第21話:セリアの秘密
先にキッチンへ行かせた子供達のことを思い出した俺はアベルを連れてそちらに向かい
「よ~し、今からみんなで夜ご飯を食べるからその準備をするぞ。ってことでここにある皿とスプーン、それからコップをリビングのテーブルに並べておいてくれ」
「ねえソウジ、みんなの座る場所とかは既に決まっているのかしら?」
「あ~、そういえば決めてなかったな。俺はちょっと用事があるからミナ達と話し合って決めて良いぞ。あっ、でも今日だけでいいから俺の隣はマイカとティアにしてくれ」
「あら? ミナとリアーヌがいながらもう他の女に手を出すの?」
「なわけないだろ。だいたいまだ誰にも手を出してなんかいない」
セリア達もそうだがマイカとティアの2人はまだあまり喋れてないからな。この機会に少し話しておくのが良いだろうと思ったのだ。それに……いくつか気になることもあるし。
「ふ~ん、あなたに何か理由があるのは分かったわ。でも、あの子達をどうやって納得させるつもりなのかしら?」
はあ? なんのこと―――
「お兄ちゃんの隣に座るのは私です!」
「ちがう、ソージ兄はうちの隣なの!」
「いえいえ、ソウジ様の隣には私が座りますので」
「じゃあ私はサキ兄の膝のうえ~」
げっ⁉ いつの間にこんなことに。悪いが俺は子供の喧嘩を止められるほど扱い上手くないぞ。
「セリア、これ何とかしてくんない?」
「そうね~、私のことを抱きしめてくれたら考えなくもないわよ」
「ああ゛? さっきやってやったろ」
「あれは高いたか~いでしょ? 今度はぎゅ~ってしてほしいの」
なんだその表現の仕方は。ちょっと分かりやすいのが腹立つな。
「そんなことしたら間違いなくセリアだけじゃ済まないだろうが。却下だ却下」
「あら、それならさっきの話はなしね」
クッソー、こいつ本当に14歳か? こんな14歳普通いないだろ。実はどこかの貴族の娘とか言われても普通に信じるぞ。
「分かった分かった。すればいいんだろ? すれば。アベル、何とかしてあの子達の気をそらし……って、なんか子供達と仲良くしてるし⁉」
「あら、気付いてなかったの? アベルならあなたが私に助けを求めてきたあたりで仲裁に入っていったわよ」
「マジかよ。にしてもあいつ子供の扱い上手いな」
「そうね。どこかの陛下とは比べ物にならない程に」
「うるせぇ。……ん? もしかしてこのままアベルに任せておけばセリアに頼まなくても良いんじゃね?」
俺の言葉を聞いたセリアは、『しまった』みたいな顔をしたかと思えばすぐに何かを思いついたようで
「そういうこと言っちゃうのねソウジってば。……いいわよ別に。どうせソウジはアベルとこの後どこかに行くんでしょ? ならその時にもう一度席決めの話を出すだけだから」
「おまっ⁉ アベルの苦労を水の泡にする気か?」
「あなたはそうやって他人を利用するのね。汚い王様だこと」
あ~もう! ホント良いキャラしてるなこいつ。俺は嫌いじゃないぞ。でもロリコンではないぞ。
「………あら? ここはどこかしら。見たことがないデザインの部屋ね」
「俺がいきなり転移魔法を使っても驚かないとは肝が据わってることで」
「私は結構魔法が得意なのよ。だからソウジが転移魔法を使うことはあらかじめ気付いていたの」
なるほど、セリアはリアーヌさんと同じタイプか。ちょっと聞きたいことがいくつかあるが今は交渉を優先するか。
「よっこいしょっと……。この部屋は和室っていって、俺がいた国の伝統的な家屋だ。床に敷いてあるのが畳で、この白いのが障子。そして障子を横にスライドさせると……日本庭園が眺められる。他の部屋や庭と違って良いだろ?」
「そうね。なんだかこの部屋は良い匂いがするし、ここにいるだけで落ち着く感じがするから気に入ったわ。それに日本庭園というのも綺麗だし。……た・だ! 女の子を持ち上げる時に『よっこいしょっ』はないんじゃないかしら?」
「悪い悪い。今度から気を付けるからその~、胸を……な?」
「ん~? 私の胸がどうかしたのかしら」
こいつ、自分の体形を完全に理解してやがるな。身長は約120㎝と同い年のアリス達に比べて30㎝以上小さいくせして、胸だけはやたらとデカい。いわゆるロリ巨乳というやつだ。
「は~、俺をからかうならもう下ろすぞ」
「それは駄目!」
「なら少し離れろ。セリアはまだ子供とはいえ女の子なんだから少しは気を付けろ」
「失礼ね。ソウジの世界ではどうか知らないけど、この世界では14歳頃から貴族の子供なら結婚するし子供を作ることだって珍しい話ではないのよ。それに私はギュ~ってしてってお願いしたじゃない。むしろもう少し強く抱きしめて欲しいくらいだわ」
何となく察してはいたが、やっぱり14歳くらいなら普通に性行為もするってことか。じゃなきゃ俺が牢獄にぶち込んだ前国王がセリア達を自分の城に連れ込むわけがないしな。
「ほら、これでいいか? あと好きじゃない男にはこんなこと絶対するなよ」
「ふふっ。そんなこと言いながら私のことをギュ~してくれるなんて、そんなに自分に自信があるのかしら?」
「なんだ? お前は誰にでも自分の胸を押し付けるようなビッチだったのか?」
「そんなわけないでしょ。私が抱き着く男はこれまでも、これからも……ソウジだけよ」
絶対なにかあるぞこの子。……本当はここで無視するのが良いんだろうけど、どうせ面接の時にミナが全部聞き出してるはずだし、ちょっと探ってみるか。
「それは嬉しいけど『これまでも』、は盛りすぎじゃないか? 普通父親に抱っこされたりするだろ」
「ないわよ。少なくとも私の記憶にはね」
「………………」
「どうせミナとリアーヌ、アベル、ティア、それにセレスとエメは知っていることだからソウジにも教えておいてくわ。………私はあなたが乗っ取ったこの国の前国王の一人娘よ」
ミナの奴、そういう重要なことは先に言えよ‼ プレゼントよりこっちの方が大事だろうが!
「ああ、ミナ達を攻めないであげてね。このことは私が直接ソウジに伝えるから黙っておいてって頼んだの」
「そういうことなら何も言わないけど」
「ええ、お願いね。………それで、この話を聞いてみてどう? 私のこと嫌いになったかしら?」
「………割と初めの方からセリアは貴族っぽいとは思ってたけど、前国王の娘とは。正直に言えば驚いた…くらい?」
そもそも俺の選別魔法にも、ミナの面接にも引っかかっていない時点で悪い奴でないことは分かってるしなぁ。
「そう、ならいいわ」
「随分すんなりと納得するんだな。拍子抜けだわ」
「私のことをギュ~っとしたままのクセして何言ってるのよ。これで私のことが嫌いとか言われても信憑性に欠けるわよ」
「確かに……。それで、この世界でセリアのことを知ってる人間はどれくらいいるんだ?」
これは冗談抜きでセリアにとって一番重要なことである。もしこの国の人達がセリアの存在を知っていた場合、間違いなく暴動が起きるし他国からは何を言われるか分からない。
『何故、前国王の娘が普通に生活しているのか』っと。その為普通に殺そうとしてくる奴もいるだろう。
「幸か不幸かあの男は私を滅多に外には出させなかったから、私の存在は有名でも私自身の顔を知ってる人間はさっき言った6人、後はマイカが何となく事情を知っているってところね」
「セリアを外に出させなかった理由は?」
「前国王はきっとこう考えたのでしょうね。『1人目の子供は男ではなく女だったか。だがこれはこれで利用価値がある。幼少期からあらゆる面で英才教育を施し、完璧な淑女を育ててしまえばいい。その為にはこいつ1人に集中するべきか……』っと。そうして大事に大事に育てられたのがこの私。あとは分かるでしょ?」
そこまでして大事に育ててきた自分の子供を城の外に出させて人質にでも取られたらたまったもんじゃない……か。
「前国王は随分と上手いこと考えたな。ぶっちゃけ容姿は生まれつきだからある程度成長するまでは分からないが身長以外は完璧になったし、セリアにのみ集中することによって1人のハイスペック人間が確実に出来上がると」
「そう。だから私の素性を知る人間はただでさえ限られていたのに、誰かのおかげで更に減ったってわけ。そんなことよりソウジは今の私の身長に不満なのかしら?」
「別にそういうわけじゃないけど。まあこれ以上身長が伸びれば抱っこはちょっと厳しくなりそうだな」
セリアと同年代のアリス達を抱っこしようとすれば正面からじゃなく、お姫様抱っこじゃなきゃ無理である。前者が出来るのはセリアかティアだけだ。
「それは嫌だわ。どうにかならないかしら?」
「………………」