第5話:初討伐
おばちゃんに話を聞いた後、俺は受付の近くにあったモンスター買取表を見ることにした。
え~と、一番買い取り価格が高いモンスターは………やっぱりドラゴンか。
ちなみに理由はこれまたやっぱり高級食肉と超レア素材が取れるかららしい。だがドラゴンにもそれぞれ生息地があるらしく、それによって主な攻撃の種類、買取価格が違うようだ。まあ買取価格が違うのは生息地によって倒しやすさが全然違うからだろう。といっても生息地は山か海しかないのだが。
さて、俺はまだこの世界のどこに山があるのかは知らないが海がある場所は知っている。それは俺の国の隣だ。山に生息しているドラゴンは五億円。海に生息しているドラゴンは二十億円。………よっし、海に行こう!
ということで早速海にやって来たのは良いのだが……
よくよく考えたらドラゴンなんてそうそういるわけなくね? だってドラゴンだぜ。そんなヤバそうなモンスターがいるならとっくにギルドがSランク冒険者にでも討伐依頼を出してるだろ。しかしそんな気配は一切なかったし、ここから見渡す限りドラゴンどころかカモメすら見当たらない。まあこの世界にカモメがいるのか知らないけど。
そんな結論を出した俺は大人しく違うモンスターを討伐でもするかと考え始めた時、海の上を一匹のカモメが飛んでいるのを見つけた。
「おっ、異世界にもカモメっているんだ」
ついそんな独り言を言ったすぐ後のことだった。空からデッカイ青い鳥が凄い速度で急降下して来たかと思えば口を大きく開きカモメを食べ始めた。というか今、丸飲みしたよな。
「………って、あれどっからどう見てもドラゴンじゃねーか‼」
パッと見だが体長はテニスコートの縦幅と同じくらいだったから…約20メートルだぞ。………よし、あんな化け物と戦うのは無理だ。見つかる前に逃げよう。
と思ったのだが
「あれ? なんかあのドラゴンこっち見てない? もしかして、ここで俺が逃げ出したらこのままボハニアを襲いに行くとかそういうパターン?」
それは流石にまずいだろ。正直ここから逃げ出すのは簡単だがそのせいで多くの人が襲われたんじゃ目覚めが悪いどころか、罪悪感半端ないことになるぞ。
そう考えた俺はメニュー画面から武器庫とかいう項目を選択すると、色んな武器の名前が表示された。
なんか伝説の武器ぽいのが色々あるな。
「って、そんな呑気なこと言ってる場合じゃないんだよ‼ あ~、もう適当でいいや!」
俺はやけくそ気味に適当に武器を選択すると空中に一本の刀と説明文ぽいのが現れた。
【妖刀ムラマサ】
魔力、もしくは生命力を流せば流すほど切れ味が上がる刀。主に使用されていた時期は戦国時代であり、日本には魔力が無い為使用者は必ず死んだと噂されている。では何故そんな危険な刀が今でも残っているのかというと、耐久値が高すぎて誰も壊すことが出来なかったからだ。その為気が付いたら妖刀と呼ばれるようになっていた。
説明文が出てきたからつい読んじゃったけど……
「今から戦う為に武器を召喚してるってのに、こんなもん一緒に出してくんな! 邪魔だよ‼ もしこれに気を取られてる隙に攻撃でもされたらどうしてくれんだ!」
そんな俺の苦情なんてお構いなしに、気が付いた時には既にこちらに向かって凄いスピードで水がレーザーみたいに飛んできていた。しかもこっちに……。
それに伴い急いで自分の前にシールドを展開させた直後、それに凄い勢いで水が当たったかと思えば今までに聞いたことがない程の爆音が響いた。
「なんだこれ⁉ こんなの掠っただけでも死ぬぞ!」
そう叫びながら俺はオートバリアと飛行魔法、身体強化魔法を展開した後転移魔法でドラゴンの背中に回り込んだ。それからすかさず妖刀ムラマサに結構な量の魔力を流し込みながら斬りかかったのだが
「なにこれ、固っ⁉ 今思いっきり振り下ろしたのに傷一つ付いてないどころかこいつ、攻撃されたって気づいてすらないぞ。ああー、もうこうなったら自棄だ! 俺の魔力量の限界がどれくらいか分かんないけど流せるだけ流してやる」
ヤケクソ気味で戦い続けること数十分。
「はぁはぁはぁ、嘘だろ。かなりの魔力を流しながら斬りかかってるのに、爪すら切り落とせないとかマジかよ」
だが切り落とせていないだけで一発目とは違い、今では普通にダメージを与えられるようになり……ついに例のドラゴンは力尽きたのか浜辺に向かって落下していった。
「はぁー、やっと倒せたか。正直チート能力さえあれば楽勝だろうと思ってたけど、全然楽勝じゃなかった。しかも相手は人類の敵であるドラゴンとはいえ、生き物を殺すっていうのはやっぱり抵抗があるな」
こいつを倒すのに苦労はしたが、代わりに分かったが二つある。まず一つはさっきも言ったが生き物を殺すことに対する抵抗感だ。
今まではラノベとかで主人公が何も感じず、普通にモンスターを殺しているのを見て何も違和感を感じなかったが今は違う。むしろそんなの有り得るわけがないだろ。と言いたいくらいだ。
ではここでみんなに質問だ。昨日まで普通の学生をしていた君が目の前の生きている豚を自分の手で、しかも刃物を使って殺さなければいけなくなったとしよう。
さあ、どうだ? 君は何も感じずに豚の痛がる鳴き声を聞きながら、体から吹き出る血飛沫を見ながらでも何も感じずに殺すことが出来るか?
まあ人によって色んな答えがあるだろうから絶対にこれが正しいとかはないが、異世界でモンスターを殺すというのはそういうことだと自分は感じた。
次に二つ目だが、俺には戦闘の経験も知識もないということだ。
つ・ま・り、伝説の武器が使い放題だろうが、神からチート能力を貰っていようが、ドラゴン一匹にすら苦戦するということ。俺TUEEEなんて夢のまた夢である。
そうして初めての戦闘を終えた後、俺は再びギルドのおばちゃんの所に来ていた。
「あら? アンタはさっきの。何かあったのかい?」
「ええ、ちょっと。けどその前に聞いておきたいことがあるんですが、この受付での会話って周りに聞こえてるんですか?」
「ああ、そういえばそこはまだ説明してなかったね。ここでは重要な話をすることもあるから受付ごとに消音結界が張られてるんだよ。だから安心しな」
「そういうことなら遠慮なく。……モンスターの買取をお願いしたいんですけど」
「はいよ。それじゃあ外に行くから着いて来な」
そう言うとおばちゃんは歩き出したので、それに着いて行くと広場みたなのが現れた。
「ここはモンスターの買取査定をするための場所だよ。ごく稀にだけどドラゴンとかの買取をすることもあるから結構広めに出来てるんだ。それで、何を買取って欲しいんだい?」
「えーと、これなんですけど」
そう言いながら俺は先ほど討伐したばかりのドラゴンを出した。
……えっ? どうやってここまで運んだのかって? そんなの異空間を使った収納魔法に決まってんだろ。
「あはははは、アンタ最高だね。私でもドラゴンの買取査定なんて数回しかしたことがないよ」
「そういえばまだ自己紹介してませんでしたね。俺の名前は宗司です」
「ふふふ。さっきはこれ以上聞かないって言ったのに、カマかけるようなことして申し訳ない。私の名前はセリーヌ。一応ここのギルドマスターをやっていたりする者だよ」
「えっ、ギルドマスターってここで一番偉い人ですよね? なんでそんな人が受付をしてるんですか?」
まあこれは俺の勝手なイメージだけど。あと名前だけやたらと若くない?
「いくらこの国の事情を知らない人でも、何かしらの問題があるであろうことくらいは分かるだろう?」
「ええ、そうですね。別に知りたくもないですけど」
「そうかい。まあその問題のせいでうちは今、人手不足なのさ。だから私が受け付けの仕事もやってるってわけ」
「なるほど。この国は色々と大変そうですね」
「ホント、誰か何とかしてくれないかね~」
「そんな人がいたら救世主か英雄でしょうね。でも今はそんな称号よりお金が欲しいです」
おばちゃんが俺をチラ見しながら言ってきたので、若干の皮肉を込めながら査定の方へ話を戻した。
それからは普通に査定をしてもらい……
「はいよ。これでちょうど二十億円だよ。まったく、面倒くさいから小切手にしてくれると嬉しかったのに」
「すいません。ちょっと今は現金が欲しかったんですよ。次からは気を付けます」
「次からは、ってことはまだこの国にいるみたいだね。それなら服装には気を付けた方がいいよ。そんな珍しい服装じゃあ悪目立ちする」
「…………」
やっば⁉ 何も考えないでこっちに来たせいでパーカーの上にダッフルコートという、いつもの服装で来ちゃった。……まあ別に、違う世界から来てることを隠してるわけじゃないからいいんだけど。一応気を付けよう。