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第36話:少し遅いお昼ごはん

「ソウジ……、ソウジ……。ねえティア、ソウジったら寝ちゃってるわよ」


この声は…セリアか? 浅くだけど寝てたみたいだな。


「次はなんでセリアがいるんだ?」


「あっ、起きた。何でって様子を見に来てあげたからに決まってるじゃない」


「いやお主、エメの目を盗んで仕事を抜け出してきおただけじゃろ。早く戻らぬと怒られるぞ」


一応立場的にはセリアの方がエメさんより上なんだが、そこら辺はお互い上手くやってるっぽい。


「今は買い物に行く準備中だからすぐに戻れば大丈夫よ。それで、あっちの国ではどうだったの? どうせミナ達が上手いことやって自分の両親にソウジを合わせたんでしょ?」


「お前は俺の体調の心配じゃなくそっちを聞くのか」


「別に体調が悪いのは見れば分かることだし、何回も同じことを聞かれるのは嫌でしょ?」


「分かってるじゃねーかセリア。キスしていいから今すぐ仕事に戻れ」


「なんでそうなるのよ! さっきの私の気遣いに対してのご褒美でキスっていうのは分かるけど、まだ私の質問に答えてないじゃない!」


言えるわけないだろ。あっちに着いた瞬間殺されかけたり、国王が滅茶苦茶俺のことを舐めて交渉に臨んできたなんて。それにセリアは元王女とはいえまだ子供。こういう話には当分関わらなくてもいいと俺は思っている。


「これセリア、こやつは今病人なんじゃから大声を出すでない。それに熱が出た原因はミナの父上に会って疲れたからじゃ。これ以上その話をしてやるでない」


「ちょっと、そんなこと言われたら尚更気になるじゃない。もしかして何かされたんじゃないでしょうね。もしそうなら私のソウジを虐めたこと、後悔させに行くわよ」


数時間前に同じことを言ってる奴がいたな。どっちもそれが出来るからシャレにならない。


「別にそういうことはなかったから落ち着け。ただ俺は謁見っていうのが初めてだったから緊張して疲れただけだ」


「そういうことなら仕方ないわね。謁見っていうのは相手にもよるけど、すぐ揚げ足を取ったり、隙を突いてきたりする人もいるから気を抜けないのよね。特に初対面だとお互い探り合いから始まることが多いし」


「まあ今回はミナの親が相手じゃからそこら辺は大丈夫じゃろ。なんなら貴族の相手をする練習と思いながら話すのも良かろう」


確かに練習にはなるかもしれないけど、俺はそこら辺の教養が一切ないから当分は魔法頼りだろうな。もう少ししたら学校も始まるし、出来るだけ貴族様達とは関わりたくない。


「お願いだからもうその話は止めてくれ。……熱が上がる」


「そうね。これ以上はソウジにとってはストレスにしかならないだろうし私はそろそろ行くわ。それじゃあまた後で………ちゅっ♡」


ああ、キスはちゃんとしていくのね。セリアには悪いがキスする時に俺の両頬に触れていた手が冷たくて気持ちよかったっていう感想しか出てこないわ。


「ほれ、雑炊とやらを持ってきてやったから起きるのじゃ」


「お粥じゃないのか?」


何故うちに米があるのかというと……昨日の朝ご飯でパンしかないことに気付き、急いで米と料理本を買ってきたのだ。まあ料理本に関しては一時的って感じだけど。どうせあともう少しすればネットで契約したスマホとタブレットが届くし。


ちなみにタブレットはエメさんとセレスさん用にだ。他の奴らは仕事用に渡してあるパソコンがあるからスマホだけでも大丈夫だろう。それでも欲しいっていうなら後で買うけど。


「エメの奴も最初は料理本を見ながらお粥とやらを作ったのじゃが、子供達に味見させたら不評でのう。そういことで多少無理やりじゃがお粥から雑炊に作り替えたのじゃ」


「なんで俺の味覚基準は子供達と同じってことになってるだよ」


「それじゃあお主はあの塩で味付けしてもThe病人食みたいなお粥とやらを食べたかったのかの?」


「……お粥はあんまり好きじゃないんで助かります」


「うむ、素直でよろしい。ほれ、温かいうちに食べるのじゃ」


そう言いながらティアは茶碗に雑炊を分け、俺に渡してきた。


「…………」


「どうしたのじゃ? 熱が上がって食欲が無くなったかの?」


「いや、どうせお前のことだから……『ほれ、あ~んじゃ』とか言ってくるのかと思って」


「なんじゃして欲しかったのかの? わらわで良いならやってやるぞ」


「体を動かす元気がある時は自分で食った方が楽だからいい。まあ相手にもよるが『あ~ん』されれば基本嫌がらないようにしてるけど」


とか言いつつ『あ~ん』なんてされたのはこの前のリアが初めてだけど。


「ほ~、少しは自分を好いてくれておる女子の扱いが分かってきたようじゃのう。ちなみにわらわはどっちじゃ?」


「ティアは……微妙なところだな。普段のおふざけの流れでならやるかもしれないけど、今日みたいに体調が悪いとかで弱ってる時とかなら遠慮すると思う。間違ってたら悪いっていうか、自信過剰みたいに思われるかもしれないけど、お前は俺のことを恋愛対象として見てないだろ?」


「今のところは恋愛対象といよりは保護者という感じじゃな。別にわらわはミナやセリアと違って限られた選択肢から男を選ぶ必要もないから、今すぐお主と一生を添い遂げると決める必要もなかろう。まあ今後わらわがお主のことを好きになるかどうかも分からんがのう」


そう、あの2人の立場が特殊なだけでティアみたいな考え方をするのが普通なのだ。リアはよく分からんけど。


「俺の中での境界線は元気な時と弱ってる時って感じなんだわ。元気な時は女友達レベルの子が相手なら多少はありだけど、弱ってる時はなしみたいな……」


「普段はふざけておるくせに、たま~に真面目なんじゃよのうお主。まあこの話は一旦止めじゃ。じゃないと雑炊が冷めてしもう」


「んじゃ、いただきます」


これを作ってくれたエメさんはいないが一応そう言い、俺は雑炊を食べ始めた。


「雑炊の方は子供達に好評だったんじゃがどうじゃ?」


「ちょっと味薄い……。エメさんがいないなら醤油持ってきて」


流石に作ってくれた人の前で味を付け足すのは失礼なのでそう言うと


「ん? どれ、わらわにも一口食べさせてみよ」


「ほら、面倒くさいから口開けろ」


「あ~ん、うむんむ……。やはり味付けは丁度良い感じじゃから熱でお主の味覚が狂ってるだけじゃろ。あまり味が濃いのは体に良うない。少しくらい我慢せい」


「はいはい」


「…………」


それからティアは俺に気を使ってか、何も喋らないせいで部屋の中が静かなので


「なあ、何か喋ってよ」


「何かと言われてもの~。聞きたいことは幾つかあるがお主の体調が体調じゃからのう」


「もうそれでいいから喋って」


「………お主、あっちの国でかなりの待遇を受けたようじゃのう。それに対して強引な力技で仕返しをしたようじゃが」


「なんだ知ってたのか……。ミナにでも聞いたのか?」


「うむ。ミナが子供達に適当なお願いをしていなくなったところで情報の共有が行われたのじゃ」


ってことは子供達以外は全員今回の件を知ってるのか。まあうちは人が少ないから全員重要役職に就いてるようなもんだし、別にいいけど。


それに城内にいる人達は全員俺が地球とこっちの世界を行き来できるという国家機密級の秘密を知ってるし今更だろ。


「面白い話だったろ? 危険がないどころか危険しかなかったわ」


「お主の護衛として付いて行かなかったわらわも悪かったが、あれは予想外すぎるわ。普通娘と一緒におる者をいきなり殺しにかかると思わんじゃろ」


「そんなこと言いながら心の中では、『いい経験になったじゃろ』とか思ってんだろ」


「じゃがそれも事実じゃろ? 特に死ぬかもしれないという恐怖感は中々味わえんもんじゃからのう。お主場合、何の経験もせずに強すぎる力を手にしてしまっておるから尚更じゃ。こういうのは1回でも経験しておけば、次同じようなことがあっても案外なんとかなるもんじゃしの」


「そんな簡単なものなのか?」


「人生で初めて経験する死への恐怖というものは、程度は違えど殆どの者が生涯で一番怖かったと言うほどじゃ。やはり何も知らずに経験するのと、そうでないのとでは感じ方が違うのじゃろう」


1回でも経験していれば咄嗟のことでも瞬時に心の準備が出来る……みたいな感じか。


「俺の場合1人対1国だったからな。そう考えればティアの言うことも納得できる」


しかも今回使われた魔法は国家最強クラスのものだ。あんなのに比べれば大概のことは何とかなりそうな気しかしない。


「4人対1国…じゃろ? 今のをミナ達に聞かれておったら間違いなく拗ねられておったぞ」


「……おかわり」


「ほれ。おかわりが出来るということはまだ余裕がありそうじゃな。ついでじゃ、もう少しだけ質問に答えてもらうとするかの」


何となくだけど分かる。こいつにしては珍しく今から真面目な話が始まるぞ。………多分。

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