表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の元一般人 ~どん底の天才、異世界で一発逆転を狙う~  作者: ITIRiN
第十五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

212/225

第208話:悪の魔王と正義の味方(下)

「って、あれ⁉ いつの間にかシーちゃんが私の腕の中からいなくなってる!」


「何してんだ馬鹿イリーナ! 今の坊主をみすみす野放しにしたなんてことを姫様達にバレたら怒られるどころじゃ済まねえぞ‼」


恐らくこの時点ではまだ俺がどこにいるのかを二人は把握できていないのであろう。


それもそのはず。


リーナ姉から盗み取った魔力を使ってアベルの背後に転移した後、ここまでずっと息を潜めて隠れていたのだから。


ちなみに『隠れていたのだから』と過去形なのは


「お兄ちゃん後ろ‼」


それを止めアベルの両目を自身の左手で覆いながら、刀の形から短剣へと変形させたムラサメを奴の首筋へと持っていっているからだ。


「心配すんな。今俺がボコボコにしたいのはお前だけであって、他の奴らなんてどうでもいいんだからよ」


人は情報の80%を視界から得ていると言われている。


またどんな強者であってもそれを封じられた状態で命の危機に晒されれば、よっぽどイカレタ人間以外は必ず恐怖の感情を―――


「おい、坊主。まさかとは思うけれど、こんなことで俺がお前に恐怖心を抱くとでも思ってるんじゃないだろうな?」


「――――――ッ⁉」


「さっきも少し言ったけれど相手が正義の味方ならまだしも、正義の味方気分でいる以上ちっとも怖くねんだよ。ば~か」


「チッ‼」


「あとイリーナ、お前はいつまでもワザとらしい演技なんてしてないでさっさと手前の弟を大人しくさせろ」


「えー、こうやってシーちゃんの成長を間近で見れる機会なんて早々ないのに……。まあ、可愛い弟の手癖の悪さを手放しに褒めてるようじゃお姉ちゃん失格だし。そろそろお説教の時間にしよっか、シーちゃん?」


声も表情もオーラもその他諸々も一部を除いて、何もかもがいつも通りのリーナ姉。


ただ一つ違うことといえば


「これは脅しでも何でもなく、確実にやり遂げるという気持ちが感じられる。もっと簡単に言うと私が『本気』だと分かる。とか考えてます、シーちゃん?」


はぁっ⁉ 今俺はどうなっている?


というかどのくらいの間気を失っていた?


「―――、―――、―――ん」


いや、俺の頭の中にある最後の記憶と今の発言は完全に繋がっていると考えて問題ないはずだ。


となると一瞬たりとも気を失っていない?


じゃあ今感じているこの時間差の正体はいったいなんだって言うんだ⁉


「―――、―――ん、――ゃん」


この数か月の間、俺は自他ともに認めるレベルでの超非人道的な模擬戦を数多なんて言葉では生温いほどこなしてきた。


しかし今日まで一度たりともこんな感覚に陥ったことはない。


つまり今の俺は完全に未知の領域に引きずり込まれた状態であるということであり、まるで蟻地獄の中にでも突き落とされたかのような気分である。


そんな何もかもが理解不能な状態も長くは続かなかった。


否、強制的に現実へと引き戻されたと言った方が正しいだろう。


何がどうなったのかは全く分からないが、気が付いた時にはこちらと目線を合わせるために腰を屈めているリーナ姉の姿が目の前にあった。


「あっ、やっと戻ってきた。まったく~、お姉ちゃんが怒ってる最中に考え事をしちゃ駄目でしょうが」


「………………」


「って、これじゃあまた同じことの繰り返しになりそうだね。お兄ちゃん、そこに私のスマホが置いてあるからちょっと取って」


一先ず正気? に戻ることはできたものの未だに何が何だか分からないせいで頭が混乱していることなどお構いなしに、リーナ姉はアベルから受け取ったスマホをそのままこちらに向けてきたかと思えば


今度はそれの画面をこちらに見せてき


「まず初めに、今シーちゃんはこんな風に私の重力魔法で壁に押し付けた後そのまま念のため魔力をひも状にしたもので拘束させてもらっています。理由は流石に説明しなくても大丈夫だよね?」


「………………」


拘束? いつ、どのタイミングでやられた?


あのティアの攻撃ですら目では追えないくとも感覚的に認識することができるこの俺が、全く気付くことができなかっただと?


「ということで次はシーちゃんが一番気になっていたであろう、悪の魔王と正義の味方の違いについての説明をするね」


「………………」


何だこの体内時間を歪められたかのような気持ち悪さは。


確かに俺はそれの意味が分からず、色々あって今から数分前に暴れ出したことを明確に覚えている。


覚えているにもかかわらず、まるでそれは何日も前のことかのように感じる。


「まず悪の魔王っていうのは恐怖で人々を従えるのに対して、正義の味方は自分が悪だと思った相手は例え誰であろうと・その人にどんな事情があろうともなんの躊躇もなく殺します。何故かというと」


「………正義とは悪を倒してこそ存在するものだから」


未だに頭の中はぐちゃぐちゃだし、今にも吐き出しそうなほど気持ち悪い。


にも関わらず俺の口は条件反射だったのか、それとも無意識のうちになのかは分からないが勝手に動いていた。


「おお~、流石は私の自慢の弟。大正解~、よく言えました~。よしよ~し♡」


¨こちらの発言がどんなに非人道的なものであったとしても、それが正しかったのであればしっかりと心の底から褒めてくれる¨


「つまり最初からお兄ちゃんのことを殺す気は微塵もなく、己との力の差を見せつけてどうにかしようとしていたシーちゃんは、ただただ恐怖心で民衆を従える悪の魔王様だったってわけ。以上、今回のお説教&解説でした♪」


「………………」


¨どこにでもいる優しくて、思いやりのあるお姉ちゃん¨


「―――ちなみに私はシーちゃんが間に入ってくれなかったら、本気でお兄ちゃんのことを殺すつもりだったよ?」


¨ただ少し、白崎宗司という一人の人間が20数年間生きてきた世界とは違った環境下で人生を歩んできただけの女の子¨






said:おまけ


「やり過ぎだバカ妹。いくらタイミングが良かったからとはいえ、どう考えても今の坊主には早すぎる話だっただろうが。見ろ、可哀そうに……頭も心もボロボロになっちまったせいでこれじゃあ完全に廃人だぜ」


自分で彼のことを追い詰めておいてなんだが、生気がなくなった小さな子供が壁に拘束されたままのこの状況を見ているのはかなりつらいものがある。


ということで私はそんな糸の切れた操り人形さながらな弟を優しく抱きかかえ、魔法で記憶を書き換えるのと同時に家族としての愛情を注いであげながら


「エメ先輩と何があったのかは知らないけれど、元を辿れば全部お兄ちゃんが悪いんじゃん。それなのに、なに善人ぶってるのさ。やっぱりシーちゃんが止めに入ってくれる前に殺しておけばよかった」


「いや、ずっと言わないように我慢してたけどさ! そんな簡単に自分の兄のことを殺そうとしないでくれる⁉ お前冗談抜きで、俺がここに来てからずっといつでも殺せるように気を張ってたろ。何なら今も息の根を止めようとしてるよな?」


「私の大切な弟を傷付けたんだからそれくらい当たり前でしょ? まだ生きてるだけありがたく思ってよね」


「あーあ、お前らの間に何があったのかは知らねえし、特別詮索するつもりもないけどよ……イリーナだけがソウジにとっての正義の味方じゃないってことだけは忘れるなよ。なんたってコイツは人気者だからな、特に年頃の女に」


「ふん、自分の彼女さんのご機嫌取りすらまともにできないような人に心配されるほど私はヤワじゃないので。どうぞお気遣いなく」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ