第215話:かさなる面影
特に怪しまれることもなく、各々が出された食事に手を付け始めてから数分が経った頃。一人の団員は口に入れていた冷やしうどんを飲み込んでから
『別に文句とかって訳じゃないけどさ、やっぱり俺は冷やしうどんよりも温かいうどんの方が好きだな』
その一言を聞いた瞬間、それを作った張本人的には我慢ならなかったのであろう。
ティアがブチキレて開催した模擬戦見学会終了後の時と同等か、それ以上の怒りをあらわにしたアベルは黙ってどこかへ行こうとしたため、思いっきり後ろから服の襟を引っ張ってやり
「ちゃんと最後まで見ろ馬鹿が。どうやらお前と違ってあいつらはちゃんと教養があるらしいぞ」
『分かる~。冷やしうどんの方が作るのが大変だっていうのは理解してるから言いにくいけど、俺も温うどん派だわ。でも今日みたいに暑い中仕事をしたような日は食欲が湧かなかったりするから、こういう風に献立を工夫してくれると本当にありがたいよな』
『しかも今日のおかずはお稲荷さんだけじゃなく、そんな日でも食欲をそそるキャベツと豚肉のにんにく醤油炒め付きとかボリューム面・栄養面ともに完璧。ここまでしっかりした夕飯を出されちゃ、次の当番の時は俺達も頑張らなきゃいけないな』
その後もあちらではご飯談義が和気あいあい行われているが、一旦それは置いておくことにした俺は自分の右手で掴んでいた服の襟を乱暴に放してやり
「お前と違って料理を作ることの大変さへの理解度、それを作ってくれた人に対する感謝の気持ち、それに報いる姿勢。お前にはないものばっかりだな」
「………………」
「ここまでしてやっても何かしらの行動をしよとしないとか……。もう一回言うぞ。そんなんだからエメさんに怒られるんだよ、ば~か」
「………………」
「チッ、ああーーーもうっ! その自分が全面的に悪かったことは理解しているものの、どうすればいいのかが分からない。みたいな感じでウジウジしているところといい、好き勝手に言われっぱなしなせいで内心かなりイラついているはずなのにそうやって大人ぶって何も言い返してこないところといい、本当ウチの父親にそっくりだな、おい。なんでこいう奴らって自分から何が何でも挽回しようって気持ちにならねえのかな? 分からないなら、分からないなりに。答えの導き方を間違えたなら、次は別の方法で。死に物狂いで探し出すくらいしろよ。それくらいできなきゃ、いくらエメさんが良い人とはいえ将来絶対に上手くいかないからな。今のお前にそっくりな一人の男がそうやって何年、何十年と同じ過ちを繰り返していく過程を、その結果をこの目で見続けてきた俺が言ってんだぞ!」
「………………」
「もう分かった‼ お前がそう言う態度ならもういい。今すぐこの国から出て行け‼ 金輪際ヴァイスシュタイン王国の地に足を踏み入れるな。エメさんに近付くことはおろか、二度と関わろうとするな。お前がこのままエメさんと結婚して、その後俺と同じ苦しみを味わう子供が生まれでもしたら堪ったもんじゃねえ‼ 分かったら今すぐこの国から出て―――」
もう少しで言い切るというところで突如、椅子の上に立った状態で声を荒げている俺と、その目の前でただジッと黙り続けている朴念仁アベルの間に割って入ってきたリーダー。
そして『まあまあ一旦落ち着いて』といったようなジェスチャーを俺に向かって行いながら
「まあまあ、落ち着いてください陛下。一旦落ち着く意味合いも含めて、よろしければ私に事の次第を教えていただけませんか?」
いくら疾うの昔に我慢の限界を超えていての今とはいえ、無関係の人にまで八つ当たりするほど子供ではない俺は、彼の後ろで若干とはいえ安堵の表情を浮かべている馬鹿に向かって殺意のこもったガンを飛ばした。
その後リーダーに促される形で再び椅子へと座り直した俺は、
・アベルとエメさんが付き合っていること
・昼食で出てきたメニューに文句を言ったこと
・それでエメさんを怒らせたこと
・取り敢えず子供達はユリーに預けてきたこと
などここに至るまでの一連の出来事を説明すること約15分。




