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第52話:二日目~十四日目まで

あれから二週間俺とティアは転移魔法で移動して盗賊を見つけては殺し、転移魔法で移動して盗賊を見つけては殺しを繰り返した。そしてその度にティアは俺に色々なことを教えてくれた。


ある時は盗賊に襲われている人達を見つけ、急いで駆け付けたが助けられたのは男の人が一人だけ。どうやら家族で馬車に乗って移動していたところを襲われたらしく、旦那さんが応戦していたらしいが相手は十人。


とても一人で家族を守りながら戦うというのには無理があり、気付いていなかっただけで俺が助けに入った時には既に死んでいたらしい。らしいというのは俺が戦っているうちにティアが確認したからである。


それでも俺は前回とは違い一人でも助けられて良かったと思ったのもつかの間、その男の人は俺の胸ぐらを掴み大声で


『なんでもっと早く来てくれなかったんだ‼ お前がもっと早く来てくれれば妻と息子はこいつらに殺されずに済んだはずだ‼ どうせ全員助けられないなら最初っから来るんじゃねーよ‼」


そう言うと男性は俺のことを突き放し、笑顔で近くに落ちていた短剣を自分の心臓へと向け……今度は静かに


『お前のせいで俺達家族は死んだんだ。一生このことを後悔しながら生きるんだな』


と言い残し彼は自殺した。


この時ティアは俺にこう教えてくれた。


『別に今回はお主が悪いわけではない。悪いのは自分一人で盗賊に勝てなかったこやつじゃ。そもそもわらわ達はたまたまここを通りかかったから助けただけじゃ。感謝こそされど文句を言われる筋合いなどありはせん。じゃから今後同じことを言われても気にするでないぞ』


と。だが最初の方はティアの言うことが正しいと分かっていながらも


『俺が一回一回の転移をもっと早くしていれば』、『家を出る時間がもっと早ければ』、『ここに来るまでとは違うルートならもっと早く着いたかもしれないのに』


と考え続けた。そのせいでこの日はティアに『もう家に帰るぞ』と言われてしまい、家に帰った後はお昼ご飯を無理やり食わされたりして大変だった。


またある時は遠くで炎が燃え盛っているのが見えたため急いで駆けつけると村一つが丸々燃えていた。


もちろん急いで消火して生存者を探したのだが一人も見つからず、見つかったのは小さい子供や大人の焼け焦げた遺体と崩れ落ちた建物だけだった。


この時ティアはこう教えてくれた。


『今のお主からは絶対に犯人を見つけ出して殺してやるという意思が感じられるが、それは絶対にやってはいかんぞ。何故なら復讐とは成し遂げるまでは別に良いが、それを達成したとしても得られるのは喜びでもなければ達成感でもない。ただの無…もしくは絶望じゃ。復讐というのは最初は大丈夫じゃが徐々にそれが人生の目的になってしもう。つまりそれが終われば次は何をしていいか分からなくなってしまうのじゃ』


確かに普通の人はそうかもしれないけど俺は違う。俺には王様にならなければいけないのだから絶対に大丈夫だと思った。だがティアは


『わらわはそうやって最後は自殺していった者を多く見てきた。勿論そうじゃない者も何人かはおったがお主がそうなるとは限らんし可能性は圧倒的に低い。じゃから絶対に復讐はせんとわらわと約束せい』


と言ってきた。


その為、じゃあお前は城にいる人達の誰かが殺されても復讐せずに我慢できるのか? と聞くと


『もし自分が大切だと思う相手がおるのなら、ただそやつを全力で守り通すだけじゃ。それが出来んのなら出来るようになればよい。現にわらわはお主のことを守っておろう?』


そう言われたお陰であの時国民を、そして何よりセリアを守ろうとしたのは間違いじゃなかったんだなと改めて思わされた。


そして今、俺達はたまたま盗賊に襲われている村を助け終えたところだった。


「ティア、一応全員に回復魔法をかけたつもりだけど大丈夫そうか?」


「うむ。上から見ておったが怪我人は全員治ったようじゃし、盗賊の方はお主が全員確実に殺しおったから問題ない」


「それなら村長か責任者っぽい人に今まで集めた食料とかを渡したて帰るか」


今まで集めた食料というのは俺が助けられなかった人達が持っていた物である。流石に大切そうな物は一緒に埋めてきたが、それ以外は全て頂いてきた。


ティアが何かの役に立つかもしれないからと言っていたが、恐らくこのことを考えての言葉だったのだろう。


ん? 何人か人が近づいてくるな。あの人達にでも聞いてみるか。


そう思ったのもつかの間、いきないりそいつらが


「あんたのせいで私の娘が殺されたわ‼ どうしてくれるのよ⁉」


「俺の嫁さんは目の前で盗賊共の慰め者にされた挙句殺されたんだぞ‼ なに涼しい顔してんだ!ふざけんじゃねーぞ‼」


「こいつは実際にやられたことがないから俺達の気持ちが分からねえんだ‼」


「それなら俺達と同じ体験をお前にもさせてやるよ‼ 隣にいる可愛い子を使ってな!」


そう一人の男が言うと周りにいた奴らが俺達のことを囲みだしたのでどうしようかと考えた結果、取り敢えず首から下を砂の中に埋めることにした。


やり方は簡単。奴らの足元にある砂を転移魔法で収納ボックスに移し、穴に落ちたらすぐに砂を戻すだけ。


「お前らがティアに何をしようとしたかは敢えて聞かないけどな、自分達の弱さを人のせいにするんじゃねえよ。大体俺らはこの村と友好関係があるわけでもなければ、ここの警備兵でも何でもないんだよ。助けてやっただけありがたく思え。つか、文句を言う前にまずはお礼だろうが」


「ふざけないで‼ あんたいったい何様のつもりなの? 私なんてあんたが来るのが遅かったせいで家族全員殺されたのよ‼ もうこうなったら死んで私もあの人達の所に行った方がマシよ‼」


一人の女がそう言ってきたのでそいつだけ地面から出してやり、そこら辺に落ちていた短剣を投げ渡しながら


「ほら、死にたきゃ死ねよ。……どうした? 死にたかったんだろ。早く死ねよ」


「あっ、あんたまだ私を追い込むつもりなの⁉ 人でなしにも程があるわよ‼」


「だってあんなに死にたいって言ってたじゃん。まさかとは思うけど…怖くて出来ないのか? おいおい、大事な家族の所に行きたかったんじゃないのかよ?」


「こっ、こんなので自殺なんて出来るわけないじゃない!」


「そんなことはないだろ。なんたって二週間前に一人の男が同じような物を使って俺の前で死んだからな」


そう教えてやると女は震える手で短剣を握りはしたが、そこから一向に動く気配がないので更に煽ってやろうかと思ったその時、一人の老人が近付いてきた。


「何をしているお前達‼」


「ただこの役立たずに文句を言っているだけです!」


「そうです村長‼ 邪魔をしないでください!」


「こんな奴殺してしまえばいいのよ‼」


……この人に関しては一歩前進か。


「馬鹿者‼ 村を救ってもらっただけでなく、怪我人の治療までしてくださった方に向かってなんて無礼なことをしておるんだ⁉」


「ですが―――」


「ですがじゃない‼ お前らはもう黙っておれ!」


流石と言うべきか、村長なだけあってこの人が一言黙れと言ったら納得はいっていない様だが一応騒ぎは収まった。


それからは村長からのお詫びに始まり、村を救ったことに対するお礼、一部の感謝してくれていた人達からのお礼へと続いたのだが、その間も地面に埋まっている奴らとその周りにいる奴らは俺達のことを睨み続けていた。その為これ以上長居するのもあれかと思い、パパッと渡すものを渡し村をあとにした。






「なあ、なんでこっちの家に帰ってきたんだ?」


「まあまあそう言うでない。今日はこっちでゆっくり休んでから城に帰った方がよかろう?」


この会話から分かるように俺達は例の村を後にしたあと、何故かティアが日本の家に行けと言うのでこっちに帰ってきていた。


「まああっちに帰ったら幾つかやりたいこともあるし、そう考えれば明日の方がいいか」


「分かればよいのじゃ……」


そこで一旦ティアは言葉を切ったかと思えば背中へ撓垂れ掛かってき、そのまま自分の両腕を俺の首に回してきた。


そしてさっきまでとは違う、どこか冷たい、人を試すかのような声で


「……それより先ほどの女子に対する対応じゃが、どういう意図があったのじゃ?」


さっきの女子ってことは死ぬ死ぬ詐欺の女か。


「ああいうのは下手に慰めるよりも自分じゃあ死ねないことを理解させてやった方がいいだろ?」


「まあ絶対とは言わんが、その方が諦めがついて新しい人生を歩める者が多いのも事実。じゃがもしあの女子が本当に自殺したらどうするんじゃ?」


「そんなの知るかよ。一々そんなこと気にしてたらキリがないだろうが。俺はこの世界全ての人の味方でも何でもないんだよ。それがあいつの選択なら勝手に死ねばいい」


「ふむ。今のお主の言葉…一人の人間としては失格じゃが、一国の王としては正解じゃな。そしてお主はもう一人の人間でなく一国の王じゃ……」


そこで再び言葉を切り、今度はいつも通りの声で


「よくここまで頑張ったのじゃ。王としてはまだまだ足りない部分はあるがそれはこれから身に着けていけばよい。……それと、さっきはわらわを守ってくれて嬉しかったぞ」


守ったね~。あれは守った内に入っているのかは分からないけど、本人がそう言うならそうなのか? そうなるとティアを守ったのはこれが初めてになるけど、これって結構レアなんじゃね?


だって今後も俺がこいつに守られることはあっても、守ることは少なさそうだし。………いつかは城のみんなを、そして国民を守れるような人間になれるのかね~。


ああ、あとさっきティアが抱きついてきたのはここ二週間の間に生まれたルーティン(俺の気持ちや精神状態を確認する為の行為)であって、イチャイチャとかではないので勘違いしないように。


………誰に言い訳してるんだろ。

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