第64話:勇者召喚の危険性
「さて、少々話がズレてしまいましたのでもう一度。え~、問題はこの四角い箱ですね」
「ちょっとソウジ君の化けの皮が剥がれてきたね。あれ絶対敬語使うのが面倒臭くなってきてるよ」
君さっきから他国の王様の前でも関係なしに軽口叩いたり、その人相手に意見したりとどんな神経してるのさ。その図太さ少し俺にも分けてくれよ。
「恐らく私達が突然ちょっとした外交を始めてしまったせいでそちらに集中力を使いすぎてしまったのでしょう。あのレベルのものは雑談の範囲内であり、他国とのパーティーではよくあることですのでそろそろ本格的にお勉強の方も進めていかなければいけませんね」
「あっ、スケジュールのことなら私に任せてね。最近は宰相としての仕事ばっかりしてるけど本業はソウジ君の秘書なわけだし」
「話が進まないからお前ら少し…会議が進みませんので関係のない話はお控えください」
「ソウジ様、というより陛下も大変なんですね」
ホントだよ。王様になれば楽できると思ってたのにとんだブラック企業だったわ。
「はあ。んで、この四角い箱なんですが…皆さん分からないと思いますので答えを言いますと、爆弾です。この世界で例えると爆裂魔法を四角い箱に詰め込んだ物ですかね。ちなみに威力は使用者の自由に、しかも簡単に調節ができます」
「つまり今回の事件にはこの世界の人間じゃない、つまり異世界人が関わっていると言いたいのだな」
「ええ゛っ⁉ この世界で異世界人って言ったら陛下と同じ日本人ってことですか? というか今確認されている日本人って陛下ともう一人しかいませんよね……」
そう、俺以外にもう一人だけ日本人がいるのだ。どこの国の勇者様かは知らなけどな。
「ここからは私が話をさせてもらってもいいかな?」
「まあその為に陛下達をお呼びしたのですし、どうぞ」
「息子以外は皆少し前に起こったスロベリア王国とクロノチアという小国が戦争をしていたのは知っているな? そして突然戦況がひっくり返り、国が完全に乗っ取られたことも」
一方的に優位な状態だったマリノ王国の友好国は突然魔法の杖を持った100人の兵と一台の鉄の馬車により敗戦。そのまま国を乗っ取られたってやつか。多分その戦争で負けたのがスロベリア王国とかいう苺みたいな名前の国だろうな。
「あの件に関してギルドではまずワザと自国側を圧倒的不利な状況にし、そのタイミングで勇者召喚を行うことによって呼び出された方を自分達が扱いやすくしたのでは? という意見が多いですね」
「一国の宰相をやっている私が言うのもあれですが勇者召喚をする際のタイミングとしては一番適していますからね。何も知らない状況で呼び出された国が戦争をしており、尚且つ圧倒的不利な状況なら洗脳もしやすいですし」
戦争とは上に立っている者が民衆に自分達こそが正しいと思いこませ、それに対して何も疑問を抱かずに行動する者が大勢いるからこそ起こるもの。
そしてネットやスマホがかなり普及してる現代地球ですら少し調べれば分かるような嘘でも簡単に引っかかる人達はいくらでもいるわけで、そんな便利な物など存在しないこの世界なら適当に自分達を正当化することなど朝飯前だろうな。
この世界の人達は兎も角、同じ日本人として勇者様にはちゃんと情報収集してから協力するかどうかを判断しろよと言いたいが…俺もミナを脅して信用できるか確認しただけなのであんまり人のことを言えない。
「今二人が言ったように、いきなり知らない世界に呼び出された者というのはかなり洗脳というか…非常に御しやすい。つまりこの一連の流れは最初から仕組まれたもであったのであろう」
「そういえば今はマリノ王国でスロベリア王国の重要人物達を匿ってるらしいけど…その人達は今後どうするつもりなのかな? 勇者様相手じゃあ勝つ方法はかなり限られてくると思うんだけど」
「今出ている案の中で一番現実的なのはうちの国の魔方陣を使って勇者様を呼び出し自国を奪還。出来そうであればそのままクロノチアを攻め落とすですが……」
恐らくマリノ王国の魔方陣を使わせる代わりにストベリアを取り戻した暁には自国の魔法陣をマリノが使えるという権利プラス金か何かを用意するとかで話を進めてるんだろうけど
「それは止めておいた方がいいんじゃないですかねえ。まず第一にリスクが高すぎますし」
「えっ? でも勇者様相手に勝とうとしたら同じ勇者様を呼ぶか、あとはソウジ君に協力を依頼するしかないと思うんだけど」
マイカは元一般人にしてはかなり頭が良い。しかし流石に勇者関係についてはまだ知識不足というか、発想力が足りないみたいだな。まあ俺も付け焼刃の知識だけど。
とか思っているとミナがマイカの疑問に答えてやるようで
「マイカさんもご存じの通りこの世界の勇者召喚というものは必ず一つだけ特別な力を持って現れ、そして二度と元の世界に戻ることが出来ないのが今のところは常識です」
「あ~、つまりその特別な力が元の世界とこの世界を自由に繋げられる能力だとかなり拙いのか」
そう、勇者召喚というものは聞こえはいいが結局は誘拐もしくは拉致であり、それにプラスして二世界を繋げられるようになったら最悪戦争が起こる。
なんたってこの世界は環境汚染やコンクリートジャングルとは無縁の素晴らしい世界だからな。それに加えて探せば石油やら何やらいっぱい出てきそうだし。まあ最新の化学兵器と魔法のどっちが勝つのかは分からないからちょっと興味はあるけど。
つか、今の説明だけでそこまで完璧に分かるとか頭良すぎだろ。
「だがストベリア側からしたらこのまま黙っているわけにはいかないのは勿論、次はどこが標的になるかも分からないためそんな悠長なことも言っていられないのが現実」
「しかしソウジ殿が言うようにリスクが高すぎるのも事実。最悪自国どころかこの世界丸ごと乗っ取られる可能性もありますからね」
そんなことを言いながら二人は俺の方をチラチラ見てくるので
「言っておきますけど今のところ私達に動く気はこれっぽちっもありませんよ。別にミナ達の地元であるマリノ王国が襲われたわけでもなければうちの国に実害があったわけでもありませんし。何よりうちにはまだ、戦争をする理由が足りませんから」
「だいたい次の標的は高確率でこの国じゃないですか。それなのになんですか、二人してソウジ様を不安にさせるような脅しまでかけて」
ミナはそう言うが正直負ける気は一切しないので特に不安になることもなかったのだが…どうやら若干一名不安を煽られた奴がいたようで
「うえ゛っ、やっぱりこの国が次の標的なんですか? 私この国のギルドに移動してきたばかりなのに、もう戦争に巻き込まれるとか嫌なんですけど」
「私的にはこの国が戦争を起こすどうこうよりもソウジ君が同じ世界の人を殺さなきゃいけないかもしれないっていうことの方が心配かな。……戦闘面に関しては完全に人任せの私が言うなって感じだけど」
面接時にリアが話を聞きながら書いたメモによると、マイカは完全に事務仕事がメインで戦闘に関してはからっきしらしい。まあ戦闘とは別の仕事が出来るミナ達がおかしいだけでそれが普通なので気にすることは全くないのだが……。
「なにもソウジ様と一緒に戦場へ行く人達だけが偉いわけではなければ、この方を他の人達よりも更に近くで支えてあげられるといわけでもありません。マイカさんの立場で言えば…ソウジ様のスケジュール管理は勿論、私達には話してくれない相談事なども沢山あるでしょう。だからそんなに自分を卑下しないでください。それに―――」
途中まではミナの声が聞こえていたものの、途中から念話に切り替えたらしく何を言ったのか聞き取ることができなかった。




