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第214話:似ている男と知らない男性

普段であれば騎士団員の寮と警備室の距離など大したことないのだが、今の俺にとってはそれすらもがかなりの重労働。


それに加えて先程までのドタバタ騒動とくれば、疲労がピークに達しているどころか限界を超え始めようとしているのだが、そんなこと気付くはずもないアベルからは人の歩幅に合わせる以外の気遣いが一切感じられない。


いったいコイツは人のことを何だと思ってやがるんだ?


「そんなんだからエメさんに愛想を尽かされるんだよ。このままお前に子供ができたら、きっとその子供は俺と同じく父親嫌いの子に育つだろうな」


「はぁ⁉ 寮を出てからここまで一言も喋らなかったかと思えば、今度はいきなりなんてこと言いやがんだよ。第一俺はまだエメに愛想を尽かされたわけじゃないっつうの」


「ふんっ、どこの世界でもそう思っているのは本人だけってのがお決まりなんだぞ」


「だから、俺はまだ違うっつうの!」


口では強がっているものの、流石のアベルでもここまでくれば少しくらいは心当たりでも思い浮かび始めたのか、若干焦りの感情が見て取れる。


しかしそれを無視して俺は独り言を続ける。


「男はいつも通り仕事から帰ってきたら、普段は明かりが付いているはずの家の中が真っ暗…それどころか人の気配すらせず」


「ん? 今度は何の話だよ。ホラーか?」


「照明をつけて一番最初に目に入ってきたものといえば、リビングのテーブルの上に置いてあった妻の欄が記入済みの離婚届けが一枚のみ」


「………ホラー、だよな?」


「そこから慌てて周りを見渡せば、今朝まではあった彼女の私物は忽然と消えており、残っている物は全て自分が買ったものだけ。そこでようやくアベル・アベラールは気付く」


「………………」


「ああ、俺は彼女に見捨てられたのだと。人間不思議なもので、本当に取り返しがつかない過ちというものは、全てを失ってから初めて気が付くのもである。by.未来のアベルより」


「えっ、あの一応聞くけどよぉ、いくら坊主でも未来視なんてぶっ飛んだ魔法は使えないよな? 現代地球の科学力を駆使しても無理だよな?」


「お前のその未来でエメさんと結婚していることに関しては一切の疑いを持っていない、謎の自信が羨ましいわ。是非それが近い将来、現実となるよう精々足りない頭でも使って頑張ってくれ」


そう言ったところで丁度目的地である警備室へと着いた俺は中で仕事をしているであろうリーダーに対して、『お疲れ様です』と言葉を掛けながら扉を開けた。


すると当たり前のことながら『何故、陛下がこの時間に?』みたいな表情を浮かべながらも、その場に立ち上がり同じく挨拶を返してきた。


当たり前のことながら警備室は365日、24時間体制で稼働中のため4~5人を1グループとし、8時間交代制で仕事を回している。


しかし今は夕ご飯の時間ということでリーダー以外の団員は一時的に全員寮へと戻っているため、今は彼一人である。


ちなみに今夕ご飯を食べに戻っているメンバーは残り一時間働いてもらうのに対し、リーダーはその分を就業時間とカウントすることで、入れ替わる形で退勤となるようにスケジュールが組まれている。


理由としては現状リーダー以外のメンバーは全員寮暮らしなのに対し、彼は自宅通いのため。


また本人から、できる限り夕食の時間は家族と一緒に過ごしたいという要望があったからである。


「お仕事中申し訳ありませんが、邪魔はしませんのでちょっとそこの空いてるPCと椅子を借りますね」


「それは全然構わないのですが……陛下、なんだか疲れてらっしゃいませんか? よろしければこのはちみつレモンスカッシュをどうぞ」


アベルはもとより先程の6人とは違い、瞬時にこちらの状況に気が付いてくれただけでなく、この完璧で素早い気遣い。


しかも俺が子供の姿で突如現れたにもかかわらず、一番に掛けてきた言葉が心配のそれとは、流石は大人の男性と言ったところであろうか。


きっとこういう人がセレスさんのようなカッコいい大人になるのであろう。


そんなことを考えながらお礼を伝えた俺は、そのままグラスに刺さっているストローへと口を付けた。


そして数口ほど飲んでから


「はーぁ、やっと休めた気がするわー。このレモンスカッシュって、もしかしなくてもリーダーが作ってたりします?」


そう質問をしながら目の前にあるPCを操作する俺に対し、どこか柔らかな声色で


「元々は子供達の為に作っていたものだったのですが、一度それをここのメンバーにも出してあげたら思いのほか好評でして。それ以降はこうして定期的に作り置きしているっといっいた感じですね」


「だってさ? お前も少しは何でもかんでもやってもらって当たり前じゃなく、少しは見習ったらどうなんだ?」


「………………」


「おっ、繋がった繋がった。まあ、取り敢えずこの映像でも見ながら、自分なりに何が悪かったのか考えてみろよ」


「これは、ウチの男子寮の食堂の映像ですか?」


「ええ、そこのリアルタイム映像ですね。ちなみにカメラは俺がさっきこっそり仕掛けてきた物なので、誰もこれの存在には気付いてないはずですよ」


「ということは私達の知らない、普段の彼らの顔が見られるかもしれないということですか」


「普段であればこんな犯罪まがいな事は絶対にしないんですけど、今回は底なしの馬鹿が身内にいたものでして。片棒を担がせるようで申し訳ないのですが、このことはご内密にお願いします」


「ははっ、普段陛下からお願いされる口止めに比べればこんなもの可愛いものですよ」


それもそうだ。


なんてことを思っていると、あちら側では夕食の準備及び該当者の集合が完了したらしく、特に怪しまれることもなくいつも通りの時間が始まった。


ちなみに今回の協力者である6人には俺やアベルが関わっていることは絶対に口外するなと言ってある。


その為、他の者は全員今日の夕食は当番の奴らが準備したと思い込んでいるはずだし、今のところ違和感を感じている者は一人もいない。

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