第45話:お前らの意見は聞かない
「さて、先程シラサキ殿はお詫びなどはいらないということだったが、こちら側からするとそういうわけにもいかなくてな。ハッキリ言ってしまえば何か分かりやすいお詫びをしなければいけないんだ」
お詫びねえ。別に金に困ってるわけではないし、他に欲しいものといえば……
「じゃあミナとリアを嫁に頂戴」
「……これは随分と高くつきましたね、陛下」
「何が『脅しに来たわけじゃない』だ。完全に脅しに来てるじゃないか」
女の子の父親っていうのはもっとこう、『お前なんかに娘はやらん‼』とか言ってくるのかと思ってたんだけど……二人とも怒るわけではなく苦笑いって感じだな。嬉しいんだか嬉しくないんだかよく分からん。
「その後にちゃんと『挨拶に来ただけ』って言っただろ。俺の本来の目的はそっちだったのにあんたらが勝手にビビッて交渉を始めようとしたんだろうが」
「いえ、それが普通だと思うのですが……」
「大体ミナとリアの二人はこの国と関係があるからもう一回来ただけで、それがなければ二度と来てないし、関わらないから」
「我が娘が君と仲良くなっていたことに感謝するべきなのか、とんでもない人物を連れてきてくれたなと言うべきなのか……」
正体や実力はまだハッキリと分からないものの一国の王として俺と仲良くなれれば天国、仲良くなれなければ地獄みたいなもんだからな。
「それで、くれるの? それともくれるの?」
「選択肢がおかしいのは置いといて、この時期に二人揃ってシラサキ殿の所に行かれると勘繰る人達が出てくるのが問題だ」
「そうですね。素直に祝福する方達がいる一方で、シラサキ様に対するお詫びとして使われたと言い出す方達もおられるでしょう。それにミナ様は王位継承権第一位、しかも陛下の跡継ぎは今のところミナ様お一人だけですから、納得しない貴族の方々もおられるかと」
そういえば一人娘とか言ってたっけ。悪いけど俺にはセリアの件があるから婿入りは絶対にしないぞ。
「言っておくけど他の貴族の娘とかいらないからな。ってか絶対にお見合いも政略結婚もする気ないし」
「その言葉が嘘じゃないというのが厄介だな。一時的なマイナスはあれど、君達の仲が良いのはさっきの状況を見ていれば分かるし……最終的には圧倒的プラスになるか」
「ですがマイナスの時期はどうなさるおつもりですか? 最悪それが長引く可能性もありますよ」
「だが今後シラサキ殿は一切他国の王貴族の娘と結婚しない可能性もあるのだぞ。そう考えれば今回の話はかなりの好機。それに自分の娘が嫌がっているならまだしもそういうわけでもない」
「う~ん……。あの二人が好意を寄せる程の方ですから、私達が知っている以上に魅力的なのでしょうし―――」
なんかイライラしてきたからこの二人の声だけ聞こえないようにしよ。
それから一人ソファーの肘置きを使って頬杖をつきながら向かい側であーだ、こーだ政治の話をしているであろう二人の口パク姿を眺めていると……いきない誰かが俺の頭を撫でてきて
「あの人達が自分の娘を政治の道具のように扱っているのが気に食わないのでしょうけど、そんなあからさまにムスッとしないの」
誰かと思ったらミナのお母さんか。
「大体ソウジが国王になったらこういう光景を見ることだって増えるんだから、納得はしないまでも我慢くらい出来るようになりなさい」
まあもしもの時は魔法でポーカーフェイスすればスルー出来るけど、納得する気は一生ない。
「それに私の夫はもちろん、陛下だって心から自分の子供を政治の道具として使おうなんて考えてないしね。じゃなきゃこんな歳で独り身なわけないわよ」
二人の場合人間で言うと19歳。この世界での王貴族の結婚適齢期から考えれば余りものと言われてもおかしくない……。まあ二人は途中から成長が止まるから普通の人間の基準に当て嵌めるのもどうかと思うけど。
「それだと私達が婚期を逃したみたいに聞こえますのでお止めください、お母様」
「そうですよアンヌ。別に私達が悪いわけじゃなく、ただ良い人がいなかっただけですから」
「あなた達の言う良い人っていうのがソウジみたいな人のことを言うのなら、世界中どこを探してもいなかったでしょうね。この子の考え方って物凄く独特だし」
ミナ達がなんか余計な事を話しやがったな。
「特に一夫多妻に対するソウ君の考え方は中々面白かったわね。あんなことを考えられる王貴族なんて他にいないんじゃないかしら」
「……面倒くさいからハッキリ聞くけど、俺がミナとリアの二人を貰っていいのか?」
「もし私達が駄目って言ったらソウジはどうするのかしら?」
もう俺の中ではミナとリアがうちからいなくなるという選択肢はないのでただ一言
「貰ってく」
「じゃあ私達に聞く必要なんてないじゃない。ソウジには誰かに駄目と言われても二人を絶対に貰って行くっていう気持ちも、それが出来るだけの立場も力も持っているのだから一々そんなこと聞かないの」
この国の王妃がそう言うのなら問題ないのだろうということで俺は座っていたソファーから立ち上がり、ミナとリアの手を握った後
「じゃあこの二人は貰ってくからこの国の貴族や国民の説得はよろしく。あと俺の事情で申し訳ないけど結婚はまだ出来ないから婚約で話を進めといて」
「ソウジ様が珍しく積極的で私は嬉しいです♪」
「手を繋いでくださるのも良いですが、私的には腕を組みたいです。その方がよりご主人様を感じられますので♡」
いつもは二人からの方が多いからな。たまにはこうやって自分から動くのも悪くないだろうと思ったのだが、予想以上に喜んでくれてるな。
「ついでにアベルも貰って行く代わりに玄関の扉を少し改造しておくから」
そう言い俺はうちの宮殿の玄関と同じどこで○ドアみたいなやつの説明をし、部屋をあとにした。ちなみにあれを使えるのは俺、ミナ、リア、アベルのみである。当たり前だが勝手にうちに来られても困るからな。……逆は出来るけど。
それから俺達は前回出来なかった荷物の移動をする為にまずはミナの部屋へと来ていた。
「んじゃあ必要な物をどっか一か所にまとめてくれ。ベッドから小物まで何でも持っていくぞ」
「いえ、ベッドはソウジ様に用意してもらった物の方が柔らかくて寝心地が良いですし―――」
最初は俺と話していたはずのミナは、何を持っていくかで頭が一杯になってしまったらしく途中から何を言っているか聞こえなくなってしまった。
そのため暇になった俺は何をしようか考えた結果………ミナのベッドにリアと寝っ転がってイチャイチャすることにした。その為まず俺はリアに腕枕をし、お互いの顔が向き合うように体の向きを変えた。
普段の俺ならこんなことはしないんだけど、さっきの件もあってちょっと気分が高まり気味である。
「んん、っ……。いきなりどうしたんですかご主人様。それもお嬢様のベッドで」
「今まではミナ達の立場とかがあるから我慢してたけど、さっき貰って行くって宣言してきたからな……。ちゅっ、ちゅ……」
俺は軽いキスを繰り返しながらリアの髪の毛を撫でてやると、体がびくっと反応したのでそれを少し続けたあと、自分の手を髪の毛から彼女の腕と脇の間へと滑り込ませた。
自分で際ど目のことをやっておきながら言うのもなんだが、今日はこれ以上する気はないので胸は触らぬよう気を付けながら、今度は少し長めのキスをしてやると
「ぁ、っ……‼ ちゅ、んん……っ、そこは、んふ……。」
「ちゅっ、ちゅ……んむ、んみゅ……っ」
「ごひゅじんしゃま……、みゅね、んっ……ぎいぎい、んむ……、しゃわってくらさらにゃいのは、ちゅっ……、すりゅいへす……」
別に狙ってやったわけではないが胸の近くを触られているせいでリアは切なそうな、でもそれをされながらのキスが気持ちいいという、物欲しさと嬉しさが混ざり合ったような絶妙にエロい顔をしていた。
それを見てもう少しだけ続けようかと思った矢先、どうやらミナにバレてしまったらしく
「ちょっと、二人だけで何してるんですか⁉」
「なんだ、もう終わったのか?」
「『もう終わったのか?』じゃないですよ! これは一体どういうことですか?」
どういうことと言われても、雰囲気というか気分の問題でこうなったわけなので正直に今の俺の気持ちを伝えることにし
「いや……つい? それにリアが荷物を纏めてる間はミナとするつもりだったし?」
最初はリアだけじゃなくミナともイチャイチャしたいっていう気持ちがあったはずなのに、冷静になると自分が最低な男みたいでテンション下がってきたは……。
「それなら許します。正直二人のあんな姿を見せられて、もう我慢出来ませんし……」
「ご主人様。私にしたこと以上のことをお嬢様にするのでしたら、後でちゃんと私にもしてくださいませ」
でも二人は今の説明で納得してるみたいだし、ここで俺が取るべき行動はミナにも同じことをしてやることか。
そう結論を出した俺はリアにした態勢と同じ態勢になったところでさっきまでの悩みなど無かったかのように一瞬で気持ちが切り替わった……。男というのは本当に単純な生き物らしい。