第190話:裏世界の頂点に立ちし者の素顔
この国の墓地へと転移してきたと同時に用心棒見習いの言う通り二代目がここにいることはアイツの魔力で分かったため俺はそれを頼りに歩きながら
やっぱりこっちの世界の墓石は海外風の物なんだなとか思っていると明らかにこの場には不釣り合いな、しかし俺からしてみればよく見慣れた形の墓石の前でしゃがみ線香に火をつけているレオンがいたため
大人しく後ろで待っていようかと思った瞬間、別に立ち上がるわけでもなければ顔をこちらに向けてくるわけでもなくそのまま目線は墓石の方を見ながら
「お前の大事な嫁と家族が待っているであろう家に帰らずこんな国の端っこに来るなんて…よっぽど家に帰りたくないらしいな。ウチの連中の誰かに俺の居場所を聞いた時一緒にマリノのお姫様が俺達全員に対して頭を下げにきたっていう話でも聞いて不貞腐れてんのか?」
「はあ? なんだそれ? んな話一ミリも聞いてねえぞ」
「なんだ違だうのか。ってことはさっきのお粗末な討論会について怒られるのが怖くて家に帰りたくないって方が正解か。お前も結構可愛いとこあるじゃんか…ええ? まあ、もしまだ親父が生きていたのならそんな未熟者のお前のことをすんなり認めてくれてたかどうかは知らねえけど……なあ、親父?」
はーーーぁ、なんでこうも人が疲れてる時に限って頭を使わなきゃいけない物言いの仕方をするかな。
取り敢えずマリノのお姫様は間違いなくミナのことだろ? んで、今二代目が口にした親父が誰のことなのかだけど…親父という呼び方に加え目の前にある墓石に向かって今度は問いかけるようにその名前を呼んだってことは十中八九…初代のことだろうな。
認めるどうこうってのは恐らく娼館・男娼に関する全権利がこの国のトップに移ることを言ってるんだろうけど、なんで俺が直々に伝説の喧嘩師(異世界転移特典持ち)の許可を貰わなきゃいけねんだよ。
………んなの怖くて絶対に嫌だね‼ ってことで絶対にあり得ないとはいえいきなり俺達の前に化けて出てこられても困るので話を前者の方へ逸らそう。
「おい、一人で感傷に浸ってエモい雰囲気出してるところ邪魔するようで悪いけどちょっと一つだけ教えろ」
「………別に質問に答えてやるのはいいけど…本当に一つだけでいいのか?」
「ああ、いいね、問題ないね、ノープロブレムだね。お願いだからこれ以上余計なことを喋らないでくれ」
そう早口で捲し立て、未だに態勢を変えることもなく真っすぐ墓石を見つめている二代目を一旦黙らせてから続けて
「お前がさっき言ってたミナが宿屋の関係者全員に対して頭を下げた云々って話。あれはいったいどういうことだ?」
「どういうこともなにもウチの従業員20人に対してどこぞの陛下がイキって直々に『あとは俺が何とかするから任せておけ』みたいなことを言った日…つまりはお前がマリノのお姫様から了承を貰おうとする前日に来たぞ」
「はあ? なんで―――」
「どうせ『なんでミナの奴がその時点で俺達の計画を知ってるんだよ?』とか言いたいだろ? 答えは簡単…内通者がいたからだ。もちろんヴァイスシュタイン側のな」
まるで何かを急ぐかのように突然人の言葉を遮ったかと思えば、『さて、ここからは答え合わせだ』みたいな悪役さながらな喋り方をし出した瞬間
とてつもない殺意を纏った…勘違いでもなんでもなく殺気ではなく寸分の狂いもない且つ、金色のオーラにより具現化されたそれを身に纏ったミナが近くの木陰から現れたかと思えば静かにこちらに向かって歩いてき
何故か俺の右手を優しく握ってきてから…しかし声色や口調はそれとは真逆のイメージ通りのもので
「少々お約束が違うのではないでしょうか、レオン様?」
そんな彼女の問いに反応するのかのように…否、警戒を超えてこちらも臨戦態勢であることが伺える雰囲気を出しながら…その場でゆっくりと立ち上がった。しかし奴は引き続き背中をこちらに向けたまま
「失礼なお姫様だな、おい。俺はまだ約束を破っちゃいないぞ? まだ、だけどな」
「私個人としましては…これ以上はあまりお喋りにならないことをお勧めいたしますが、そのご様子ですと私の忠告は無意味といったところでしょうか?」
えっ⁉ なにこれどういう状況? マジで一個も分かることがないんだけど。取り敢えずあれか、俺もポーカーフェイス魔法を使って最初から分かってましたけど感出しとくか?
引っかかったな馬鹿が‼ みたいな顔でもしとくか?
なんてふざけたことを考えることによって咄嗟に平常心を保っていたのも束の間のこと。
咄嗟に平常心を保とうとしたということはつまり自身の潜在意識が危険を察知していたからであり、それによるある種の防御反応であったことを比喩でもなんでもなく全身全霊に思い知らされるには優に足りえる
これぞまさしくこの国の裏の頂点に立ちし者に相応しい且つそれを裏付けるかのような
いったいどれだけの…極悪非道などという言葉では生易しいほどの行為を繰り返せばそんな風になるんだと
今自分が置かれている状況など関係なしに聞きたくなる程までに恐ろし表情を浮かべながら体を180度回転させてき
「お宅の旦那がまだまだ未熟ゆえにアンタがあそこで俺のことを脅しにきた気持ちは分かる。分かるし、実際現在進行形どころか未来永劫レベルで圧倒的に不利なのは間違いなく俺だ」
「………………」
「しかしこの絶望的に不利な俺にも一つだけやれることがある」
この言葉を聞いた瞬間、俺は頭の中で
『いったいアイツはどれだけ凄い魔法を隠しているんだ?』
『それとも今日初めて見たこの本気のミナをも余裕で凌ぐ攻撃方法ないし、戦術を持っているとでもいうのか?』
など兎に角相手を物理的に攻撃する方法を思いつく限り考えていたその時、まるで圧倒的捕食者のような目で俺のことを見つめてき
「たとえマリノ王国が第一王女、ミナ・マリノが相手であろうとも、アンタを含めた周りの人間が過保護すぎるが故にその隣で的外れな事ばかり考えているソウジ・ヴァイスシュタインの心をぶっ壊すことぐらい…アンタに殺されるまでにあるであろうコンマ何秒かで十分だね」
「その過保護というお言葉…今すぐ撤回していただいてもよろしいでしょうか? なんせ私達はソウジ様のことを過保護にしているわけではなく、ただ単に年齢相応な接し方をしているだけでありそんな言われようをされる筋合いも覚えもありませんので。それから…頼み事ばかりで申し訳ありませんが万が一あなたを殺す場合、あと何秒ほど死ぬまでの時間を縮めればよろしかったかだけ教えていただけますと幸いなのですが」
もう一段階二代目に対する殺意を高めながらそんな言葉を発しつつも、逆に俺の右手を握っているミナの左手からは更に安心させられるような何かが流れ込んでくるような感覚を得たことで
ほんの少しとはいえ頭の中が冷静になったことにより、今の自分が目の前の男に恐怖しているだけでなく手が震えていることに気が付くことが出来たものの
クッソ、なんで俺はコイツに対してこんなにビビってるんだ?
いったい何にビビってるってんだよ⁉
俺が前国王達を皆殺しにする前ないし、ティアと二週間掛けて行った修行直後だっていうなまだ分かる。
まだ分かるが今の俺はそんな心身ともに弱い昔の俺とは違うし、何よりマイカによる精神的支えがあったとはいえスロベリア奪還作戦という人生初の戦争だって自力で乗り越えて見せたんだぞ!
それだけじゃない!
ほぼ毎日行っているティアとの模擬戦のおかげで間違いなく俺はコイツに勝てる‼
何ならかすり傷どころか返り血の一滴すら浴びずに殺せる自信がある‼
なのになんで俺の体は自分よりも弱い者に対して恐怖で固まり、震えている?
何故声を出すことすらできない⁉
「流石に自分が殺されるまでに掛かる時間が何秒までなら反撃が出来て、何秒を切ってこられると無理だとかを真剣に考えたことはないから少し考える時間をくれっていうのが正直な返事なんだが、そっちはそっちでかなり限界みたいだし…ここは一度日を改めてってのはどうだ?」
今の自分が置かれている状況はおろか何一つ理解できていない……否、二代目に対する恐怖心のみが明確に分かる…強制的に分からされているところに更に追い打ちを掛けるかのような目を向けられたことにより
「――――――ッ‼」
という悲鳴にすらなっていない…ただ息を吸い込んだだけの情けない音を出したというのにそんな俺の隣にいるミナはというと
まるで『私達のソウジ様はあなたみたいな雑魚など相手にならないどころか眼中にすらありませんので』みたいな表情をしながら
「ご心配なく。私達の旦那様にしてこの国の国王でありますソウジ・ヴァイスシュタイン様はご自分が大切だと思っている方々…つまりはヴァイスシュタイン家の関係者の皆様の為だけに国王宣言された男性ですよ? そんな彼の愛おしいお嫁さんが敵の目の前にいるっていうのに―――」