第53話:帰国
昨日は外に出るのが面倒くさくずっとティアと家にいたので、白崎ミナ様宛のデカい荷物がいくつか届いた以外は特に何もなかった。………いや誰だよ白崎ミナ様って。しかもご丁寧に白崎は漢字だし。
「おい、準備出来たか?」
「うむ、ばっちりじゃ。……二週間とはいえずっとここで生活しておったと考えると…ちと寂しいのう」
「別に来たければいつでも連れてきてやるよ。あと一ヵ月ちょいすれば俺はほぼ毎日こっちに来ることになるし」
単位落としたくないから来年度はあっちの世界も平和が保たれると助かるんだけど。じゃないと最悪卒業できなくなる。ちなみに今日は2月25日で学校が始まるのが4月8日である。
「連れてきてくれるのは嬉しいが、そろそろミナ達もこっちに呼んでやらんと拗ねられるぞ」
「……連れてこようとは思ってるんだけど、何か目的がないとこっちに来ても面白くないだろ? 何か切っ掛けとかあればあれなんだけど」
「お主は相変わらず女子の気持ちが分かっとらんのう。女子というのは好きな者の部屋なら連れてきてもらえるだけで嬉しいものじゃぞ」
「……落ち着いたら考えておくよ」
そう言い俺は転移した。
「言われた通りうちの国の入国審査が行われている門近くに来たけど、本当に歩いて帰るのか?」
「これからはお主がこの国の王になるのじゃから、その者が街を歩いて国民と顔を合わせるのも大事じゃぞ」
「まあ確かに一理あるな。これからは近場なら転移も控えるか……」
などと話しながら門のすぐ近くまで来ると、門番の人がすごい勢いで姿勢を正し
「お帰りなさいませ陛下、ティア様!」
「えっ? あっ、うん。……別にそんな畏まらなくてもよくない?」
「いえ、そんな滅相もございません」
「まあこやつが良いと言っておるのじゃし良いではないか。それにお主もこやつの二週間を見たのじゃろ?」
「はい。全て見させていただきました」
なんのこと?
「なら知っておると思うがこやつは身内同士での立場とかは適当じゃからのう。もっと緩くて良いと思うぞ」
「なんかよく分かんないけど俺相手なら友達感覚でいいぞ。面倒だし」
そう言ってやるとこの門番は何故か凄く嬉しそうに
「あっ、ありがとうございます。よろしければまたこちらにも顔を出してください」
「んじゃあちょくちょく来るわ」
そう言ってやり俺達は門を潜り抜けた。
あ~、俺この国の証明証とか持ってないから入れなかったらどうしようかと思ったけど通れて良かった~。
とか思っているのも束の間、次は小学生くらいの子供達がこっちに寄ってきて
「あっ、あの、僕陛下の騎士になりたいんですがどうやったらなれますか?」
知らねー。ってか何でいきなり俺なんかの騎士になりたいわけ? 二週間もあれば俺の左腕がなくなった噂ぐらい流れてそうだし、尚更そんな発想にはならないだろ。………取り敢えず隣のメイドに聞こう。
「ティア、どうやったらなれんの?」
「う~む、そうじゃのう。お主はまだ子供じゃし、まずは親の言うことを聞くところからじゃな。そうすればこやつの騎士になる為に必要な力の一つが身に付くはずじゃぞ」
相変わらず子供の扱い方が上手いな。あの子一瞬で納得したぞ。
「私はティア様みたいな陛下のメイドさんになりたいんですが、どうすればいいですか?」
こいつのどこを見てそう思った君。普段から仕事はサボるし、自分の主の頭をポンポン叩くような奴だぞ。そして何故君もいきなりそんなことを思うようになった。ティアは基本訓練場と城の往復しかしてなかったはずだから尚更分からん。
「こやつのメイドになりたかったら、まずは誰かの面倒を見るのが大切じゃな。例えばお主に弟か妹がおるのならその者の面倒を母君と一緒にやってみたりとかのう」
その後も何人かの相手をし、ようやく歩き出すことができたのが……引き止められはしないものの色んな人に声を掛けられたり、激励が飛んできたりとよく分からない状況が続いた。だがそれもギルドに着いたので一旦収まるかと思えば
「おっ、冷酷な王とそれを作りし伝説のロリメイドじゃねーか! やっと帰ってきたのか」
「ばっか‼ 左腕をなくした悲劇の王とそれを支えし吸血姫だろうが!」
「いーや違うな。勇者を超えし異世界の王と闇天使が正解だ」
なにそのダッサイ二つ名みたいなやつ。あと言い方的に二人目の吸血鬼の鬼は姫だろ。……取り敢えず無視しよ。
「……あれ? おばちゃんがいない」
「お主が言うおばちゃんとやらが誰かは知らんが、いないのなら他の者で良かろう。どうしてもその者がいいなら呼んでもらえばよいし」
それもそうかと思った俺は適当に空いていた受付に二人で向かい、そこにいた高校生くらいの女の子に話し掛けようとした瞬間
「あわわわわわ、ほっ、本物のソウジ様だー‼」
「この子大丈夫か? 俺なんかの顔を見た瞬間、偶然芸能人に会った並みの反応をしたぞ」
「それだけお主が良い意味で有名になっておるということじゃ。別に悪いことではなかろう」
う~ん。さっきの冒険者達の反応といい、この子といい、なんかおかしくないか? もし俺が一人で元国王共を皆殺しにしたことが知れ渡っていたとしても普通ここまでの反応はしないだろ。
それにティアのことまで褒められてる意味が分からない。となると俺の知らないところで何かが行われていた可能性が出てくるのだが……
「あっ、あの! 何か御用でしたでしょうか?」
「ん? ああ、すいません。ちょっと考え事をしてて。え~と、ギルドマスターはいますか?」
「はっ、はい。今は二階のお部屋にいると思いますが……呼んできましょうか?」
「じゃあお願いします」
そう俺が伝えると受付の女の子は急いで二階へと向かって行き、数分とせずにその子がおばちゃんを連れて戻ってきた。
「久しぶりだねソウちゃん。……少し見た目が変わったんじゃないかい?」
「左腕のことを言ってるならスパっと切られたわ」
「あははははは、そういうことじゃないよ。……まあこの感想は私なんかが言うことじゃないか」
よく分かんないけど腕のことを笑って流すとか流石だな。
「なんで受付にいなかったんだ?」
「丁度ソウちゃんがいない間に職員が増えてねえ。私が受付をする必要がなくなったんだよ。この子もその一人さ」
「初めまして。私、このギルドで受付をやっているクロエと申します」
ようやく動揺せずに喋れるようになったか。おばちゃんと話して落ち着いたのか?
「私のことは知ってるみたいですが改めて……白崎宗司もしくはソウジ・シラサキです」
「わらわはこやつの専属メイドでティアじゃ。よろしく頼むぞクロエ」
「どどどどど、どうしましょうセリーヌさん。私ソウジ様に自己紹介してもらったどころか、ずっと敬語で話してくれてますよ」
「そういえば私の時も最初は敬語だったね。今は普通に喋ってるけど」
確かに最初は敬語だったな。二回目に会った時はこの国を乗っ取る時だったからつい勢いでタメ口になっちゃったんだよな~。まあ今更だしおばちゃんはいいや。
「そんなことより聞きたいことがあるんだけど、これからもおばちゃんは受付をやらない感じなの?」
「そうだねえ、ギルマスの仕事もあるから人が足らなくならない限りはやらないかな。……そうだ、私の代わりにこれからはクロエの所を利用しな」
「んじゃあ、クロエさん。これからよろしくお願いします」
「あの別に敬語じゃなくて大丈夫ですよ。それに名前も呼び捨てで構いませんし」
さっきは一旦落ち着いたと思わせてからのもう一回慌て出して面白かったのに。
「お主、この女子にワザと敬語を使って遊んでおったろ」
「だってリアルで『あわわわわわ』とか『どどどどど、どーしましょう』とか言う子初めて見たし」
ふざけてクロエの声で真似してやったら驚きすぎて口をパクパクし始めた。
「は~あ。ソウちゃんが元気そうで安心したけど、あんまりクロエで遊ばないでやってくれよ」
「悪い悪い。それじゃあ買い取り頼むわ」
そう言うとおばちゃんはクロエも連れて買取所に向かったので俺達もそれに付いて行き、この二週間で殺した盗賊の死体を全部出すと
「これまた随分と殺してきたね。依頼が出ていた盗賊も何人かいるんじゃないかい?」
「そうですね。パッと見た感じでも既に10人はいますよ」
へ~、さっきまでは俺を見ただけであんなに慌ててたのに死体には反応しないのか。流石ギルド職員ってところか。多分こういうのも慣れてるんだろうな。
それから死体の数が数だったので査定に時間が掛かったが、無事終わったようで
「はい。これが今回の買い取り額と依頼が出されていた分のお金だよ」
「おお~、これは予想以上に儲かったのう」
「盗賊を殺した時、一緒に武器なども持ってきたと思いますがそちらは武器屋などで買い取ってもらえますので更にお金が入ると思いますよ」
となると……当分はクエストなんかを受けなくても大丈夫そうだな。少しゆっくりしたいから助かる。
「ちなみにソウちゃんはギルド登録をする気はないのかい? うちとしては是非して欲しいんだけどね」
「最高でもBランクスタートなのが面倒くさいからヤダ」
「まあお主の場合技術は兎も角、使える力的にはSランクを軽く超えておるしのう。こやつがギルドに登録でもしたら新しいランクを用意しなければならなくなるぞ」
「う~ん、そうなると私達が面倒だね」
いやギルマスが面倒とか言うなよ。それがあんたの仕事だろ。
それから少し話し合い、ギルド登録はしないが緊急事態の場合は協力するということで話がまとまった。




