第59話:秘密の後片付け
ミナの髪を結んでやった後、俺達は例のバスタオルを持って洗面所へと向かい
「え~と、血が付いたタオルって洗濯機で洗ったら綺麗になりますかね?」
ベッドでイチャイチャしていた先程までとは違い、ミナは恥ずかしそうに自分の血が付いたバスタオルを隠すように抱きしめながらそう聞いてきた。
「乾く前なら大丈夫だろうけど、それは完全に乾いてるから洗濯機で洗ったところでシミになってるだろうな」
「つまりこのままだとアリスちゃん達が洗濯物を干す時に見られ、ッ~~~」
どうやら恥ずかしさが限界に達したらしく、ついには乾いているとはいえ血の付いたバスタオルに顔を埋めはじめてしまった。
ミナっていつもは大胆というか、あんまり恥ずかしがらないくせにこういうことは恥ずかしがるんだよな。昨日の夜だって最初の方はそうだったし……。いや、でも朝のイチャイチャ時とかはいつも通りだったよな。
「なあ、なんでさっきまでは普通に裸で抱き合ったり、自分からフ――しても恥ずかしがらなかったくせに今はそんなになってんの?」
「……ベッドで愛し合っている時は幸せで頭が一杯なので気になりませんが、こう…冷静になるというか日常に戻るというか…兎に角冷静になると恥ずかしくなるんです! 変なこと言わせないでください‼」
「ふーん、だから俺がパジャマの中に手を突っ込んでる時は恥ずかしそうにしてたのに、段々と積極的になっていったのか。途中でパジャマどころかパンツまで脱がしてきたもんな」
別に俺もミナのパジャマを脱がしたわけだし、そんな気にすることでもないだろうと思ったのだが……右手でタオルを抱え、左手で俺の胸をポカポカと殴りながら
「ここでそういうこと言わないでください! ううぅ~、ソウジ様の意地悪」
「悪かったって。ミナはキスまでなら恥ずかしがらないけど、それ以上のことだと恥ずかしさが消えるまで少し時間が掛かるってことが分かったから今度からは気を付けるよ」
「……それってどういう意味ですか?」
「つまり俺がキスしたくなったら人前でしてもいいけど、それ以上をしたくなった場合は二人っきりになれる場所でってこと。これでいいか?」
そう聞くとミナは小さく一度だけ頷いた。
はぁ~、あと少なくとも二パターンは把握しとかないといけないのか。俺のキャパ的にそれらを全て把握してやり繰り出来るのは多分そう多くないぞ。
けどそれが出来ないとこの子達に愛想つかされそうだし、頑張らないといけないんだよな~。ラノベの主人公みたいに自分は何もしてないのに何故か好きでい続けてくれるとか絶対にあり得ないし。
白崎宗司という本来のキャラを一切崩さず、その範囲内で相手が求めていることを察し可能であればやってあげる。それが一人なら簡単だろうが既に俺のことを好きでいてくれている子は三人。
つまり少なくとも三パターンは必要であり、また一人一パターンでは飽きてしまうため常にパターンを増やし続けなければいけないと……。ちなみに今俺が持っているパターンは
ミナに対して:通常パターン、弟(甘え)パターン、積極的パターン、意地悪パターン
リアに対して:通常パターン、弟(甘え)パターン、積極的パターン
セリア :通常パターン、兄(逆甘え)パターン
である。ミナに関しては昨日の夜の一件があったお陰もあり一番パターンが多いが、逆にセリアとは一緒にいる時間が少ないせいもあって一番パターンが少なかったりする。
おい誰だハーレムは男の夢だとか言った馬鹿わ。現実見してやるから今すぐ出てこい。
とか一人で考えていると、相変わらず顔を赤くしているミナが俺の裾をちょんちょんっと引っ張ってきて
「あの…結局これどうしましょう」
「ああ、忘れてたわ。ほら、綺麗に落としてやるから貸してみ」
「い、いえ、流石にソウジ様でもちょっと……」
さっきまでのは意地悪とは違って今のは何も考えずに言ったのだが、これは俺の配慮が足りなかったな。今度から気を付けよう。
そんな反省を頭の中でしながら俺は近くにあったバケツに水を入れ、その中に重層を溶かし
「この中に十五分くらい入れとけば乾いた血が分解されたりなんだりするから、その後洗濯機に入れれば綺麗に落ちるはずだぞ。今から十五分だから…ギリギリ朝飯には間に合うだろ」
現在は家の中ということもあり、ロングコートは着ていないためズボンのポケットから昨日アベルに貰った懐中時計の蓋を開け、時間を確認しながらそう言うと早速ミナは動き始めた。その為暇になった俺は懐中時計の蓋を閉めながら
このパカッていう音がいいよな~。それに文字盤のデザインも自然な高級感があって綺麗だし、蓋に俺の名前が彫られてるところもポイント高い。
名前に関してだが俺には最初ローマ字で見えていたのが、アベルによるとこっちの文字で彫られていると言うのでこれに関してだけは後者で見えるようにしている。まあなんて書いてあるか分かんないけど。
なんか後で名前の部分が『ソウジ・ヴァイスシュタイン』になってる蓋もくれるとか言ってたけど、結局なんて書いてるか分かんないから変わらないんだよな。貰えるものは貰うけど。
流石にこれ以上ミナを揶揄うのもあれなので、一人懐中時計を眺めて時間を潰していると洗面所のドアが開き
「んっ、朝飯前に坊主がここにいるなんて珍しい―――」
アベルが来たことに気付いたらしいミナは凄い勢いで飛んできて
「出て行ってください‼」
そう言いながらアベルをふっ飛ばした。
スッゲ、一切壊れなかったうちの壁が。
「……なるほど、もうすぐ朝飯の時間だから朝練から帰ってきたアベルが手を洗いに来たのか。適当にあいつの相手をしとくから終わったら出て来いよ」
「はい、お願いします」
さて、アベルはまだ生きてるかな~、とか思いながら洗面所を出てみると
「――――――⁉」
一人の男が自分の頭を抱えながら意味の分からない言葉を発していた。
「お前、何してんの?」
「坊主……説明………早く」
「説明ね~、まあお前の来るタイミングが悪かった。ただそれだけだな」
絶対に口が滑っても初夜の後処理をしてるなんて言えないのでそう言ってやると
「洗面所を使うのにタイミングの善し悪しなんて普通ないだろうが。いくら姫様でも今回はやり過ぎだ」
「この家は普通じゃないからな、今度からは気を付けろよ」
とか言っていると今度は朝練に付き合っていたティアがやってきて
「こんな所で何をしておるんじゃ? はよう手を洗ってリビングに行かんか」
「まあ、ティアなら大丈夫だろ。入っていいぞ」
「どういうことじゃ?」
「入ってみればこの状況にも納得するだろうよ……。絶対に揶揄ったりはしてやるなよ」
俺の言葉を聞いたティアはまだよく分からないっといった顔をしながらも扉を開け、中へと入っていった。
「なんで坊主や師匠は入れて俺は入れないんだよ⁉」
「さっきも言ったが、この家は普通じゃないんだから仕方ないだろ」
ま~あ、こんな説明で納得できるわけもなく不機嫌そうにしているアベルを無視し、適当にスマホを弄っていると洗面所から二人が出てきて
「ほれ、サッサと手を洗ってリビングにくるんじゃぞ」
「俺が姫様に吹っ飛ばされた挙句、五分くらい入れさせてもらえなかった説明は?」
「そんなものあるわけなかろう。ただただタイミングが悪かっただけじゃ」
「ああ゛っ⁉ 坊主といい師匠といいタイミングってなんだよ? 意味分からねえんだけど」
怒りたい気持ちも分かるけど、女の子には色々と事情があるんだよ。知らんけど。
「これじゃから童○は……。少しは今のミナを気遣って手を握っておるこやつを見習わんか」
手に関してはミナが自分から握ってきただけであって、別に自分から気を利かせたわけではないのだが…ここは黙ってドヤ顔でもしとくか。
そんなティアの軽い説教などがあった後、俺達はアベルを置いてゆっくり歩きながらリビングへと向かった。そのせいで五人には確実にバレたけど。