表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
215/225

第211話:アベル・アベラールは分からない(下)

普通ここまで好き勝手に言われもすれば、どんなに自分が間違っていたとしても一言くらいは言い返してきてもいいようなものだが、そこは腐っても本物の貴族様。


俺みたいな庶民のガキとは違い、何も考えずに食って掛かってかかるなんて野蛮な行為はせず、何とか自分の中でその怒りを消化しようとでもしているのだろか。


何も喋ろうとしないアベル。


そんな絶賛葛藤中の兄貴のことを更に煽るかのように、いきなり俺の頭を撫で始めたリーナ姉はそのまま続けて


「前々から思っていましたれけど、本当シーちゃんって私達の仕事に対して理解がありますよね。別に今の旦那様や奥様方に文句があるとかそういう訳ではないんだけれど、まるで私達のメイド長みたい」


褒められて悪い気はしないけど、実際はそんなご大層なものではないのが事実だったりするんだよなぁ。


「………その昔、うちの母親が『今日の夜ご飯何にしよう?』という発言に対して


父親が面白いと思って『お得意の弁当(スーパーに売ってるやつ)ですか』


と返してガチギレ&かなりの期間ガン無視&俺達兄妹を連れて実家に帰ったことがある。


なんてことが日常茶飯事だった環境下で育ったが故に、リーナ姉達の気持ちがある程度分かるだけのガキと、超一流の大人を一緒にするな。いくら比べる相手が自分の母親とはいえ失礼にも程があるだろ」


「え~、私は全然そんなことないと思うけれどなぁ。少なくともああやって、いつまでも黙っていることが大人な対応だと勘違いしている馬鹿なお兄ちゃんよりは立派だと思いますよ?」


そんなリーナ姉の挑発に対しても一切乗ってこなくなったアベルを見て俺は心の中で


ふんっ、本当ウチのクソ親父と何もかもがそっくりだなコイツは。


それとも世の男ってのはこういう奴がほとんどだったりするのか?


なんてことを思いながら


「おいアベル、今からお前の心の内を言い当ててやろうか?」


「………………」


「『さっきのエメがそうだったように、どうせお前らにも何を言ったところで無駄なんだから、俺が黙ってお前らの気が済むまで我慢してればいいんだろ?』 とか思ってるだろ。そんなんじゃ、そのうちアリス達にもエメさんと同じような理由で怒られるぞお前」


「………………」


「(シーちゃんがここまで言ってくれてるのにまだ黙ってるとか、本当に呆れる。まるで昔のパパがママに怒られているところを見ているみたい)」


すぐ後ろでリーナ姉が何か独り言を言っているようだが、声が小さくて聞こえなかったためそれを一旦無視することにした俺は


『次、喋らなかったら問答無用でぶん殴るからな』


と前置きをしてから


「もう面倒くさいから教えてやるけどな、まずお前がエメさんに怒られた理由その1。


お前が料理をすることの大変さを一切知らないが故に、軽率な発言をエメさん達に向かってしてしまったため。


馬鹿アベルがエメさんに怒られた理由その2。


自分の何が悪かったのかを理解していないにもかかわらず、口だけの謝罪を繰り返していたため。


ボケアベルがエメさんに怒られた理由その3。


挙句の果てには自分が原因であることを棚に上げ、何か言いたいことがあるならしっかり言葉にして言えよ。こっちは言われなきゃ分かんねんだよ。みたいな態度で喧嘩をヒートアップさせていったから。


そりゃー、こんだけのことをすれば誰だって口を利いてくれなくもなるわな」


他にも言いたいことは山ほどあるのだが、それを全部言ってしまえば別の言い合いが始まることは嫌という程この目で見てきているため、エメさんに関する部分のみをピックアップして答えを教えてやると


「――――――んだよ?」


実に面白くない・納得いかないという感情が込められた声で何かを言い返してきたが、顔が下を向いていたのに加え声が小さかったせいでよく聞こえなかったため


「あん?」


と聞き返すと、今度は自身の中にある怒りを一切隠すことなくそのままの勢いで


「じゃあ、どうしろってんだよ⁉ こちとら師匠や坊主みたいに魔法で相手の心を読めるわけでもなければ、全知全能の神でもねえつうんだよ‼」


こちらへとぶつけてきたが、こっちからしてみればお門違いもいいところ。


現にリーナ姉に関してはとうとう呆れを通り越して、


「ごめんねシーちゃん、こんな馬鹿に付き合わせちゃって。もうこんな人放って置いて私のお家に行こっか」


このように俺を連れてここから出て行こうとしている始末。


正直な気持ちそうしたいのは山々なのだが、それではこの先破滅の一途を辿ることは火を見るよりも明らか。


俺は兎も角、子供達にこれ以上悪影響を与えられては堪ったものではないため、悪いとは思いつつも手を引いてくるリーナ姉のそれを振りほどき


「悪いリーナ姉、もうちょっとだけこの馬鹿に付き合ってくるわ」


そう言うと同時に、こっそり盗み取っておいた彼女の魔力を使って俺とアベルはヴァイスシュタインにある男子寮へと転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ