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第6話:久しぶりの異世界

初めてドラゴンを殺してから数日。俺はこれからも異世界でやっていくのか、それとも今まで通りの生活に戻るのかを考えていた。やはり初めて自分の手で生き物を殺したことにより少なからず迷いが生じたのだ。


自分が振るった刀で肉を切り裂く感覚、攻撃された痛みによる大きな悲鳴、斬るたびに起こる血しぶき。今でも思い出そうと思えば簡単に、それも凄く鮮明に思い出すことが出来る。そして俺はあの日から何回もそのことを思い出し、『普通の生活に戻るなら今しかない』と考えては否定した。


否定した理由は簡単。せっかく絶対に叶わないと思っていた夢が叶ったのだからそんなことで引くのは勿体ないと思ったからだ。しかしここで引かずに強い力を使い続けたり、本当に王にでもなったりしたら、二度と今まで通りの生活に戻れなくなることも分かっている。


そんな自問自答をして出した答えが、この間稼いだ金で城に置く家具や調理器具、異世界で着る用の服など必要な物を買い揃えるだった。つまりこれからも異世界での生活を続けることを選んだのだ。






そう決めた俺はあっちの世界でもあまり目立たずに済みそうな白のYシャツに着替えた後、数日ぶりの異世界に転移した。


「まだ昼過ぎなのに寒いな。やっぱりこの格好は無理があるか。でもいい感じのコートは売ってなかったんだよな。コートだけはこっちで買うか?」


そういえば寒いで思い出したが、こっちの世界と日本の時間や月日は全く同じらしい。あの駄女神、まさかとは思うがそこら辺も弄ったんじゃないだろうな。


実は便利で助かってるとか思っているのは内緒である。


「さて、今日は城の模様替えの為に来たんだけど、取り敢えず散歩でもするか。どうせ俺の国は狭いからそんなに時間も掛からないだろうし」


ということで城以外は森しかない土地を歩いていると、遠くに洞窟らしきものがあるのを見つけた。


「ん? 森しかないと思ってたけどこの国には洞窟もあったのか。どこに繋がってるかとか気になるし、ちょっと行ってみるか。どうせすぐ行き止まりだろうけど」


そんな独り言を言いつつ、何も考えずに洞窟の入り口に近づくと


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


どっ、どうしよう。なんか洞窟の中に知らない男が一人に女が二人いたんだけど。しかも三人とも俺に向かってそれぞれ剣、杖、レイピアを持って構えてるし。


にっ、逃げるか? いや、逃げたところで俺の城が近くにある以上、今後一切会わないという保証はない。となると話だけでも聞くべきか。


「あ、あの~。ここで何をしてるんですか?」


「…………」

「…………」

「…………」


ちょ、ちょっと待って⁉ なんで誰も返事してくれないの? というかさっきよりなんか殺気立ってない? 特に右端の男と左端の女とかめっちゃ怖い。


「あのですね、私は決してあなた達に危害を加えたいわけではなくて……え~と」


「………リアーヌ、アベル、武器を下ろしなさい。この人が言ったことは嘘ではないです」


「かしこまりました、お嬢様」


「はいよ」


なんか知らんが真ん中の女が命令したら両端の奴らが武器を下したぞ。頼むからどこかの国のお姫様とか言うなよ。お姫様への適切な対応とか知らんぞ。


「まずはいきなり武器を向けるようなご無礼を謝罪いたします。申し訳ございませんでした」


真ん中の女がそう言ったあと、丁寧に頭を下げた。それに続いて左端の女は頭を下げ、右端の男は


「いきなり悪かったな、坊主」


いや坊主って、お前の見た目と俺の見た目は大して変わんねーだろ。……まあいい、取り敢えず


「あっ、はい。別に気にしてないんで頭を上げてください」


「ありがとうございます。……あっ、申し遅れました。私の名前はミナ・マリノ。そして私の右にいる男性がアベル、左側にいる女性がリアーヌです」


うわー、この人だけ苗字あるじゃん。しかもこの近くにマリノって国があったよな。………さて、このことについて突っ込むべきかスルーすべきか。


などと悩んでいると


「姫様の紹介にもあったが、俺がアベルだ。ちなみに半獣人だから歳は丁度250歳だな。ああ、人間でいうとまだ25歳だからな」


なるほど。だから人間の見た目なのに頭の上に耳があったり、尻尾があったりしてるのか。つか人間で25歳ってことは成長速度は1/10かよ。あと姫様とかいう余計な情報はいらん。


「私の名前はリアーヌです。お嬢様のメイドを140年程、務させていただいております」


次に自己紹介し始めたリアーヌさんは薄水色の髪でいい感じの胸の大きさである。Dカップくらい? それに加えてめっちゃくちゃ可愛いのだが……


「140年⁉ いやど~う見てもJK……じゃなくて、16か17歳ぐらいにしか見えないんですけど」


「あはははは、こいつは人間で例えると19歳だぞ。いくら途中で成長が止まるからってそれはないだ……なんでもないです」


どこの世界でも女性の歳の話はNGらしい。だってアベルがリアーヌさんの歳の話をした瞬間、めっちゃ睨んでたもん。


「はぁ~。ここまできたら全部お話し致しますが、私はハーフエルフのため歳は380歳です。人間でいうと19歳くらいですね」


そう言いながらリアーヌさんは長い髪をかき分けて、人間の物より少しだけ尖っている耳を見せてきた。といっても耳以外は普通の人間と同じなので、ハーフエルフというのは本当のことなのだろう。ちなみに杖を構えていたのはこの人だ。恐らく日本でのエルフのイメージ通り魔法が得意なのだろう。


そして今一番喋ってほしくない真ん中の人が、「じゃあ私も」とか言い出して


「ご存じかもしれませんが私はハイヒューマンですので年齢はリアーヌと同じで380歳です。あっ、人間での年齢も同じですよ」


ご存じじゃねーよ! つまりなんだ、王族はハイヒューマンの一族だとでもいうのか? まあ確かにお姫様と言われても違和感ないくらい金髪の長い髪が綺麗で可愛いけど。ついでに身長や見た目及び年齢はリアーヌさんと同じくらいなのに、胸だけは可愛いサイズである。


「それから自分で言うのもあれですが一応マリノ王国、国王の娘でもあります」


はいでたリアル王族、しかもお姫様でしたー。絶対関わったら面倒くさいやつじゃん。


「そっ、そうですか。最近こっちに来たばかりだったものでして…勉強不足で申し訳ないです」


「いえいえ。別にそんな気にしないでください。私はただの娘であって女王でもなければ、どこかの国の王妃でもないので」


へ~、このお姫様は自分が王様の娘だからといって威張るタイプではないらしいな。それに加えて残りの二人もそれを否定しないのは好感が持てる。………しょうがないからもう少しだけ話を聞いてやるか。


「え~と、なんでそんな方がこんな所に?」


「それがですね、『ボハニアに見たこともない服装をした男性がいた』だとか、『その男性がギルドマスターと仲良くしていた』などの噂が最近こちらにも流れてきていたので、一応私達で偵察に来ていたのです」


お姫様、その男俺だわ。


ここで物語の主人公ならば、速攻で自分ですと告白するんだろうが俺は絶対にお断りである。だって絶対そんなことしたら何かしらの問題に巻き込まれるパターンだもん。それに向こうは俺の質問にまだ答えてないし。


やっぱりボハニアってやばいのか? もう少しだけ話を聞かせてもらうか。


「そういえば皆さんお昼は食べましたか? よろしければ私がご用意させてもらいますが」


「おい坊主、何が目的だ?」


こっわ、正直にゲロしよ。あと、名前を教えてなかった俺も悪いが坊主は止めろ。


「回りくどいのは面倒くさいので本当のことを言いますが、私はただボハニアについてと……あなた達がこんな所にいなきゃいけない理由が知りたいだけです。それと自己紹介が遅れましたが私の名前は宗司です」


「………どうなさいますか、お嬢様。お嬢様がソウジ様の質問にワザと答えていないことは完全にバレているようですよ」


リアーヌさんに聞かれたお姫様は少し黙って俺のことを見つめた後


「それでは折角のお誘いでもありますし、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか?」


「ええ。では今用意しますので、少しお待ちください」


そう返事をした後、たまたま材料が揃っていたのでホットケーキを作ってやるとアベルとお姫様は


「なんだこれ⁉ めちゃくちゃ美味いじゃねーか!」


「本当ですね! これはなんという、お料理なんですか?」


だの


「おい坊主! おかわり‼」


「あっ、ソウジさん。私もお願いします」


と、うるさくて話を聞ける状況じゃない。しかもさり気なくリアーヌさんまで皿をこっちに差し出してるし。……これ、俺の分残るのか?

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