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第207話:悪の魔王と正義の味方(上)

きっと有言実行とはこういうことを言うのであろう。


確かに言葉の最後リーナ姉はアベルの見ている前で俺の耳にキスをしてきた。


しかしその直後、リーナ姉からアベルに対して何らかの魔法を使う気配が感じられ……今はというと


「それで結局俺を探していた理由は何なんだよ?」


御覧の通り何事もなかったかのようにアベルの話を聞いている状態である。


「その前にだ。さっきチラッと予定通り13時過ぎに一回家に帰ってきたどころか、リビングに顔を出したって言ってたけどよ…いったいお前はどこまで知ってるんだ?」


「どこまでって言われても、俺が知ってることといえば二人の喧嘩に圧倒された子供達が玄関前でずっと俺の帰りを待っていたことと……あとは、ウチの両親が喧嘩する度に聞こえてくる怒鳴り合いとよく似たそれを久しぶりに聞かされ、見せられたってことくらいだな」


「ちょっ、お兄ちゃ―――んんっ⁉ うーーーん‼」


恐らく今の話を聞いてリーナ姉は俺のために怒ってくれようとしたのだろうが、これ以上は話が進まなくなってしまうため後ろを向いたまま彼女の口を右手で塞ぎ


「ほら、質問にはちゃんと答えたぞ。まさかとは思うが次はなんで俺が家出をしたのか? なんて聞いてくるわけじゃないだろうな。もしそうだっていうなら、速攻でこの手を即離すぞ」


「んーーーんぅ‼ うぅーーーん‼」


「我が妹ながら全く何を言っているのか分からん……が、お前が今言ったような質問をしたが最後、今度こそ本当に殺されかねないことだけは分かる」


流石のクソボケ兄貴でも100に1回くらいは物分かりがいいようだな。


できればそれを毎回発揮してくれるとこっちも助かる……いや、それはそれで色々と困るな。


「分かればよろしい。ということでもう一度聞くぞ。なんであそこまで必死になって俺を探していた? まさかお前らのせいで無茶苦茶になった俺の情緒を心配しての行動でもあるまいし、大方予想はついているけど万が一という可能性もあるしな。兄としての名誉挽回の可能性も考慮して一応聞いてやるよ」


そう言った瞬間、奇跡的確率で2/100を引き当てでもしたのかアベルは『合点がいった‼』とでも言わんばかりの表情を浮かべだし


「はぁ? えっ、もしかしなくてもさっきからずっとお前の機嫌が悪いのって、俺とエメが付き合っていることを知って自分の姉を取られたことに対するヤキモチからきてたのか⁉」


「………………」


あーあ、俺もうしーらね。


「だとしたら申し訳ないが、正直それに対するフォローをするためにお前のことを探しまわっていた訳ではなくだな」


「んん゛っーーーー‼ ん゛あぁーーーー‼」


「って、なんだよイリーナ。そんな今にもぶっ殺してやるみたいな勢いで喚き散らしやがって。確かに俺とエメの関係に関しては当分の間坊主には秘密にしておくって話だったけれど、バレっちまった以上隠しておく必要もないだろうが。だいたい姫様達もだけどよ、いくらなんでも坊主に対して過保護すぎんだろ?」


「………………」


それでいくとお前は馬鹿すぎんだろ。


いい加減この状況のヤバさに気付けよ。


ついでにそろそろリーナ姉のことを抑えておくのがキツイくなってきたことにも気付いて、その的外れな言葉を吐き続ける口を今すぐ閉じてくれ。


「ん゛ーーーーん゛ぅ‼ ん゛ああああーーーーー‼」


じゃないとお前、本当に実の妹に殺されかねないぞ。


「そりゃーさ、坊主の家庭環境だったり生い立ちには同情するけれどよ、コイツだって年齢的には十分大人の端くれ―――ッ⁉」


時間にしてコンマ数秒。


されどコンマ数秒。


しかしそれだけの時間があれば十分すぎるというもの。


これ以上はマズいと判断した俺はリーナ姉と体がくついていることを活かし、勝手に彼女の魔力を拝借。


からの例の隠し武器庫から呼び出したムラサメを今できる最速のスピードで抜刀、そのままアベルの首元へと刃を振りかざした。


しかしあっちはあっちで腐ってもウチの騎士団団長を務めているだけはある。


人が付与してやっている防御魔法ありきではあるものの、咄嗟に自身の左腕でそれを防いでみせた。


「最後にもう一回だけ聞くぞ? 何しにお前はここへ来た? もし次、的外れな返答をしたらリーナ姉の代わりに俺がお前をぶっ殺す」


これはわりかし有名な話、というよりかは知っている人は知っている現象だが


自分の中にある怒りの感情以上のそれを第三者の人間が相手にぶつけているのを目の当たりにすると、『何もそこまでする必要はないじゃないか』という同情の気持ちが無意識のうちに生まれるというものが存在する。


しかし今のリーナ姉にとってこれしきのことではまだ足りない可能性があるため、続けてアベルに対して向けている殺気をどんどん高ぶらせていき


「お前にコイツを見せるのは今回が初めてだから知らないだろうが、刀の名はムラサメ。製作者は俺であり、能力としては使用者の殺気が高ぶれば高ぶるほど…こういう風に水気が増していく」


「………………」


「ちなみに通常時はこんな風にただ霧が発生しているだけの状態だが、こいつの温度を下げれば」


とそこで言葉を切った俺は少しだけ意識を刀へと向けると、アベルのことを包囲するかのように舞っていた無数の霧が無数の氷の刃へと変化した。


「といった感じで霧の操作は勿論、温度変化及び形態変化も自由自在。使い方次第でこの刀の可能性は無限大。しかも何が凄いって今の俺はリーナ姉によって一切の魔法を使えないどころか、1㎜の魔力すら有していないにも関わらずこの芸当。この言葉の意味、お前なら分かるよな?」


そう言うとアベルは何故か呆れ顔を浮かべながら両手を上に上げ


「はーぁ、悪いイリーナ、前言撤回だ。少なくともさっきの件に関しては全面的に俺が間違ってた。やっぱりコイツは年齢不相応なガキだわ。多分だけど坊主的にこの行動は悪の魔王ではなく、大人な正義の味方気分なんだと思うぞ」


「………………」


「ふふっ、お兄ちゃんの今の発言を聞いてシーちゃんイラっとしたでしょ? も~う、本当に可愛いな私の弟は♡」


そう言いながらリーナ姉は俺が刀を振り回せないよう後ろからしっかりと抱きかかえてきた。


ここで俺が大人しく引き下がれば全てが丸く収まるとまでは言わないまでも、取り敢えず話が一歩前へ進むことは間違いないだろう。


しかしああやって周りの大人達は納得しているにもかかわらず、自分だけは何も理解できていないという状況ほど面白くない状況はない。


それもお互いの年齢が近いともなれば尚の事。


その為俺はかなりきつめに拘束されているのもお構いなしに本気でジタバタと暴れながら


「ふざけんな‼ なに二人だけで納得してんだよ‼ 第一、俺の行動のどこが悪の魔王だったってんだよ! その理論で言ったらさっきリーナ姉に怒られた時に言われた話と矛盾してくるだろうが‼」


「坊主がここまで感情的になるなんて珍しいな。まあこうやって怒りの感情を素直に出せているってことは良いことなんだろうけどよ」


「お兄ちゃんはいつまで寝ぼけたことを言っているわけ? どう考えてもここ数日の間に生まれた怒りの感情をシーちゃん一人では上手く外に吐き出せなかった結果、今こうして爆発してるんでしょうが。せっかく私がゆっくりとそれを解消していってあげようとしていた最中に、どこかの誰かさんが火に油を注ぐようなことをするから」


先程までのいがみ合いはどこへやら。


口では相変わらずいがみ合っているものの、構図としてはまるで一番下の弟が駄々をこね始めたのに対してお兄ちゃんとお姉ちゃんの二人が『仕方がないなぁ』といった感じでこの場を収めようとしているような状態である。


それがまた俺の癇に障る行動であるのは言わずもがなだが、逆にこの会話の間に生まれた僅かな時間はこちらにとって絶好のチャンスとも言えた。

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