第25話:二次会 (ソウジ・ティア・アベル)
「まずこれがビールで、これがチューハイ、あと俺は好きじゃないから飲まないけどこっちがウイスキーな。ワインはどれがいいとかよく分からんから今回は買って来てない。ってことで好きなの飲んでいいぞ」
「いや全部知らない酒なんだけど……。説明くらいしろよ」
それもそうか。チューハイは説明出来るけど、ビールとウイスキーってなんて説明すればいいだ? 俺も知らねーぞ。グ○ろ。
「え~と、グ○ってもよく分かんなかったから俺流に説明するとビールは麦で作った酒でチューハイは果実酒みたいなやつ。それとウイスキーは穀物を色々して作った馬鹿アルコールが強い酒。これで分かったか?」
「いやまったく」
「めんどくせーな、もう一通り飲んでみろよ。ティアなんか俺の説明無視して飲んでるぞ」
しかもこいつ俺がスマホで調べてる間にビール1本を一気飲みしてたし。そのうちアル中で倒れるんじゃねーか。
「ぷは~~。このビールというのは苦みがあって独特な味じゃが、わらわは好きじゃな。それにこれを飲んだ時の喉を通る感じが堪らん!」
「見た目は12歳くらいの幼女のくせして言ってることは完全にジジイだなお前」
「なんじゃと⁉ 誰がジジイじゃ! 100歩譲ってババアじゃろ!」
「悪い悪い、ほら次はチューハイでも飲んでろ」
完全に俺が悪かったとはいえ、ちょっとうるさかったのでワザとストロング系チューハイを渡したのは内緒である。
あれって1本飲んだだけで怖いほど酔っぱらうんだよな~。絶対危ないもん入っ……んでもないです。
「ほら、取り敢えずビールでも飲んでみ」
「おっおう。んじゃ一口っ⁉ ――――――――― もう1本‼」
………なんかアル中候補がまた1人増えましたが私は一切悪くありません。悪いのは自分を制御出来なかったこの2人です。
「おいお前ら、酒飲むのはいいけど一気飲みはあんまりするなよ。一気飲みって最初は酔わないけど後から結構くるから最悪死ぬぞ。………よし、注意したぞ‼ 俺は注意したからな! もしリアに怒られても俺のせいにするなよ!」
「何を訳の分からん言い訳をしておるんじゃ? それより何か食べ物はないのかのう。 お主がさっき渡してきたチューハイとやら、これだけでも美味しいのじゃが、少し物足りん気もするのじゃ」
「お前さっきカレー2杯も食ったくせにまだ食うのかよ……。ちょっと待ってろ」
ということでキッチンに移動した俺は、スーパーで買っておいたポテトサラダを皿にあけた後…その上に小さく割ったコンソメポテチを適当に乗せ、最後にタバスコを振りかけた料理名がよく分からないつまみを作ってティアに渡すと
「んっ⁉ 美味い! もしかしてお主は料理を作る天才なのかの?」
「なわけないだろ。こんなもん誰でも作れるし、さっき食ったカレーだってリアとかエメさんが作った方がよっぽど美味いだろうよ。それに俺は簡単な料理しか出来ないから別の地球料理が食いたいならその2人に直接頼んでくれ。あとほら、アベルはこれでも食ってろ」
「なんだこれ?」
「つまみに使ったポテチの余りって言うとなんかあれだけど、元はそのまま食うお菓子だから酒にも合うぞ」
これ以上は食べ過ぎになって後で後悔するやつだから今日はもうお菓子は禁止にしよ。だって今アベルに渡したポテチってパーティーサイズだし。既に夜飯を食ってることを考えると3人で分けても多いくらいだ。
「なあ、少し気になってたんだけどアリス達って年齢の割に少し子供過ぎないか?」
「そういえばお主にはあの者達が孤児院の出ということを言っておらんかったのう。まあそれが原因かどうかは分からんが……。このテキーラというのは香りは良いが、アルコール感が強いのう。じゃがそれが癖になる」
「いや、多分だがそれも原因だろ。俺らはこの国の調査を何回かしてるが、上が上なだけあって孤児院にはあんまり金が回ってなかったみたいだからな。そんな状態じゃ人も雇えないし、食べる物だって少なくなる。寧ろあそこまで健康に育ってるだけラッキーだろ」
なるほど、職員が少なければ子供1人あたりに割ける時間は少なくなる。ということは、父親と母親がいる一般家庭で育った子に比べて心の成長が遅くてもおかしくないか。
「アリス達がいた孤児院は今どうなってるんだ?」
「それならまだあるぞ。坊主がいないうちにアリス・サラ・エレナ・リーザ・マイカの孤児院メンバーとティアを連れて行ってきたし」
「何故わらわが小童に連れて行ってもろうたみたいになっておるんじゃ?」
「あははははは、小童だってよアベル。………ぶっははははは、酔ってるから尚更面白れぇ~」
「だから小童は止めろって言ってるだろうが、ティア‼」
「わらわから見れば250歳など小童以外のなにものでもないじゃろ。それに確か半獣人は人間に置き換えるとまだ25歳くらい……尚更小童じゃな」
いつもアベルには坊主、坊主呼ばれてるからいい気味だ。そのまま小童って呼んでやれティア。
「じゃあなんで坊主のことは名前で呼んでんだよ。こいつもお前から見たら子供だろうが」
「わらわはどこかの小童みたいに自分の主を坊主呼ばわりする男とちごうて、ちゃんと立場をわきまえておるからのう」
「な~にが『立場をわきまえておる』だ。お前初っ端から俺にため口じゃねーか」
「なんじゃ、わらわに敬語を使って欲しかったのかの? しょうがないのう。……んんっ、これは大変失礼致しましたご主人様。今後は気を付けますので、どうかお許しくださいませ」
「ぶっふーーーーー、誰だお前⁉ 気持ち悪いから今すぐ喋り方を戻せ!」
「いえいえ、そうはいきませんご主人様。本来私はご主人様の専属メイド。今までの私の言動はとうの昔に殺されていてもおかしくない程のものばかり、本当に申し訳ありませんでした」
「俺が悪かったから戻してくれ。マジで気持ち悪い」
「ふ~う……。久々に標準語を喋ったが、やはり慣れていないと疲れるのう」
「だったらもう二度するな。ってことで孤児院の話の続きは?」
「ん? ああ、取り敢えずあっちの院長が是非坊主にもお礼を言いたいから暇な時に来てくれって言ってたぞ」
「そうか。別に助けたのは俺じゃなくてティアだけど、この国の孤児院がどんな感じなのかは見ておきたいし…近いうちに行ってくるか」
「それが良かろう。わらわが知っておる限りこの国に孤児院はあそこの一ヶ所だけ。なのに職員が定期的に見回りをして孤児がいれば全員連れて帰っている様じゃから、職員が足りないなどの問題もあるじゃろ」
「へ~、だから保護されていない孤児を探しても見つからなかったのか」
ミナが面接をしている間、別に俺は自分の周りのことだけをしていたわけではない。取り敢えず思いつく限りのことは全て終わらせていたりする。
「問題といえば孤児院もそうだが、そこから引き取ったアリス達にもあるかもしれねえな……反抗期という名の問題が。うちの姫様とリアーヌの2人は酷かった」
「ほ~う、ミナは何となく想像が出来るが、リアーヌはどうだったんじゃ? あやつも確か同い年じゃろ」
「あ~、リアーヌの場合は自分が姫様の専属メイドっていう意識が強かったみたいで表立った反抗期は無かったんだが、思春期はあったな。けどやっぱりこれも自分の立場が足を引っ張ってたみたいで、本当は思春期特有の恥ずかしさとかがあるのに我慢して隠してるのが可愛かったぞ」
「お前性格悪いな……って言いたいところだけど、やっぱり女の子のそういう時期に男が関わるのは逆効果なのか?」
俺にも思春期や反抗期だった時期はあるが親の立場とかでの経験は無いし、ましてや男だからよく分からん。
「そりゃーもう逆効果よ。姫様なんか俺や陛下が話し掛けても基本的には無視するし、注意しようものなら即逆切れ。特にリアーヌなんて八つ当たり出来る相手が俺くらいしかいなかったから、堪ったもんじゃなかった」
「リアーヌはアベルに感謝すべきじゃな。別に子供の頃からメイドとして働いておる者などこの世界では珍しくもないが、そういう大事な時期に八つ当たり出来る相手がおらず1人で我慢しなければいけないということもザラにあるからのう」
「反抗期って突然誰かに当たりたくなるんだよな~。………思春期はティア達女性陣に任せるとして、もしアリス達に反抗期がきた場合どうすっかなぁ」
セリアは最悪俺に八つ当たりしてくるとしても、アリス達の主は俺だからちょっと無理っぽいし。
「あの者達の立場は難しいからのう。やはり適任はアベルじゃなかろうか」
「やっぱそうなるよな~。さっきも父親と子供って感じだったし」
「なっ、なんでこっちを見る。俺は嫌だぞまた無視されたり、『うるせぇジジイ!』とか『気持ち悪いから近づかないでください!』とか言われるのは。あれは分かってても結構傷つくんだからな」
今凄い簡単にミナとリアの当時の状況が想像できたは。そして自分にも覚えがある気がしてきた。
「まあまあ、これも仕事だと思って」
「特に当たりが酷かった日があったり、キツくなったらわらわ達が今日みたいに付きやってやるから頑張るのじゃぞ」
「ちょっ、なんで俺って決定してんだよ! だいたい2人でもキツかったのに、今度は5人とか絶対に無理だって‼」
へ~、反抗期の子供って大人に指図されるとそれがちょっとしたことでもイライラすることがあるんだ。俺にもそんなことあったは。なんか母親に箸出してって言われただけでキレたりしてた記憶があるもん。今思い出すとただただヤベー奴だな。
しかも中学生~高校1年生くらいの間で壁に蹴りをいれて穴を開けたのが2回、ドアを勢いよく開け閉めしてドアストッパーを壊したのが3回だった気がする。
「なあ、今反抗期について調べてたんだけどさ……もしかして一番八つ当たりされるであろう相手って、アベルじゃなくてエメさんなんじゃないか?」
「「………確かに‼」」