第48話:ソウジのところへ (ミナ視点)
「確かに普段のソウジ様は私達の前では子供っぽいことが多いですが、ベッドの上では―――」
今日のソウジ様は凄く積極的なせいで頬が緩みそうなのを我慢しながらマイカさんにソウジ様の新しい一面を教えようとした瞬間
ドォォオオン‼
外から爆発音らしきものが聞こえてきました。
なんですか今のは⁉ 今まで色んな戦場やクエストに行ってきましたがこんな音は聞いたことがありませんよ!
「あっ、爆発かな?」
相変わらずあなたは冷静というか肝が据わっているというか……。まあそんな面があるから秘書や宰相に選んだのですけど。
「リアーヌ! 急いで訓練場にいるアベルとティアさんに連絡、マイカさんはそのまま動いちゃ駄目ですよ」
私がそう言うとすぐにリアーヌは二人に念話で連絡を取り始め、マイカさんは特に慌てるわけでもなくそのまま座っているのを確認した後、ソウジ様に今どこでいったい何が起こっているのかを確かめてもらおうと思ったのですが
「えっ、ソウジ様はどこですか?」
「あれ? さっきまで私達と一緒にいたのにどこ行ったんだろ?」
「お嬢様。アベルとティア様に連絡したところ、一度警備室によって状況を確認してからこちらに来られるとのことで……何かあったのですか?」
どうやらリアーヌは二人に連絡を取ることに集中していたせいでまだ状況を把握できていないながらも私達の雰囲気がおかしいことに気付いたようで、若干焦りながらそう聞いてきました。
「それが、先程からソウジ様が見当たらないのです。リアーヌは何か知りませんか?」
「お嬢様が私に指示を出された時点ではそこのお席に座っておられましたが、その後は……」
リアーヌも分からないとなると考えられる可能性は限られてくるわけで
「この部屋にいた私達全員が気付かなかったってことは、ソウジ君が転移魔法を使ってどこかに行ったんじゃないかなぁ」
「今ご主人様が向かわれる場所となると……」
「そんなの爆発現場しかないじゃないですか⁉ 私達も急いで向かわないと!」
そう言い私は急いで玄関に向かおうとするとリアーヌが私の肩を掴み
「ご主人様が心配なのは分かりますが少し落ち着いてください。場所が分からない状態で闇雲に探し回るよりまずはアベル達を待つのが得策です」
「………そうですね。ではお二人の帰りを待ちながら宮殿内の皆さんの状況等を確認しましょう」
現在私達三人がいる場所は居間なのでここを集合場所とし、それぞれに念話で現状を確認すると
「エメ先輩はご自分のお部屋におられたそうなので今こちらに向かわれているようです」
「セレスさんはこの宮殿の周りを見回りしてから来るって」
「あの方なら心配はいらないでしょう。こちらもセリアさんと連絡が取れました。どうやら子供達と一緒だったらしく、少し怯えていたりする子達もいるそうですが問題ないようです」
正直セリアさんと子供達が一緒にいてくれて助かりました。セリアさんは念話を使えるのでいいですが、子供達はまだ上手く魔法を使えないようなのでエメさんが教えている最中だとか。
う~ん。こういう時にスマホというものがあれば便利なのですが、どうもソウジ様はセリアさん含め子供達にはあまり持たせたくないようなんですよね。まあ便利すぎるというのもありますし、ソウジ様のお気持ちも分からなくはないのですが。
やはりもう一度相談してみた方がいいでしょうか?
などと考えているうちに二人以外は揃ったようでエメさんやマイカさんは子供達のケアを、リアーヌはセレスさんによる調査報告を確認していました。
なので私もセレスさんの方へ向かおうと思った時、アベルとティアさんから念話で
(姫様、リアーヌ、今大丈夫か?)
(そんな心配そうな顔をするでない。あの様子なら大丈夫じゃろうて)
(あれで大丈夫って、師匠は鬼過ぎるだろ)
ティアさんがそう言うということは間違いなくソウジ様が関係していると思い急いで確認しようとしたところ、同じことを考えていたらしいリアーヌが先に
(ご主人様に何かあったのですか?)
(な~に、ただ片腕が斬り落とされただけじゃから安心せい)
(ちょっ⁉ どういうことですかそれは‼ 今ソウジ様はどこにいるんですか!)
(あー‼ 兎に角姫様とリアーヌは坊主が元国王共を監禁している牢獄に迎え! 他の情報は走りながら聞いてくれ)
私達はソウジ様がいる場所を聞いた瞬間玄関を飛び出し、身体強化の魔法を使い全速力で走り出しました。
(それでティア様、ご主人様の腕がどうこうというお話はどいうことなのですか?)
(わらわ達も途中から警備室にある監視カメラの映像を見ておったんじゃが、どうも牢獄にいた者達全員が脱獄しておったようでのう。その一人に隙を突かれて斬られおったわ)
(その後は⁉ ソウジ様は大丈夫なんですか⁉)
(安心せい、どうやらあやつは覚悟を決めたようじゃからのう。動きは素人丸出しじゃが……)
今のティアさんの言葉から推測されることは…ただ一つ。今ソウジ様は一人であの人達を殺して回っているということ。
(今のソウジ様では最悪壊れてしまう可能性があるのに安心なんて出来ませんよ‼)
(そんなことわらわも分かっておるわい。じゃが殺すことを選んだのはあやつ自身。そうなればわらわ達のしてやれることは怪我と心のケア、そして一緒にどこまでも着いて行ってやることだけじゃ)
(そろそろ坊主の所に着くはずだぞ! 外傷は左腕が斬られた以外ないみたいだが精神的にはかなりやばそうだ! リアーヌは即回復魔法と鎮静魔法が使えるように準備しておけ‼)
恐らく警備室にあるモニターから私達の様子を見ているのであろうアベルは珍しく慌てながらそうリアーヌに指示を出すと、こちらも珍しく苛立ちながら
(そんなこと言われなくてもやってます‼ それよりご主人様の方はどうなっているのですか!)
(ん~、鬼ごっこかのう? 鬼は鬼でも殺人鬼じゃが)
(それってソウジ様が一方的な殺人を行っているってことじゃないですか‼ 本当に心の方は大丈夫なんですか!)
抵抗してくる相手を殺すのと無抵抗の相手を殺すのとでは罪悪感などがかなり変わってきます。それに加えてあの中には子供も何人かいたはず。
今までやってきたこと考えれば殺されても文句を言えないような人達しかいないのですが、それとこれとは別です。
(大丈夫じゃなくても大丈夫にするのがリアーヌの仕事じゃろうて。まあ最悪わらわが記憶を書き換えて何とかするから安心せい。それより今のあやつの前では絶対に泣いたり怒ったりしてはならんぞ。それが原因で心に傷を負う方が厄介じゃ)
(ティア様はこのままご主人様を一人の国王へと育てるおつもりなのですか?)
(うむ。タイミング的にはバッチリじゃし、何よりあやつが選んだ選択をわらわ達が否定するなど論外じゃ)
うっ、段々血と脂の混ざった嫌な臭いが強くなってきましたね。確か全部で53人いたはずですし、ソウジ様のいるところはこれ以上に………
(お嬢様‼ あそこに1人だけ立っておられる方がいます!)
(それが坊主だ! ゲロ吐いてやがるが出血は止まっているみたいだし外傷も特にないぞ)
(恐らく左腕を斬り落とされたせいで血管が完全に切れ、切れた部分どうしで勝手に繋がれたのでしょう。これはご主人様の膨大な魔力量に感謝ですね)
私は医療関係に詳しいわけではないのであれですが、どうも魔力というのは生物の血液と一緒に流れているらしく、何らかの理由で血管が切れた場合は魔力どうしが反応して勝手に血管と血管を繋げようとするそうです。
また魔力量が多ければ多いほど強く反応する為繋がる速度も速くなるとか。自信はありませんが恐らくソウジ様の世界で使われている磁石という物に似ているのではないでしょうか。
知識として覚えていた限りのことを自分の頭の中でまとめ、ソウジ様の無事を再確認していると……いつの間にかかなり近づいていたようで荒い呼吸音が聞こえ始め
「っおえ゛、うぶぇ……うっ、う゛ぶえぇ―――、はぁはぁはぁ、誰か……おえ゛ぇ、はぁはぁ……」
ソウジ様の酷く歪んだ横顔がハッキリと見えた瞬間、泣きそうになったのをグッと堪えた私は彼を真正面から優しく、安心させるように抱きしめ……リアーヌは後ろから同じことをし、即回復魔法と鎮静魔法を同時に使い始めました。




