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第51話:働きたくないから……

働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そんな軽い気持ちで神社でお願いをしたら願いが叶った。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そんな軽い気持ちでこの世界をぶらぶらしていたら乗っ取るのに丁度いい国があった。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そんな軽い気持ちでとある国を乗っ取った。これはもう人生勝ち組だとすら思っていた。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そんな軽い気持ちで今日まで来たらあっさりと左腕を失った。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そんな軽い気持ちでいたことを反省し修行することにした。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。そう思っていたはずなのに実際はかなり大変だと分かり逃げ出したくなった……。


だがもう俺には日本へ逃げるという選択肢は残されていない。


何故ならあの城には俺のことを大切に思ってくれている人達がいるというのに、その人達を置いていくわけにはいかないから。


働きたくないから異世界の王様になって楽がしたい。この発想は完全に舐めていた。


だって大人しく日本で働いていたら人を殺す必要もなければ、こんな重すぎる悩みを抱えることもなかったのだから。


だがもう引き返せないところまできてしまった。


ならどうするか……。


国民全員とは言わないまでも多くの人達に認めてもらえるような王様になるしかない。


つまりティアがさっき言ったことは半分当たりだ。


「心のどこかでじゃなく、割とハッキリ思ってたっつうの。……50%くらいだけど」


「今はどうなんじゃ?」


「国民に認められようが認められなかろうが関係ねえ。俺があの国を乗っ取ったんだからあれは俺のもんだ」


「ま~た強がりおって。……じゃがその様子ならもう大丈夫そうじゃな。さっさと片づけて次の盗賊を探しに行くぞ」


それから俺はティアの指示でまず盗賊の死体とこいつらに殺された人達の荷物を全部収納ボックスに仕舞った。


正直殺された人達の荷物まで貰っていくのは盗賊っぽくて嫌だったのだが、今後何かの役に立つかもしれないと言われたので大人しく言うことを聞いておくことにした。


そして最後に残ったのは殺された人達の死体だけとなったためそれを魔法で火葬し、人が通らなさそうな場所に埋葬した。






それから俺達は再び転移を繰り返し、盗賊の集団を三つ程潰したところでティアが


「うむ、今日はこれくらいにしておくかのう。そろそろ帰るぞ」


「まだこっちの家には帰りたくないから日本の家でいいか?」


「別にわらわはどっちでも良いが、何か理由でもあるのかの?」


「……今あっちに帰ったら絶対にミナ達が甘やかしてくるはずだ。でもそれじゃあティアだけを連れてきた意味がない」


最初は牢獄にぶち込んだ奴らの始末もミナ達が引き受けると言った程だ。そんな甘くて優しい子達が左腕を失った状態の俺が盗賊狩りをしているなんて聞いたら全力で止めてくれる気がするし、あの子達で俺の分もカバーしようとしてくれるだろう。


「確かにあやつらはお主に甘々じゃからのう。そいうことなら日本の家で良いぞ。あっちの家のお風呂から見える景色は絶景じゃからのう。いつも入っておるお風呂だと広くて良いのじゃが、景色が見えないのがの~」


ちなみに俺が今住んでいる日本の家は結構家賃が高めな高層マンションの最上階なので景色が良いのは当たり前であり、それに対して城にある風呂は一階にあるため温泉みたいに窓は上にしか付けていない。


別にマンションは俺が選んだわけではないので成金とか言わないように。あとルナがあのマンションを買ってくれたらしく家賃は一円も払っていないどころか光熱費を払った記憶もないけど、絶対にルナのヒモとか言わないように。


そんなことを考えつつ俺は玄関へと転移した。


「靴は脱げよ~」


「一回来たことがあるのじゃから分かっておる。それよりお主は靴を脱いだらそのままお風呂に転移じゃ」


「自分の動きを速くして返り血を浴びないようにしてはいたんだけど、やっぱり少し付いてるな。なんか良い方法ないの?」


「う~む。お主がいつも使っておる刀という武器の刃の部分だけ魔法で高温にしてみるのはどうじゃ? そうすることによって斬るのと同時に傷口が熱で塞がるという戦法じゃ」


焼灼止血法か。でもそれをすると皮膚が焼けた独特の臭いが発せられるだろうし、これ以上悪臭が追加されるのはごめんである。……却下だな。


「返り血はもう諦めるわ。風呂行ってくる」


「そういえば片腕だけで大丈夫かの? もしあれなら手伝ってやるぞ」


「一人で何とかするからお前は適当にくつろいでろ」


そう言い俺は風呂へと転移し……なんとか片手で頭と体を洗い終えた後、丁度沸いたお湯に浸かった。


今頃ミナ達は何してるのかな。ちなみに念話はティア以外は遮断、スマホも電源を切ってある。なのでいくら俺に連絡をしようが返事はこない。となれば一緒にいなくなったティアに連絡がいくだろうし、何かあっても大丈夫だろう。


それよりも問題なのは戦闘中に耳が聞こえなくなる現象だ。今日は4回盗賊と遭遇し全員殺したのだが、その全てで耳が聞こえなかった。しかもそれは人が相手だからというわけではなく、モンスターでも同じことが起こった。


ならば念話ならとも思ったのだが、それも駄目だった。つまりこの症状が治らなかった場合、俺は誰かと連携して戦うのはかなり厳しいだろう。まあ最悪一人でもなんとかなりそうだけど……。


あ~、でもティアなら俺に合わせられそうだな。あいつ俺が勝手に動いてても上手い具合にカバーしてくれてたし。……俺が魔法で耐久力を強化した村正の鞘で。


しかも使ってるのが鞘なのに妙に様になってたし。あいつに刀を渡したら数分で使いこなしそうで怖い。


それからも俺は風呂に入りながら考え事を続け、気付いたら一時間以上が経っていた。流石にティアを一人にし過ぎたかと思い風呂から上がると何故か俺の着替えが用意されていたが、どうせ片っ端からタンスを開けたのだろうということで気にしない。


「ん? 遅かったのう。やはり明日からはわらわがお風呂に入るのを手伝ってやろうかの?」


「絶対に入ってくるなよ。あとその食材はどこから盗んできた。隣の家か?」


「失礼な奴じゃのう。ちゃんとネットで買ったわい」


ネット? ってことはネットスーパーか。使いこなすの早すぎだろお前。


「それで、何を作ってるんだ?」


「本当はハンバーグという物に興味があったのじゃが、今日はあまり時間がなかったからのう。簡単そうなピーマンの肉詰めというものにしてみたのじゃ」


「まあどっちも材料はひき肉だし、似てるっちゃ似てるか。……にしても本当に料理できたんだな」


「やはり疑っておったのか……。まあよい、そろそろ準備が出来るからこれでテーブルを拭いてたもう。片腕でもそれくらい出来るじゃろ」


「はいはい。お前はフォークとスプーンでいいのか?」


そう聞くとティアは適当に返事を返してきた。


同じ専属メイドでもリアなら絶対にこんなことやらせないだろうな。まあそれも含めてこいつを連れてきたんだけど。気を使われすぎるのも疲れるし。


などと考えながらテーブルを拭き、自分の分とティアの子供用のスプーンとフォークを並べ終わったので座って待っていると後ろからおたまで頭を叩かれ


「ほれ、次は茶碗にご飯をよそうから一つずつ運べい」


ここまで普段と変わらない奴も中々いないだろ。俺は嫌いじゃないけど。


「ああ、味噌汁とか大皿の物は危ないから運ぶ出ないぞ」


それから俺は言われた通り茶碗を二つ運び、ティアはティアでお椀や大皿などを運んできて夜飯が揃った。


「んじゃ、いただきます」


「うむ。どうぞなのじゃ」


そう返事が返ってきたので俺はご飯を食べ始めると、何故かティアは黙ってこっちを見ていたので不思議に思っていたのだがすぐにそれも終わった。


そしてキッチンカウンターの上に立てかけられていたスマホを少し弄ったかと思えば自分もご飯を食べ始めた。


「何してたんだ?」


「一人でちゃんと食べられるか心配だっただけじゃから気にするでない。それよりお主は普段より食べるのに時間が掛かるのじゃから、冷める前にどんどん食べい」


「確かに時間は掛かるけど意外と普通に食えるぞ。ってか、初めてこっちの料理を作ったはずなのにメッチャ美味いな」


「わらわが作ったのじゃから当り前じゃろ。明日も楽しみにしておれ」


そんなティアの普段通りの姿のおかげか今日は二人だけの為いつもよりかは静かなものの、それでも普通に楽しい時間となった。

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