第68話:ガチギレ
「どうやら会議前にこの人がソウジに激励を送った意味をまだちゃんと理解していないみたいだから教えてあげるけどねえ、あれは『今後間違えなく貴方の力や権力を求めて結婚を申し込んでくる王貴族の娘が大勢出てくるだろうから頑張りなさい』って意味なのよ」
チッ、だからあの時ティアが早く会議を始めるように急かしてきたのか。あいつ、実はこの世界の人達の中で一番俺のことを理解してるんじゃないか?
「絶対に嫌だね‼ 言っておくが政略結婚はもちろん、俺が好きになった子以外とはぜ~~っ対に結婚なんてしないぞ!」
「そうは言っても既にうちの国での貴方への認識は『下手をすれば一人で一国を余裕で相手出来るほどの要注意人物』、『味方に付けておいて絶対に損はない』、『日本人ということは何か新しい技術を提供してもらえる可能性が大いにあり得る』などなど、上げればキリがないほどの人気ぶり。そして今後ソウジの存在が広まれば広まるほどそういう考えの人達が増えてくるし、マリノ王国の王女が貴方の所に嫁ぎに行った=何か優遇されているのではないかと勘繰る人達が出てくるのは必然」
つまり、うちの王族貴族の娘も嫁がせるからマリノと同じくらいの待遇よろしくってか?
「ざっけんな! 俺は便利な猫型ロボットじゃないんだからそんなホイホイ他国様に技術提供するわけなければ、無条件に手を貸すわけもねえだろ。お前らちょっと日本人を舐めてないか?」
「舐めているというよりかは、今まで勇者召喚された日本人がみんなお人よし過ぎたのよ」
「……お母様が言った理由の他に、勇者様という立場のせいで無意識に人助けをしなければと思わせていた可能性も考えられますね」
なるほど。この世界より自分達が住んでいた世界の方が圧倒的に技術が進んでいたといこともあって尚更人助けに拍車が掛かったってか。とんだカモだな。
「まあお前は初めから一国の王という立場だが、勇者様はかなりいい立場を与えられこそすれど国王になるなんてことは今のところ一度もないからな。そのお陰である程度自由が利く冒険者として色んな国へも行けるし、そこで自分の持っている知識を自由に広めたりしたことも影響しているのだろう」
「いいか‼ 俺は戦争してでも政略結婚なんてする気はないし、今までのクソ勇者みたいにお人よしでもなければ甘くもないからそこのところ気を付けろって自分の国と全友好国の王貴族共に伝えておけ! 分かったか‼」
自分が便利な道具のように言われたのが気に食わずつい大声でそう言うと膝の上に座っているロリミナが自分の体を捻り、子供っぽい上目遣いで
「ソウジ様の気持ちはよく分かりますが、他人にここまで怒りをぶつけるなんて珍しいですね。……というか実の娘である私ですらこの二人にここまで怒鳴ったことはないのですが」
「お行儀よく育てられたお姫様と、一般家庭で育ったこやつとでは親との喧嘩の仕方が違うのは当たり前のことじゃろうて。まあ今回は喧嘩と言うよりも少し頭のいい子供が駄々をこねておるだけじゃったがの」
今まで黙って俺達の様子を見ていたティアが話に割り込んできたおかげで少し落ち着いた俺はミナを抱え直し
「はぁ……、今のは確かにリアル王族に対しての口の利き方ではなかったが、さっき言ったことは全部本心だから絶対に譲らないぞ。………でも、口の利き方に関しては今後気を付けます」
「え~、折角だし、私的にはそのままでいてほしんだけど…レミアちゃんはどう考えているの?」
そう言ってきたのはキッチンで作業中の母さんだ。ちなみにうちのキッチンはオープンキッチンの為、例えそこで作業をしていようと居間での会話は勿論その様子まで丸見えである。
「それだと貴方の夫、レオンの仕事が少しの間だけとはいえ一気に増えるわよ。まあそれはうちの夫も一緒だけど」
「親は子供を守るものなんだし、これもある意味仕事でしょ。陛下がその分お給料を上げてくれるかは知らないけど」
全く話の意味が分からんけど、ミナも分かってないってぽいから少し黙ってよ。
「なんで私が陛下達と一緒にいながらもずっと黙ってたか分かってますよね? アンヌさんも知っての通り、既にうちの国だけでも十人はうちの娘をと仰っている貴族がいらっしゃるのですよ。それを私達で全部ブロックしろって、貴方は鬼畜ですか?」
レオンの親父、母さんのことアンヌさんって呼んだ……。仲…いいんだな。
「それに両家から自分の娘を嫁がせているとなるとその貴族達を納得させるのはかなり大変なんだが……」
「アンヌも言っていたけれど、親っていうのは子供を守るもの。どんな状況でも味方でいてあげるものなのだから少しくらい頑張りなさいよ」
なんか四人で話し合いを始めてしまい暇なので、リビングのテーブルで先ほどの会議内容を纏めているらしいマイカ以外の四人に念話を繋げ
(誰か、解説プリーズ)
(どうやら既にソウジ様目当ての方達がうちの国から出てきているようで、それをお父様とレオンで何とかするようにお母様達が言っているようですが…別にここが知りたいわけではないんですよね?)
(ああ、俺が知りたのは一番最初に母さんが言った言葉の意味だ。リア、なんか分かんねえか?)
(私もそれが気になってずっと考えていたのですが、どうもしっくりこないんですよねぇ)
リアでも分かんないなら子供のセリアに答えを求めるだけ無駄……じゃなくて、仕事の邪魔をしたら悪いし聞かないでお―――
(ちょっとソウジ、今失礼なこと考えなかった?)
(いやっ、全然)
(私が色んな意味で子供じゃないってこと、今夜貴方の体に教え込んであげるから覚悟しなさい)
なんで俺の考えがセリアにバレてんだよ。実はエスパーか何かか?
(お主は本当に隠し事をしたい時以外は分かりやすいからのう。その証拠に先ほどのクロエ相手の時は魔法を使わず素で演じていたようじゃしの)
うちにエスパー多くありませんか? 既に二人もいるんですけど。
(おい、お前なら絶対答え知ってるだろ。早く教えろ)
(んぅ? まあ知っておるというか、大方わらわの考えが当たっておるとは思うが……自分で聞いた方がよいのではないかのう)
本人に聞けって言われてもまだ話の途中……丁度終わったっぽいな。どういう結論に至ったかは知らないけど。
とか思っているといきなり母さんが
「ということで、今日から家で一緒に暮らさない?」
「言ってる意味が全く分からないんだが。何が『ということで』、だよ」
「え~、折角私達がソウちゃんのお母さんとして色々話し合いをしていたのに、聞いてなかったの?」
さっきのは夫婦喧嘩とは言わないレベルのものだろうけど、あんまりそういうのは好きじゃないので実は意図的に話を聞き流していたりする。
とか考えながら一度だけ頷くと今度はお母さんが
「これでもアンヌは今までリアーヌのことを私達王族と同じレベルの厳しさで育ててきた。つまり普通の子育てはしてこなかったからそれをしたくてしょうがないのよ」
「ちょっと、ちょっと、自分だってソウちゃんに関してはこのまま普通の子供として育てていきたいって言ってたくせに、その言い方はズルくない?」
つまり、二人はこのまま普通の子供として俺を育てていきたいと。これは今後のことを考えるとラッキーだと喜ぶべきなのか、それともガキ扱いされていることに怒るべきなのか。……ど~う考えても前者だな。
だって俺を普通の子供として育てるってことは自分達から政略結婚を進める気はないどころか、逆に政略結婚を全力阻止してくれるってことだろ?
「……ソウジには申し訳ないのだけれど、さっき貴方が私達に向かって怒鳴ってきた時…正直私はどう返せばいいのか分からなかったわ」
「そのせいでレミアちゃんは自分の子供が相手なのに王妃モードでただただ冷静に、自分の気持ちとかは全て封じ込めて会話しちゃったのよね~。あれは完全にミナちゃんやリアーヌが相手の時の対応だったはね」
「貴方だってあの時のソウジに適切な対応を取ってあげられなかったくせに、なにを偉そうに言っているのよ」
お母さんは分かるけど、母さんも厳しいってマジで? 初対面の奴がいてもメイド長としての態度を最初の数分しか見せなかったあの人が?
「信じられないでしょうが私のお母様はメイドの教育等に関してはかなり厳しかったんですよ」
また一人エスパーが増えたよ。そんなに俺って分かりやすいか?