が広まったらどうしてくれるんだ。後でミナに教えられたとでも言って誤魔化そう。
「エレーナはあれだ、初めてクロエと会った時と似たリアクションだったから半分遊んでたっていうのが大きいな。んでこの子に関しては…気付いたら普通に喋ってた。よく考えたら怖くなってきたし帰ろうかな」
「この子はこのお店、サムールの店長の娘で看板娘のナナちゃん」
なにその名前がラから始まってラで終わる姉と、名前がモから始まってモで終わる双子の妹が一人ずついそうな名前。しかも髪の毛の色がピンクだし、かなり着やせするタイプらしいマイカより胸ないし、正直言ってぺったんこだし。
「マイカちゃんの友達でサムールの店長の娘で看板娘でセレスお爺ちゃんの孫のナナで~す。どうぞこれからはご贔屓にお願いします♪」
「………お前、この子がセレスさんの孫って知ってたか?」
「流石にわらわも知らんかった、というより本当にこの娘があのセレスの孫なのかの? わらわが言うのもなんじゃが、普通孫とはいえ自分の血縁が主として仕えておる者にここまで気軽に話しかけんじゃろ。相手がお主じゃなければ今日中に関係者全員の首が飛んでおるぞ」
いやホントだよ。お前がそれを言う? って意味でな。