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第199話:三角関係?

そんな面白くない時間を過ごすこと約10分。


待ち合わせの相手ではないものの、顔見知りの女性が一人つまらなさそうな表情を浮かべながら校門に向かって歩いてきていたため何となくそちらに目線を向けているとあちらもそれに気が付いたのであろう。


上流階級の中でも最高位に属する人間らしく校門のど真ん中を通過するつもりで進めていた歩みを、他人に不信感を抱かせない堂々とした態度でそれの端っこに陣取っている俺達の方へと変更した。


それに加えて先程までのものとは一変、自身の立場に相応しい上品な笑みを浮かべている。


対してうちの元お嬢様にして護衛騎士様は一切表情を変えることなく、未だに俺が着ているコートの襟を掴んだまま。


この段階でなんのアクションも起こさなかった時点で分かってはいたが


「ご無沙汰しております、ソウジ陛下。陛下がここにおられるということはどなたかと待ち合わせなどでしょうか?」


マリノ王国の貴族ことリディお嬢様が大変品位のあるご丁寧な挨拶をしてきたにも関わらず、我が国の国王はというと勝手についてきた女のせいで相変わらず品位どころか威厳もへったくれもない格好である。


「こちらこそご無沙汰しております、リディ様。ええ、ちょっとスロベリア王国のアラン様と約束をしておりまして。といってもこちらが急にご連絡をしてしまったもので、流石にそんな状況で学園側に入校許可の手続きをお願いするのは気が引けますからね。こうして校門前で彼が出てこられるのを待っていたというわけです」


「そうだったのですね。……もしよろしければ私が校内を案内がてらアラン様のところまでお連れいたしましょうか?」


こんな間抜けを目の前にしてもなお態度を変えないどころか、初めて触るはずなのにも関わらず嫌な顔一つせずに俺の左手を自身の右手で優しく握ってきた。


ちなみに今の俺は昔から人の顔色や気持ち、感情を伺うのが癖だったのに加えてミナによる王族教育のおかげでそれに関してはかなりの自信がる。


つまり今の彼女の心情及び言動は一部を除いた全てが裏表のない本心であると断言できる。


まあこの人は元々そういう人間性の持ち主なのであろうことは初対面の時点で何となく察しはついていた。


それがこうして実際に自分で相手をすることによって今回確信へと至ったが、間違いなくティアは祝勝パーティーが行われたあの日に気付いていたであろう。


もちろん自国のお姫様であるミナやそのメイド兼貴族のリア、アベルも知っていたはずだ。


しかしその事実を俺に教えてくれた者は一人もいない。


どこの世界にもいい性格をしてる奴ってのはいるもんだな。


とはいえそれ自体が悪いとは言わないし、現にミナ達の件に関しては全く気にしていない。


別の件に関しては若干イラっときていはいるが……。


「大変魅力的なお誘いではありますが、得意気に気配を消したつもりになって私達が敷地内に入ってくるのを今か今かと待っておられる方々をまとめて相手にするのも面倒なのでここで大人しく待たせていただきますよ」


今のこの発言。


俺はワザと声色を低くした以外に二つほど嫌みの意味を込めて言わせてもらった。


そして彼女はそれをしっかりと理解してくてくれたらしい。


観念いたしましたという感じを全面に出しながら


「流石はソウジ様、こちらの狙いなど全てお見通しというわけですか」


言葉の白旗をあげた。


と同時に誰かに対して『確かに約束は守りましたわよ』と言いたげな表情を一瞬見せたのち


「いくら学園長に頼まれたこととはいえ…ソウジ様を学園側がご用意した下らない罠へと誘導を試みるという大変失礼な言動を取ってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした」


謝罪の言葉とともにお淑やかに、しかし俺個人に対して誠意を見せるためか深く頭を下げてきた。


………ここまでの反応を見るに学内見学という名目で俺達が敷地内に入った瞬間、不法侵入者とみなした蛙の手下どもが攻撃を仕掛けてくる手筈であった。


というこちらの予想は大正解。


んで、そいつらがなんの計画性もなくバラバラの配置についているにもかかわらず『一々相手にするのが面倒くさい』ではなく『まとめて相手にするのも面倒くさい』という発言の意味をちゃんと汲んでくれた。


そう考えて良さそうだな。


………見つけた、あいつか。


「別にこちら側は何とも思っておりませんのでお気になさらなず。大方学園長含め皆様私のことをご存じなかったり、話では知っていても真偽の程が分からず……といったところでなのでしょうし」


こっちの世界のお偉いさん達も各々の情報網なり収集システムをお持ちのようだが、当たり前のことながら地球のそれとは比べ物にならない程ちゃちな精度なもの。


それに加えて新聞という社会情報誌はあれど地球でいうスマホや写真・動画に似た物を使用しての媒体があるわけもない。


となれば情報不足に陥るのも必然。


いつの時代も本当に信じられるものは己の五感で実感、体験したもののみ……と。


なんて考え事をしながら今回の主犯であるここの学園長とやらにちょっとした仕返しをしてやろうということで、念話の応用とテレビ電話のイメージを組み合わせて作ったオリジナル魔法で相手に俺のことを強制知覚させてやること十数秒。


流石はこの世界に存在する唯一の学園長を務めているだけはある。


見た目は完全にロリガキなのにも関わらず、生意気にも所詮はこんなもんかと言いたげに勝ち誇ったような笑みを浮かべやがった。


………じゃあ、これはどうかな?


そう心の中で問いかけると同時にほんの少しの。


分かりやすく例えるならば羽虫と同程度と言っても過言ではない程までに微々たる魔力を転移魔法で奴の血管の中に送り込んでやった。


ちなみにこの時点では違和感を感じている様子は一ミリも見られなかったが、間髪入れずに次の一手を打った瞬間。


目の前にある窓へと左手をつきながら右手では自身の口を抑え始めた。


しかしそんなものが意味をなすこともなく、先程までの余裕さはどこへやら。


無様にゲロを吐き始めた。


醜い顔が更に醜くなってておもし―――


お山の大将へのちょっとした仕返しが成功したことによって少し心の中がスッキリしたのも束の間の事。


方法は謎だが間違いなく人の心の声を勝手に聞くなり、読むなりしたのであろう。


今俺が着ているシャツの襟が結構な勢いで後ろへと引っ張られた。


「うぇっ!」


正直今更そんなことをされたところで苦しさを感じたりはしないものの、やはり気を緩めていると反射条件でこれまで通りの反応をしてしまうらしくそんな気の抜けた声を出してしまった。


ここで普段の俺なら『なにしやがんだ‼』くらいは言ってやるところなのだが、もう片方のお嬢様はお嬢様で


いくら権力者による命令だったとはいえ他国の国王に迷惑を掛けたともなれば今後のことに頭を悩まし、人によっては不安から怯えていてもおかしくないはずだというのに……。


「先程も申し上げた通り私は学園長に例の計画の一端を担うことをお願いされ、それを自身の意思で決行したことは嘘偽りのない事実です。ですがそれと同時に私のソウジ様に対するこのお気持ちも…下心や打算など一切ない完全に私個人による恋心です」


謝罪時同様、彼女の威風堂々とした姿は健在。


それどころかこの状況下でもなお俺の左手を離さず告白をしてくるような強メンタルの持ち主である。


そんなマイカと同等かそれ以上の人間相手にどう立ち回ったものかと、苦虫でも噛み潰しているような気分で次の一手を頭の中で巡らせていると


こっちはこっちで未だに人の首根っこを掴んでいるユリー・天上天下唯我独尊・シャーロット元お嬢様が喧嘩上等。


『ソウジ様にとっての私とあなたの間にある圧倒的立ち位置の差を違いを教えて差し上げますわ』


そう言わんばかりな気持ちを抑え込んでもなお、滲み出ている感情が表情や声に若干現れている状態で


「最近取得されたばかりの技を使いたくて仕方がないお気持ちは分かりますが、あれを無闇に使うのはお止めください。それがどれだけ危険なものなのかは考案なされたあなた自身が一番お分かりのはずですわよね?」


と俺に対する小言+自分の主に対する理解度自慢みたいなことを言ってはいるが、それは表向きの発言。


実際のところは


『私はソウジ様がここの学園長に対して何をなされたのかの全てを視認及び理解できましたが、あなたはどうなのですか? まさかと思いますが肝が据わっているだけが取り柄のそこら辺によくいる量産型お嬢様と同じ人種ではありませんわよね?』


が正解である…と思う。


その証拠にあっちはあっちで無駄にでかいFIX窓(はめ殺し窓)の目の前で四つん這いになって苦しそうに息を乱している学園長と、先程までそいつと何らかのを話していたアランがいる部屋の方へ冷たい視線を向けているし。


ちなみに今はこっちに向かって笑顔で手を振っていたりする。


「チッ、手なんか振ってないで早くこっちにこい馬鹿が」

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