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第210話:アベル・アベラールは分からない(中)

ミナ達の時もそうだが基本自分が主導権を握っている状況であればなんの問題もないものの、それが逆ともなると話が変わってくるという現象は未だに直っていない…というよりかは慣れないと言った方が正しいだろうか。


………まあ、カッコつけずに正直に言うと先ほどのリーナ姉による仕返しがかなり効いた…もとい恥ずかしかったのだ。


しかしそんな感情も今日に限っては長くは持たなかった。


「―――その結果、エメと言い争いになった挙句今度は口を利いてくれなくなったからお前に助けを求めに来たって訳だ。どうだ、分かったか?」


理由は簡単。


目の前にいる男の話があまりにも馬鹿げていたからだ。


「………リーナ姉、姉ちゃんの兄貴っていったいどこまで行けば馬鹿さの底が見えるんだ? あれか、これが俗に言う底なしの馬鹿ってやつか?」


「やめてシーちゃん。これ以上うちのお兄ちゃんの馬鹿さ加減には触れないで。じゃないと私、あまりの恥ずかしさで外を出歩けなくなっちゃう」


「はあ⁉ おい、人が真剣に相談してるっていうのに話が終わった途端馬鹿だの、恥ずかしいだのって、何なんだよお前ら‼ いくら身内とはいえ失礼にも程があんだろうが‼」


「まだ5月下旬とはいえ、今日は季節外れの暑さだからと気を利かせてお昼ご飯に冷やしうどんを作ってくれたエメさんに対して


『俺、今日は温うどんの方がよかったなぁ』


とかふざけたことを抜かした奴が何言ってんだ? 失礼なのはどう考えてもお前の方だろうが」


あのエメさんのことだ。


実物を見たわけではないが少なくとも一般家庭で出てくるような、ちょっと具材がのっているシンプルな冷やしうどんなんかではないであろう。


味、食感、栄養、見た目、その他諸々。


いつも通りどれをとっても文句のつけようがない程までに完璧な昼食であったはずだ。


「しかもよりによって冷やしうどんを作ってもらっておいて、温うどんがよかったとか。俺なら口が裂けても言えないぞ?」


「口ではそんなことを言いつつも、坊主だってうどんや蕎麦は冷やしより温派だろうが。だいたい普段から一人だけ特別扱いされてる奴にそんな上からどうこう言われたくないっつうの」


恐らくアベルが今言った特別扱いというのは、朝ご飯もしくはお昼ご飯がパンを主食としたメニューであった場合俺だけその部分が別のものを出してもらっていることを言っているのであろう。


「確かにお前の言う通り俺はうどんや蕎麦は温派だし、それ以外の料理でも基本その好みは変わらない。加えて自分だけ特別扱いされていることも認めるけどな、少なくとも俺は例えどんなに嫌いな食べ物が出てきたとしても誰かに作ってもらった料理である以上残すことはおろか、文句なんて絶対に言わないからな」


なんてカッコつけたこと言っておいてなんだが、小さい頃から好き嫌いせず出されたものは黙って食べろと育てられてきたおかげで嫌いな食べ物といえばパン・アドカボ・いくら・筋子・ウニ・メロンの5個くらいなもの。


それに加えて見ての通りその6個の中で日常的に食べるものといえばパンくらいなもののため、そんなことが起きることはまずない。


「………………」


ちなみにここまでの話はアベルも知っている事実であるだけでなく、コイツなら本当に文句一つ言わず黙って食ってそうだとでも考えているのであろう。


実に面白くなさそうな表情を浮かべながら黙り込んでしまった。


つまり未だにコイツはエメさんに怒られた理由が何一つ分かっていないということである。


同じ結論に至ったのであろうリーナ姉からは『もうコイツ駄目だわ』という呆れの感情が伝わってきたが、俺はこれしきのことではお驚きも呆れもしない。


何故ならばあまりの馬鹿さもとい、目の前の男と同じような過ちを何度も繰り返し…これまた同じくその度に大喧嘩を繰り広げていた男を俺は20年以上前から知っているからだ。


「そんなんだからエメさんに怒られるんだよ、ば~か」


とはいえ口に出して言いたいものは言いたいということでそう発言したところ、再びアベルが食って掛かろうとしてきたためそれよりも先に


「まず大前提としてだ!」


「―――――ッ⁉」


「エメさんにとっての主は俺であってお前じゃないし、ましてやあの城内ではメイドも主も、貴族も庶民も関係ないって一番最初に言ったよな?」


「………………」


「つまりウチで暮らしている以上、お前には誰かにしてもらったことに対して文句を言う資格なんて微塵もないんだよ。それを抜きにしたって作ってもらった料理に対して文句を言う、本来の食べ方とは違う食べ方をする、自己流で調味料を追加するといった行為は失礼にもほどがあるってもんだ」


「………………」


「まあお前ら貴族と一般家庭で育った俺とでは何もかもが違い過ぎるからあれだけど、少なくとも俺は小さい頃からそう言われて育ってきたし、それが正しいと思っている以上このルールはウチでも適用される。ってことでそれが嫌なら今すぐ出て行け」


「………………」

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