第55話:久々の我が家 (上)
それから俺達は武器屋に行って盗賊が持っていた武器や防具を売るついでに義手のお礼を言い、次の目的地である警備室に来ていた。
ちなみに宝石類などは既に日本で売却済みであり、こちらもかなりの値段がついたのでお金には結構な余裕がある。というか元の分も合わせれば余裕しかない。
「お疲れさまでーす」
「へっ、陛下⁉ それにティア様まで‼」
一人が大きい声を上げたせいで仕事中だった人達までこちらに集まってきてしまった。
……なんか仕事の邪魔をしたみたいで申し訳なくなるから別にいいのに。
とか考えていると、確か警備兵のリーダーの人がみんなの代表という感じで俺達の前まできて
「お二人とも、約二週間の間お疲れさまでした」
「おっ、おう。ありがと…う?」
自分より年上だろうと部下に対しては敬語を使わないように意識して返事をしてみたのだが、やはり途中で抵抗感が邪魔をして変になってしまった。
「いくらこういうことに慣れていないとはいえ、それはちと間抜け過ぎんかの?」
「そうは言っても、俺より年上の人に敬語を使わないのは慣れてないからな」
「別にお主の部下は最年長でも20代なのじゃし、こやつに関してはアベルとそう歳も変わらんのじゃから普通に話せば良かろうに」
そう、実は一部の人達を除けば俺の部下は最年長でも20代後半なのだ。まあこの前までのボハニアの状況を考えれば進んで働きたいと思う人などいないだろうし、そうなれば残るは若い人材のみ。
逆に二週間前に殺した奴らは40代付近が多かったが、それは権力云々が関係してるからだろう。
「………無理」
「これは上に立つ者としての教育が必要そうじゃのう。ミナ辺りにでも頼むとするかのう」
「ふざけんな! やっとお前の修行から帰ってきたのに次は人との接し方の勉強とかやってられるか!」
どうしたリーダー、そんな意外そうな顔をして。………いや、みんな同じ顔をしてるなこれ。
「大方盗賊を殺しておる時の悪魔のような怖~いお主と、普段の子供みたいなお主の態度が違くて驚いておるのだろう」
「はあ? お前がどんな動画をこっちに送ってたかは知らないけど、前の日の日常風景も一緒に送ったんだろ? ならそんなに驚くことはないだろ」
「じゃが映像は映像。自分の目で見ぬ限り信じられない者がおってもおかしくなかろう」
「ティア様の言う通り、陛下の態度の変わりように関してはちょっと半信半疑なところがありまして……。特に昨日流した映像など、被害女性に対してかなり冷たいお言葉をお掛けになっておりましたし」
そうリーダーが言った後、慌ててあの行為が間違ってはいないことは分かっていると付け加えてきた。別に自分の意見を言っただけなんだからそんなに焦らなくてもいいのに。
ちなみにリーダーというのはさっきから俺達と話している男性のことだ。名前は覚えていない。
「そんなことより俺がお願いしてた件は終わってますか?」
「はっ、はい。二週間前に起こった爆発事件の映像のことでしたら既に解析済です」
「それじゃあ早速確認しますかね~」
そう言いながら空いていたPCを起動させ、指定されたファイルを開いているとティアが近づいてきて
「一体何をお願いしておったんじゃ?」
「二週間前の爆発事件。つまり俺がこの国を乗っ取る時牢屋にぶち込んだ奴らを殺した日の映像解析をお願いしてたんだよ。……俺はあの牢屋の周りに特殊な結界を張っていたにも関わらず何故か脱獄された」
「つまり何者かが外から手を加えたと? じゃがお主が張った結界を壊すのは簡単じゃなかろう」
「いや、俺の予想が正しければ結界は壊されていないはずだ」
……やっぱりか。今回は自分の知識不足と油断が原因だな。そしてこの解析映像から分かることは
「これはちとマズくないかの? もしわらわが今頭に思い浮かべておる人物が関係しておるとなれば……」
「最悪全面戦争だろうな。さて、これはミナの親父に話を聞く必要があるぞ」
この映像解析は警備兵の人達がやったのだから、何かマズイことが起こっているということは理解しているのだろう。だがこの映像を見る限り分かっているのはそこまでのはずだ。
その証拠に俺達の会話を聞いていたリーダーは自分が思っていた以上にマズい状況だと察したらしく
「いっ、今陛下が仰られた『ミナの親父』というのはもしかして……」
「マリノ王国現国王、ブノワ・マリノじゃな。まあ明日にでも予定を開けておくように言って、明後日には話を聞きたいところじゃが……」
「無理やりにでもこっちに連れてきて話を聞くぞ。リーダー、このデーター貰っていきますね」
「はい。それは勿論いいのですが…その~」
まあ全面戦争だのマリノ王国の国王だの言ってるのを聞けば不安にもなるか。あんまりこの件を知られたくないからリーダー以外は仕事に戻しておいて正解だったな。
「今はまだ言えませんが後で報告書を渡しますのでそちらを読んでください」
「……はい、分かりました」
「なんじゃ、さっきまではビビッておったのに随分と良い顔をするではないか」
「陛下が待てと仰るのであれば私達は黙って待つだけです。それにこんなことが出来るのは陛下を信じているからこそだと私は考えておりますので。これが私なりの主に対する忠誠の示し方です」
そろそろ正式にこの国の王にならなきゃ駄目そうだな。元国王達を殺した者として、多くの人達が信じてくれている者として……。
警備室を後にした俺達は最後の目的地にして、我が家でもある王城に帰ってきていた。正門から玄関までは距離がある為まだ外だけど。
「俺歩いてこの家に帰るの初めてだわ」
「さっきも言ったが人と顔を合わせるのは大事なことじゃ。これからは面倒くさかろうと転移魔法は控えよ」
「はいはい、分かってますよ」
敷地が馬鹿広いせいなんだけど玄関から正門まで遠いんだよな~。歩くと疲れそうだしこれからは飛んで移動しようかな。
「お主、今くだらぬことを考えておったじゃろ」
「決めつけはよくないな~。俺の体に触れてるならまだしもそうじゃない状況で……ん? 玄関近くにいるのって―――」
最後まで言葉を言い切る前にそこにいたアリス達五人はこっちに向かって走ってきたかと思えば、セリア以外の四人は俺に前後左右に一人ずつ抱き着いてきた。
「お兄ちゃん、帰ってくるのが遅いです~」
「ソージ兄ぃ、お土産は? お土産ないの?」
アリスが言ってることはまだ分かるけど…盗賊を殺しに行った帰りにお土産はないと思うよサラちゃん。お金のことなら結構ありますけど。
「ねえねえサキ兄ぃ、お仕事はもう終わったです?」
仕事? んま~、確かに仕事といえば仕事なのか?
「ソウジ様。他国でのお仕事お疲れさまでした」
相変わらずエレナは大人っぽくしようとしてるけど、抱き着きながらそのセリフは微妙だぞ。まあ子供はそれでいいんだけど。
ってかこの子達の言ってる仕事ってなに? もしかして誰かが適当に誤魔化したのか?
四人が俺の腰辺りに抱き着いた状態のまま、そんなことを考えているとティアがセリアを抱えた状態で俺の目の前まで飛んできて
「ほれ、こやつを抱っこしてやれい。ミナやリアーヌは兎も角こやつに関しては左腕の件から一度も会っておらんじゃろ」
「そういえばそうだな。まああの時もリアに治癒魔法をかけてもらったぐらいで、あとは数個指示を出しただけだから会話も何もなかったけど」
そう言いながら俺はティアからセリアを受け取り、真正面から抱っこしてやるといきなり自分の舌を口の中に入れてきて
「んっ……、ちゅっ、んふっ……、ショウジ、ばひゃショウジ……」
「んんっ――⁉ しょっ、んちゅっ……、おしゅひけシェリア……」
顔は見えないけど泣いてるのか? なんか涙声だし、リアとディープキスした時と唾液の味が全然違うぞ。なんて言うかリアの唾液はリアの味がしたけど、セリアの唾液はセリアの味に涙の味が混ざってる気がする。
自分で言っててわけ分かんないけど……あれだ、パン屋のダクトから出てくる匂いを嗅げばパンの味がするし、焼肉屋なら焼き肉の味がする的な。
つまりキスする相手の匂いを嗅ぎながら唾液を味わってるからそう感じるわけ……じゃなくて!
「ぷはっ、いきない舌まで入れてくるなよ。ビックリしただろうが」
「だって、いきなり私の前からいなくなったかと思ったら…あなたの左腕だけが戻ってきたのよ……。私、すっごく心配したんだから」
泣いてるというよりは涙目の状態で俺の左腕、つまりは義手を強く握りしめながらそう言ってきた。
「悪かったって……。でもこの二週間で戦闘面においての技術力はまだまだだけど、もう二度とあの時みたいな失敗はしないようティアに叩き込まれてきたから安心しろって」
「あれでまだまだだなんて、ソウジはどこまで強くなるつもりなのよ。それはそれで逆に安心出来ないわ」
ティア曰く、確かに俺はルナのお陰で強いがまだまだ動きが荒いらしい。今の状態でミナ達と戦えば十回中七回は負けると言われた。
しかしあいつら相手に十回中七回なら素人にしては良い方じゃんと思うかもしれないが、俺はルナから貰った力があってその判定なのだ。つまり宝の持ち腐れというやつである。
ちなみにミナ・リア・アベルの三人は一人でもドラゴンを簡単に倒せるらしいので実力はSランク級。その三人が協力しても余裕で勝てるティアが相手ともなれば、一回でも攻撃をもらわなければジャンプして喜ぶレベルだ。
そもそもあいつは使える魔法が三つだけのくせしてその三つがとんでもないからなあ。それに加えて剣の実力もあるとかマジチート。