第198話:学園内の蛙大海を知らず
さて、現在俺は非常に気分が悪い。
ちなみにこの気分が悪いというのは体調面ではなく気持ちの面でである。
その為その原因を今すぐ排除してしまえば万事解決なのだが、残念なことに先程からずっと無言のユリーによって後ろから首根っこを掴まれているせいでそうもいかない……というのが現状。
ということで約束の相手が来るまでの暇つぶしも兼ねて先週一週間(後半)の振り返りといこう。
【5月17日(金曜日)】
ぶっつけ本番・無茶ぶり討論会をなんとかやりきる。
以下略。
【5月18日(土曜日)】
宿屋にてユリーの売り言葉に買い言葉でリゼが持ってきたワインを一気飲みした結果、フェインの過剰摂取及び軽度の急性アルコール中毒により病院へ強制搬送。
その後婆ちゃんによって緊急招集された城内メンバー全員+リサ・ミリー・ユリーの専属護衛騎士が3人。
それからヴァイスシュタイン家直属の特殊部隊所属にして専属護衛でもあるリゼ・ロゼの2人。
合計17人からの様々な視線を強制的にベッドに寝かされ点滴を打たれているこの身一つで浴びながら、診察結果および今後の生活についての説明を聞かされた。
ちなみに当然のことながら婆ちゃんからは
『カフェインの摂取に関しては当分の間禁止。エナジードリンク、栄養ドリンクなんかは以ての外。コーヒーや紅茶、チョコレートなんかのお菓子も全部駄目だからね』
と釘を刺され、エメさんからは
『元々コーヒーや紅茶といった飲み物に関しましては子供達の為にカフェインレスの物もご用意しておりますし、普段から毎日のおやつにも気を使っているつもりです。ですから旦那様が仰ってくださればいつでも同じものをお出しいたしますし、もしご希望がございましたら可能な限りそちらに沿わせていただきます。その代わりもし今度私達の目を盗んで今お医者様から禁止されたものを少しでもお口にされたとなれば……この先は言わずともお分かりですよね?』
約束を破ったが最後、生活の三大要素として挙げられる衣食住が一つ。
食の自由がなくなりますよと遠回しに言われた。
というか脅された。
【5月19日(日曜日)】
昨日は最悪家に帰れないことも覚悟したが夕方にはある程度落ち着いたのと、明日一日は絶対安静を条件に帰宅を許された。
ちなみに絶対安静とは
病気人や怪我人(重症)を外部からの刺激を避けさせ、寝たまま動かさず平静な状態を保たせること。
もっと言うと食事、排泄、洗面、はみがき、寝返り等あらゆる場面で患者自身の力をできるだけ使わせないことを意味する。
つまり実際は自宅安静で問題ないはずなのだが、正直にそう言ってしまうと俺が婆ちゃんの言い付けから勝手にワンランク下げた生活をしかねないと判断したうえでの発言であったのであろう。
だからといって注意されたその日のうちからそれをしていまうと翌日の自分の首を絞めることになることは自明の理。
ということで自室に戻った後はエメさんに言われるがまま大人しくベッドで横になり、出された夕食を黙って食べ、お風呂・歯磨きへと続き最後はまだ20時にも関わらず強制就寝。
~翌朝~
自分では大丈夫な気でいたのだが実際はかなり疲れが溜まっていたり、体にぼろがきていたのであろうか。
世の小学生よりも早い時間に寝たにも関わらず自然と目が覚めたのは朝の8時過ぎ。
スマホの時計を見た時は約10時間も寝ていたのかと少し驚いたが、どうせ今日は一日部屋で自由にゆっくりするつもりだったし、たまにはいいかと思ったのも束の間。
『おはようございますご主人様。目を覚まされたばかりで恐縮ですが、本日は私がご主人様を独り占めする番……んん゛っ。今日は私が24時間付きっ切りで看病いたしますので、何かございましたらお声がけください』
などと意味の分からないことを寝起き一発目で宣言してきたリアによって、限りなく絶対安静に近い軟禁生活を強いられた。
という中々に濃い週末を送りつつも、無事新しい週を迎えられた私は今日も真面目に一限の講義を受けに大学へと行って参りました。
そして次の五限(16:40~)が始まるまで暇な……仕事熱心な俺はこの世界に唯一ある学校兼マリノ国内へと来ている。
ちなみに現在の時刻は16時40分。ウチの大学の五限が始まる時間も16時40分。
これ五限始まってますね、はい。
あとで出欠カードだけ出しに行かないと。
なんてことはどうでもよくて……。
まず初めにこの世界で一番大きい国はどこかと言うと国土・人口ともに他国とは圧倒的差をつける形でマリノ王国がトップに立っている状態だ。
まあそんなお国だからこそ世界唯一の学園が存在しているわけなのだが…そんなところに一般人が日本のそれと同じ感覚で簡単に通えるわけもなく、在籍する生徒は各国の王族貴族のみなのは当たり前。
ということで校門前には『いかにもお迎えに参りました』みたない従者と馬車があちこちに止まっていたり、それにお上品に乗り込む貴族のお坊ちゃん・お嬢ちゃんがいたり。
隣接する学生寮へと向かっている生徒の姿がちょくちょく見えたりする。
いくら待ち合わせの為とはいえそんなところに部外者2人が、しかも揃って訳ありな奴らが上流階級の皆様が通われる学園の校門前で突っ立っているともなれば
上級階級という括りの中でも最上位に属するのであろう人間やそれの関係者から奇異の目を向けられる俺と、貴族のガキ・従者のジジババ問わずほぼ全てのゴミ共から軽蔑の眼差しを向けられているユリー。
という非常に気分の悪い状態にもなりますわね。
その為先ほどからずーっと腸が煮え返るほどの怒りを抑え込みつつ、誰がやったのか分からないようにこっそりと
しかし片っ端から仕返ししてやろうと目論んでいるのだが、相も変わらず俺はユリーに待てを食らっている状態である。




